コロナ禍で「地方型」注目 長崎IR事業者公募 HTBに利点も 隣接地区住民「合意ない」

県がIRの誘致先とするハウステンボス。IRを整備・運営する事業者の公募が近く始まる=佐世保市

 長崎県が近く開始するカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の事業者公募で、国内外の事業者が着々と参加の準備を進めている。世界的な新型コロナウイルス感染拡大で経済の先行きが不透明となる中、少なくとも7者が関心を示す。本県の「地方型IR」は整備費の抑制と投資の早期回収が見込めることなどを背景に注目度が高まっている。
 県は2019年秋、佐世保市のハウステンボス(HTB)に誘致するIRのコンセプトを募集。3者が事業参加を表明した。20年11月には別の1者が参入を発表。新たに米国やアジアを拠点とする3者が関心を寄せていることも分かった。
 誘致を目指す他の地域では徐々に事業者が絞られつつある。大阪府・市では、7者が意欲を示したが、公募への申請は米大手のMGMリゾーツ・インターナショナルのみ。和歌山県では3者がアピールしたが、応募は2者だった。今後公募する横浜市では「本命」と目された米最大手のラスベガス・サンズが撤退。米大手のウィン・リゾーツは同市の事務所を閉じた。
 コロナ禍で、事業者が重視するのが採算性だ。大阪府・市の誘致先は人工島の夢洲。鉄道などのインフラ整備も必要で事業者に求める投資額は「1兆円規模」。横浜市は山下ふ頭に誘致予定で、同等の投資額になると予想される。
 一方、県は事業者からのヒアリングを基に、建設投資額を最大4600億円と試算。IRに詳しいある業界関係者は「コロナで大勢の観光客を集めにくい状況になったが、初期投資を抑え、富裕層を着実に誘客できれば採算が取れると考える事業者は増えている。その中で観光資源が豊富な九州に位置する本県のIRに目が向けられるようになった」と解説する。
 誘致先のHTBが、テーマパークとして既に完成されていることも事業者には利点と映る。IR整備が決定した場合、事業者は敷地内約31ヘクタールの土地、建物を205億円で購入する計画。ある事業者は「インフラが一定整っているし、ホテルなど既存施設も活用できる。初期投資を抑え質の高い建物を造れる」と評価する。
 国が求める「地域の合意形成」でも本県は優位とみられている。横浜市では市民団体がIRの是非を問う住民投票条例の制定を市に直接請求した。本県で反対活動はうねりにはなっておらず、ある事業者はこの点も参入を決めた理由の一つと明かす。ただ、HTBに隣接する江上地区自治協議会の原徹男副会長は「生活環境に悪影響を及ぼすならば認められない。現時点で『地域の合意』はない」とくぎを刺す。
 県は「参加者が増えれば競争性が高まり、より優れた計画が提案される。1者でも多くの申し込みを期待している」としている。

 


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