【特集】コロナ禍でも「食で世界を感じて」 『世界の台所探検家』 約20カ国訪問 「食は必ず笑顔生む」

特集は「世界の料理」です。新型コロナで海外との往来が難しくなった今、「食で世界を感じてほしい」と発信する、長野市出身の女性がいます。およそ20カ国の「台所」を訪ね歩いた、その名も「世界の台所探検家」です。

世界の台所探検家・岡根谷実里さん(ヨルダン) 提供:岡根谷さん

手際よく料理を作る、長野市出身の岡根谷実里さん。料理レシピサイト「クックパッド」の社員ですが、もう一つの「顔」を持っています。

中東・パレスチナの難民キャンプのごちそう、牛とヤギの頭のグリル。

タイ北部の少数民族・アカ族の野草料理。

岡根谷さんは自称「世界の台所探検家」です。

世界の台所探検家・岡根谷実里さん:

「毎日必ずやってくるんですよ、食べるって。そこで必ず笑顔を生むことができるってすごいなって」

コロナの影響で、長野市の実家で「在宅勤務」をすることが多くなった岡根谷さん。趣味の「台所探検」に行けなくなった代わりに執筆活動へ。これまでに訪ねた中から、16カ国の滞在記やレシピをまとめた本が出版されます。

世界の台所探検家・岡根谷実里さん:

「(コロナで)世界が分断されてしまうような漠然とした不安を持ってるんですけど、だからこそ、当たり前の暮らしの息づかいを感じられたら。私たちと同じようにご飯を食べている人達がいるって感じられたら、うれしいなって」

「探検」の出発点はケニア。東京大学で土木工学を専攻した岡根谷さんは、国際協力の道を志し、国連のインターンとしてケニアの工場建設に携わりました。

開発が進む現地。しかし、それを歓迎する人ばかりではないことを知ります。

世界の台所探検家・岡根谷実里さん:

「道路が通ることで、逆に人の生活が壊されてしまうということを経験したんです。(現地の人が)怒ったり悲しんだりしているんですよ。そんな中で、みんなが笑顔になるときがあって、それが夕飯の時だったんです」

人々を笑顔にしたのは、トウモロコシの粉で作った主食に、ケールやカボチャの葉を使った素朴な料理でした。

世界の台所探検家・岡根谷実里さん:

「思い通りにならないことっていっぱいあるけど、誰もが自分の手で自分の周りに笑顔を作れて、料理ってすごいと思ったし、もっと笑顔を生んでいる台所、料理のことを知りたいって」

卒業後、「クックパッド」に就職。食の楽しさを発信する出張授業などの仕事をする一方、「台所探検」を続けました。

“台所を覗けばその国の暮らしや社会が見える”岡根谷さんは2、3カ月おきに休暇を取っては、自費でおよそ20カ国の家庭を巡りました。

世界の台所探検家・岡根谷実里さん:

「英語のわかる人もいれば全く通じない人もいるんですけど、おいしいって言うとすごく喜んで、ぎゅっと抱きしめてくれたりします。『おいしい』って、相手の文化を体に取り込んで、それに対してポジティブな本能の反応を返すことだから、喜んでくれる」

思い出の料理を再現してもらいました。

世界の台所探検家・岡根谷実里さん:

「スーダンの『バミヤ』という料理。『バミヤ』自体がオクラっていう意味で、オクラのシチューです」

2018年に訪れたスーダン。政情は不安定でしたが、街行く人は優しかったと言います。

世界の台所探検家・岡根谷実里さん:

「危なくないの?って言われるけど、街を歩いていると、この国を訪れてくれたからって何でもくれようとするんです。パオバブの実をあげるよ、ジュースあげるよとか」

市場で特に目に付いたのがオクラ。「煮込む」「細かく刻む」「粉にしてとろみ付けにする」など、現地の人々には欠かせない食材です。

世界の台所探検家・岡根谷実里さん:

「まるごと煮込む時は、鉛筆のように頭を削ってこれで煮込むんです」

タマネギ、ニンニクをみじん切り。

世界の台所探検家・岡根谷実里さん:

「台所にはご近所さんがやってきたりして、イスラム教の国で女性が自由に出歩けないので、“集う場”だったり、“おしゃべりできる空間”だったり」

炒めたタマネギ、ニンニクに牛肉を加えて煮込みます。

世界の台所探検家・岡根谷実里さん:

「柔らかくなってきたところで、オクラを入れて」

トマトを入れてさらに煮込みます。味付けは塩こしょう。香辛料の「コリアンダー」も入れます。

よく煮込めば完成。現地では雑穀・ソルガムで作った「練りがゆ」と一緒に食べます。

(記者リポート)

「とろっと存在感があって、材料は日本でもなじみのあるものばかりですけど、調理法やスパイスで異国の雰囲気を楽しめます」

そして、もう一品。コロンビアでは休日になると家族みんなで飲むという「チョコラテ」です。滞在先の高校生・カリナが教えてくれました。

世界の台所探検家・岡根谷実里さん:

「(作るのは)みんなが集まる時、彼女の言葉を借りると『スイートな時間なんだよ』って。ちょっとのこだわりで、自分たちの楽しい時間をつくっているところが面白いなって」

カカオ豆の産地・コロンビアには、「チョコラテ」を作るためのチョコバーが大量に売られています。これを溶かし、モリニージョという道具で丁寧に泡立てます。

岡根谷さんはココアで代用。牛乳でホットココアを作り、ミキサーにかけると近い味になるそうです。欠かせないのは、トロっととろけるチーズ。

(記者リポート)

「あわあわと一緒にトロっとしたチーズが口に入ったんですけど、その塩味もすごく合いますね」

世界の台所探検家・岡根谷実里さん:

「(カリナと)最近連絡を取ったんですよ。『(コロナで)休校が続いている』と。(チョコラテを)毎朝作れるの?って聞いたら、『そう、毎朝作れるの』ってうれしそうでした」

コロナ禍でも、人々は食べ、食卓にはきっと笑顔が…。

「台所探検」ができる日を待ちながら、岡根谷さんは世界の食卓を感じてほしいと、日本人向けにアレンジしたレシピをエッセイなどで紹介しています。

世界の台所探検家・岡根谷実里さん:

「食ってすごく楽しいし、食って世界を旅できちゃうんですよね、家にいながら。本を通して世界の暮らしがちょっと近くなったらいいなって」

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