若いがん患者が「後悔する決断」をするリスクを減らしたい。高校生でガンになった医師たちはLINEを開設した

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あなたがもし若い時期にがんだと診断されたら、どうやって向き合うだろうか。

近年、メディアでも取り上げられるようになった15〜39歳の「AYA世代」のがん。

AYA世代の特徴は、就学、受験、就職、結婚など、ライフスタイルの変化が多いことだ。人生の節目節目に、がんにまつわる「悩み」に直面する。

そんな、医療では解決しきれない「答えのない困難」へのフォローを目指した医師がいる。

自らも高校生で悪性リンパ腫を患った経験のある、東京都立小児総合医療センターの小児血液・腫瘍科医の松井基浩さん。2020年11月、「AYAがんの医療と支援のあり方研究会 (AYA研)」の活動の一環で、AYA世代のがん患者向けに情報を提供するLINEアカウントを作った。

「答えのない困難に直面したとき、一人で答えを出すことは難しい。でも正しい情報を得たり経験値を共有したりすることで、答えを見つけやすくなる」と話す松井さんに、話を聞いた。

「後に後悔を生じるような大きな決断をしてしまうリスク」

AYA世代の特徴は、ライフスタイルの変化が大きいことに加え、患者数が少なく、情報が得づらいことにある。

2017年全国がん登録によると、AYA世代のがん患者数は全体の 2.2%(男性の 1.2%、女性の3.5%。上皮内がんを除く)。松井さんは「同じ病院にAYA世代は数人しかいないという状態。他の人はどうしてるんだろう、と思っている人がほとんどでしょう」と話す。

国立研究開発法人国立がん研究センターなどの研究班も、AYA世代のがん患者に関する対策が必要だと指摘。2020年11月にまとめた提言書で、周囲に同じ状況の人がいないため情報が得づらい上、「大きな節目が同時進行となるなかで、冷静ではいられない状態で後に後悔を生じるような大きな決断をしてしまうリスクがある」としている。

患者へのアンケートでは、経済的な厳しさにより治療を変更・断念したり、偏見を感じたりする場面が一般のがん患者より多いことなどが分かっており「より厚い支援体制の必要性を示している」と結論づけている。

学習の遅れ、就職、妊娠出産…AYA世代が直面する「答えのない困難」

AYA世代が直面する悩みは幅広い。

復学時の学習の遅れをどうするか、就職するときに病名を伝えた方がいいのか、自分の妊孕性についてパートナーにどう伝えるか、まだ小さな子どもに自分の病気をどう伝えるかーー。私生活に深く関わっており、1人ずつ状況は違う。答えは簡単に出ない。 松井さんは言う。

「私はこうした悩みを『答えのない困難』と呼んでいます。答えを導き出すためには本人にとても負荷がかかる。人生の中でも流れの早い時期なので、悩みを抱えたままで仕事や家庭や恋愛に関する様々な決断を迫られ、うまく決断ができない恐れがあるのです。ただ、医療がその部分を支えるのは限界があります」

例えば妊孕性(妊娠しやすさ)温存については、治療開始前に必ず話す必要があり、情報提供のタイミングはある程度決まっているという。

しかし、患者会や就職に関する情報、パートナーとの関係性などに関しては、人によって興味関心を持つ時期などが大きく違う。

そのため、「一番大切なのは、ご自身が『知りたい』と思ったタイミングで、正しい情報に簡単にアクセスできること」と松井さんは強調する。

今はインターネットで検索すれば多くの情報が出てくるものの、一つ一つが正確か、新しい情報かを判断したり、知っておくべき情報に繋がったりすることは簡単ではない。

そんな中、気軽に登録できて自分のペースで情報を検索できるLINEアカウントは、情報提供の方法としてぴったりだと感じ、開発した。

「知っておいてほしい」ことも情報提供可能に

LINEアカウントはAYA研が作成。松井さんが責任者を務めた。

使い方は簡単だ。LINEアカウント(@ayaken)を検索し登録すると、「興味のある情報があれば、以下のフレーズを返信してください」と、利用方法が送信されてくる。「AYA世代がん患者さんに会いたい→患者会」「将来こどもができるか心配→妊娠出産」など18項目。「学校」「恋愛・結婚」「性生活」「里親制度や養子縁組」など、AYA世代だからこそ直面しやすい悩みも取り上げている。

例えば「妊娠出産」と送信すると、相談窓口や妊孕性についての日本がん・生殖医療学会の解説ページ、妊孕性温存に関するパンフレットなどのURLが送られてくる。どの情報も、松井さんらが情報の正確性、ニーズやわかりやすさ、見やすさを重視して選定し、AYA研でチェックを行っている。

「知っておいてほしい」という項目が目次のように送られてくるため、自分で想定していなかった情報にもアクセスできるきっかけになること、運営側から情報を送れることも利点だ。

「ひとりじゃない」と全員が思える社会に

松井さん自身、周囲からの情報に助けられた経験がある。高校生で悪性リンパ腫を患った際、小児がん病棟に入院していたため、周りにいる若い患者たちから刺激を受けて前を向けたという。その後若年性がん患者団体『STAND UP!!』を立ち上げて活動する中でも、困っている時に周りの話を聞き、自分なりの答えにたどり着く人を見てきた。

その経験から、松井さんはこう断言する。

「困難に直面した時、人によって出す答えは違います。でも正しい情報を得たり経験値を共有したりすることで、答えを見つけやすくなるのは確かです」

「困難を乗り越えたり、受け入れたりする過程には苦しさがあると思います。でも、全国のAYA世代がん患者さんの経験とつながることができれば、同じような経験をしたのは決して自分だけではないと感じられるはず。多様性のあるAYA世代がんではありますが『ひとりじゃない』と全員が思える社会になることを目指してこれからも活動していきたいと思っています」