性的画像問題「競技の魅力伝えるのが本質」 競泳の田中雅美さん 連続インタビュー

 競泳女子平泳ぎの一線で活躍し、2000年シドニー五輪400メートルメドレーリレー銅メダリストの田中雅美さん(42)は20年11月のインタビューで、性的画像問題への対策について「大会を控えている時期にかかると被害を訴える時間が取りにくい」とアスリートの声を代弁した。その上で「周りはそういうことが起きないように訴えかけていくべき」と関係者へサポートを呼び掛けた。スポーツコメンテーターとしては、「美人アスリート」といった外見ではなく、スポーツの感動と本質を伝える重要さを説いた。(共同通信=鎌田理沙)

インタビューに答える田中雅美さん=2020年11月16日、東京都港区

 ▽五輪控え被害を認識

 ―この問題に対しメディアで何度か言及されていますが、ご自身のお考えを改めて聞かせてください。

 私たちが現役の頃から、そういう問題がないわけではないが、選手たちが立ち上がるという考えは浮かばなかった。自分たちがまだ学生で、発言力っていうものを持っている感覚がなかった。ただ時代も流れて、会員制交流サイト(SNS)の普及や、被害がひどく進んでしまっているという現状もあった。(JOCが対策に乗り出して)ここまで来られたということは、すごく大きな一歩だと思う。

 ―最初に声を上げたのは、陸上の選手でした。

 とても勇気がいることだったと思います。名前が出ることによってそこで検索もかかって、自分が傷ついたことをまた開かなくてはいけないにもつながる。今後、女子アスリートたちが本当に競技に集中できる環境につながれば良いなと思います。

 ―ご自身の現役時代のことを教えてください。

 自分に何が起きたかと言うと、当時話題のオリンピアンとか、女子の写真の中に自分も載っていて、それが競技をしている写真じゃなくて。あとは今も顔の画像を替えてというのが問題になっていると思いますが、似ている人が写っている写真が掲載されて「田中じゃないか」と。全然違うのに。 

2000年シドニー五輪女子400㍍メドレーリレー決勝で力泳する田中雅美さん

 ▽声上げられず

 ―競技しているところではないけれど、撮影されたのは競技場でしたか。

 そうです。プールサイドでの水着姿の写真だった。競技場って結構無防備だったりするし、当時の写真は結構、露出もありました。

 どうして声を上げなかったかって言うと、約20年前って事務所に入っているわけでもないし、肖像権が自分にあったわけでもないので、自分の写真をどう扱うかを自分が認識してないんですよね。まだ勉強不足で時代もあったと思うんですけど、「協会が管理してくれるもの」という程度の認識でした。

 管理外のところで起きたものと。雑誌も承諾をもらって載せていた訳ではなかったと思う。正規の取材申し込みがなかっただろうから、どこに何を言っていいかもわからないし。それで声を上げなかったのだと思います。

 ―雑誌にそういった写真が載っているのは、気付いていたのですか。

 コンビニとかで手に取って、表紙に名前がちらっと載っていてなんだろうと。二度か三度かありました。

 ―大会前が多いんでしょうか。

 そうですね。なぜ声を上げなかったかにつながるのですが、夏に向かって本番に向かってトレーニングしている最中に声を上げるとなると、それだけこのことを考えなくてはいけない。現役中に無駄なことをしたくなかったというのはあります。費やす時間があるなら練習した方がいい。

 気にしないっていうことも、トレーニングみたいな感覚だった。もし本当に立ち上がったら、それについて取材を受けることになっただろうし。その後そういう目で見られるっていう負担もあるじゃないですか。今だったら検索されちゃうとかね。成績以外でメディアに出ることが、選手にとっては本意ではないと思うんですよね。

 だから「美人スイマー」「美人アスリート」とかで載せていただくことが好きな子もいると思うけど、本来であればやっぱり競技で評価してほしいし、そこに集中したいのがアスリートの考えだと思う。

 ―そういうページを見るのはどういう気持ちでしたか。

 恥ずかしい、の、ひと言ですよね。あと多くの人に見られたくないなって気持ち。例えば家族や友達が見なきゃいいなって。

 ―20年前のお話しでも、詳しく覚えられている。

 ただ時代的に、その雑誌の販売期間が終われば目にしなくなったので、それほど気にしなくて良かったんじゃないかと思います。雑誌だったので、今みたいにオンラインじゃなくて発売が終われば終わるので。もしかしたら今はオンラインでそれがずっと残っていたら、また見られたら嫌だなと思っていたんではないでしょうか。

 ▽「盗撮罪」創設を

 ネットの普及により被害は深刻化し、隠し撮りされた写真や動画は、裏で売買されているものもある。悪質な行為に対しては刑法の「盗撮罪」創設を求める動きもあり、客室乗務員への乗客による撮影行為が問題となっている国内の航空業界は2020年9月、法務大臣宛てに「盗撮罪」創設の要請書を提出した。

 ―自分の競技とは関係ない部分で性的に撮られて、それを売ることで利益をあげている人がいることは、どう思われますか。

 深く考えていなかったですね。自分自身がそんなに手に取ってもらっているとも自覚していなかったんですが、考えてみればそういうことですよね。オリンピック選手のそういうところを見たいって。

 ただ考え方によってはそういうものも含めてプロという、そういう環境でもメンタル面で強くいられる人が競技でも成功して、結果を残していくのかなと。泣き寝入りという意味じゃなくて、それを気にしないぐらいの強さを持った選手。

 もちろんその周りがそれを求めるのではなくて、周りはそういうことが起きないように訴えかけていくべき、規制をかけていくべきなのだけども。選手自身が強く、どう戦うかと世界に目を向けてほしいなと。

 まだ年齢が若い学生の選手達もいる中で、どれだけ自分が自分の肖像権とかを意識しているか。そういう子達を守ってあげないといけない。大人の選手は意志を持って言えるかも知れないけれど、若い人が傷ついて競技に向き合えなくなるというのだけは避けたいですよね。

2004年アテネ五輪女子200㍍平泳ぎで優勝したビアード選手(左)と抱き合う4位の田中雅美さん

 ―「女性アスリート特集」に対しては、複雑なお気持ちですね。

 水泳って、泳いでいる間はそういう写真って撮れないと思うんですが、スタート台や泳ぎ終わった後。20数年前はいろいろ問題が起きたこともあったようで、それで規制がかかったと思うんですけど。

 私が大学生くらいの時は学生選手権とかそういう大会では自由に写真を撮って良い時代だった。しかし、女性のお手洗いで盗撮があったんですよ。それが問題になって、家族や学校側も申請した人じゃないとビデオ撮ったりできなくなっていきました。

 ビーチバレーとか規制がまだされていないところだと、一般の方と選手との近さがあると携帯でも十分撮れてしまう。友達のビーチバレー選手も言っていました。本当に本格的なカメラでも撮る人もいるらしい。

 ▽スポーツコメンテーターとして

 ―スポーツ選手が性的な目線で見られているんだと、気付く瞬間はありましたか。

 自分が現役当時、幼かったからかあまり意識してこなかった。自分がどれだけ注目されているかの自覚がなかったんですよね。今はSNSでメッセージなどあるじゃないですか。そういう写真さえも、最初は注目してくださっているからなのかなっていう感覚でした。

 ただ、どんどんエスカレートしていって、水着のきわどいものとか、それはやっぱり恥ずかしいです。泳いでいる写真だけだったらありがたいと思うんですが、やっぱり性的な目線が入ったものは。自分が恥ずかしいと思うきっかけは、水着の上からも胸の位置が分かるとか、そういう目線が明らかに出ているのが分かったとき。

 選手の中には水着のウエストにタオルを巻いてインタビューを受けたりする人もいるんですが、もしかしたら中には嫌な思いをした人がやっているのかもしれない。

 ―2000年に開かれたシドニー五輪の前にそういうものをご存知になったのですか。

 1996年のアトランタの時もあったかもしれないですが、あんまり自覚はなかったです。本当にシドニーの時に記録が上がって、スイマーとして世界で戦えるという時だったのにそういうのが増えてきて。

 ―周りの方も少なからず傷つく。

 そうですよね。そういうことがあって競技を好きでなくなったり、辞めてしまったり。

 ―今、スポーツコメンテーターとして気をつけられていることは。

 もちろんそういう「美人アスリート」など注目されることで競技への入り口になるのはいいと思うんですが。「注目選手を伝えるのはいいんだけど、必ずその日の現場のトップ選手の名前を出す。成績、どういう競技かを出してほしい」と、伝えています。

 例えば今日は田中が3位で、じゃあ1位は誰なのか言わないのは本当に失礼だと思うんです。「美人アスリート」みたいな看板が、競技への入り口になるのはいいと思うんですが。取材されているアスリートとしても、競技をやっぱり見てほしいと。そういう取り上げ方だと、優勝は誰だったの?って思いますけどね。

 あともう一つ、結果はもちろん良い方が良いし、メダルもすごく大事だけど、それだけじゃない。選手がどれだけ努力しているかを伝えられるツールでありたいです。『メダルは何個ですか』『この人はメダルとれますか』という話には、私はできるだけ違う言い方をさせてもらうことが多いです。その人がベストパフォーマンスをすれば(メダルも)十分可能性はある。ベストパフォーマンスをして欲しい、っていうことを言っています。

 ―取材ではどういう聞き方をしていますか。

 個数とか聞かれると、とても多く書きます。でも99パーセント難しい場合もあるじゃないですか。そこはその選手がここでこれを残す、すごさみたいなものがあるので、そこをお話しするとか。どれだけそこに立っていることがすごいかっていう。オリンピックに出るのはもちろん、この種目であることのすごさを。

 分かりやすく言うと、競泳の池江璃花子ちゃんについてまず知って欲しいのは、複数種目でオリンピック代表になることだけでも今まで聞いたことないでしょって。どれだけすごいことか分かりますかと。しかも短い距離でフィジカル的にも厳しい種目に挑戦している。決勝に残るだけでもすごいことなんですよと説明しています。伝える側はメダルだけでいいっていうことじゃない。その方が選手も力を出せると思うんですよね。

 ―メダルの個数はすごい気にされる。

 でもね、私が引退してから15年なんですけど、すごく変わったと思うんですよ。それはたぶん選手達の魅力を伝えるものが多くなったってのもあるし、本当に応援の形が、ちょっとずつですけど変わってきたと思いました。

 私が引退した時の方がメダルの色などへの目が強かったんですけど。印象に残っているのは浅田真央ちゃんがフリーで転倒してしまったけど、フリーで6位だろうがすごい記憶に残っていません?あのときの涙は結果じゃないなと。そのシーンを見る目がちょっとずつ変わったと思う。東京五輪でもそういう風に伝えたいと思う。

インタビューに答える田中雅美さん=2020年11月16日、東京都港区

 ―伝える側で活動するうちに、感じるところがあったということですか。

 競技の面白さを純粋に伝えるメディアのツールと、テレビでとバラエティ化したものがあった時に、バラエティを通じて見てくださる方が増えた気がします。でも競技を知って欲しいのに、バラエティに寄りすぎて競技を伝え切れていないのは違うんじゃないかと。

 すごく一生懸命努力をしていて、感動するわけじゃないですか、スポーツって。それを伝える方法を色々、みんなやっているだけ。きっかけ、入り口として。本当のところ、根本でぶれたくないですよね。

  ×  ×  ×

 田中 雅美(たなか・まさみ)競泳平泳ぎの第一人者で五輪は96年アトランタ、00年シドニー、04年アテネの3大会連続で出場。シドニー大会の400メートルメドレーリレーで銅メダルを獲得した。現在はスポーツコメンテーターとして活動。中大出。42歳。北海道出身。

 【関連記事】

・性的画像問題「全力で守ってあげて」 バレーの大山加奈さん

https://this.kiji.is/719365978188627968?c=39546741839462401

・性的画像問題「嫌だと思いながら演技」体操の田中理恵さん

https://this.kiji.is/719371745769095168?c=39546741839462401

・性的画像問題 [カメラに違和感、 声上げる現役選手 ビーチバレー坂口佳穂さん ](https:// https://this.kiji.is/719384366613430272?c=39546741839462401)

https:// https://this.kiji.is/719384366613430272?c=39546741839462401

© 一般社団法人共同通信社