性的画像問題 カメラに違和感、 声上げる現役選手 ビーチバレー坂口佳穂さん 連続インタビュー

 ビーチバレー女子の坂口佳穂選手(24)は、性的な画像を無断で撮影、拡散される問題に関して「嫌な思いをする子が少しでも減ったら」と、現役トップクラスの選手の1人ながら自身の被害を告白した意図を2020年10月、インタビューで明らかにした。「問題を認知してもらって、会場とかでもそういう人を見たら声を掛けるなど、そういう輪ができていけば」と、若い世代として声を上げると同時に、周囲への理解やサポートの重要性を指摘した。(共同通信=鎌田理沙)

インタビューに答えるビーチバレーの坂口佳穂選手=2020年10月23日、川崎市

 ▽声上げたきっかけ

 ―今回は、インタビューに快く応じていただきましたね。

 自分も嫌だなって、思っていたことだったので。諦め半分だったのですが、もう一回考える機会になりました。私たちの世代だけじゃなくて、学生たちも標的になってきていて、嫌な思いをする子が少しでも減ったらなと思いました。そのためにも発信していけたらと。

 ―坂口さんが、被害に遭っていると気付いたのはいつごろでしたか。

 ビーチバレーを始めた当初、大学生のころです。「しょうがない、水着だし」という周りの空気感はありました。プレー中もイラッとしますが、気にしていたらしょうがないと、ごまかし続けていました。

 ―写真を撮られていることに気付いたのは。

 最初はネットの検索で知りました。「こういうのはいつ撮っていたんだろう」とだんだん試合中にも気になるようになった。試合中によく見てみたら、変な人がいると気付きました。

 ―プレー中に気付くとは、すごいですね。

 ビーチバレーって、コートと観客席が近いんです。サーブゾーンへ行く時にパッと携帯で撮られたり、向かい合う時に携帯を出されたりとかする。私じゃない人が撮られていて、後ろから見た時に、アップしているのを見ると嫌だなって。

2019年7月、潮風公園で行われたビーチバレーの東京五輪テスト大会

 ▽親や兄弟の指摘も

 ―試合中に撮られた画像をSNSで見つけてしまうのですね。

 そうです。最初の方は自分で検索して目について、親や兄弟にも「こういうのが上がっていたよ」と言っていました。

 ―親には知られたくないでしょう。

 直接「嫌だね」とかは言われたことはなくて。どう思っていたかは分からないですが、自分が親だったら嫌だなって思います。ただ、話したこともないし、元々自分も話したくない。

 ―ネット上で、一番嫌だったのは何ですか。

 傷付くというか、むかつくんです。「嫌だ」と思ってすぐに見るのをやめます。無視みたいな感じでやっていました。これが一番嫌だというより、もう全部おかしいから、全部嫌です。

 ―ツイッターのダイレクトメッセージ(DM)機能などで、画像などが送られてきましたか。

 あります。DMやコメントの内容がおかしいんですよ。「不適切な内容」でクリックしないと見られないので見るのはやめようって。添えられている言葉とかもおかしい。

 ―被害に遭っているのに、「格好がいけないんじゃないか」というコメントも。

 「ん?」って思いました。そもそも水着がユニホームだし。規定を変えて欲しいとも思わないし、撮られる側の問題といわれるのも分からない。こっちは真面目に競技していて、そういう風に見ているのはその人たち。競技者にそう言ってくるのは違うんじゃないかなと。いろんな意見があるのでしょうが、そう言われても納得はしない。

インタビューに答えるビーチバレーの坂口佳穂選手

 ▽「水着」だからと言われたくない

 日本オリンピック委員会(JOC)は2020年11月、声明を発表し、情報収集用の窓口を開設するなど対策に乗り出した。問題解決へまずは一歩を踏み出した形だ。

  ―陸上の選手が何人か被害を訴えたことをきっかけに、JOCを中心に対策に乗り出すことになりました。

 すごくありがたい。上からみたいな言い方ですけど、良い傾向だなって思います。声を上げてくれたことによって、JOCとかが目を向けてくれた。これから改善されていくんじゃないかな。

 ―今まで声を上げづらかった理由は。

 「嫌だな」と思っていても、「仕方ない」と思ってしまうんですよね。怖かったんでしょうね、多分。そういうふうに見られたくないし、「水着だから」って言われたくない。いざ言われるとこっちも、感情的になってしまうので、そうなりたくなかった。

 ただ、純粋にビーチバレーをしている姿がかっこいいとか、見たいと思って写真を撮ってくれている人も多分いると思うので。規定といっても難しい。

 ―初めからこういう被害があるって知っていましたか。

 競技を始めてから知りました。まさかこんな写真が出回っているとは。

 ▽グラビア的な撮影に戸惑い

 競技成績とは直接的には関係ない「美人アスリート」特集など、人を外見の魅力で差別する“ルッキズム”は、スポーツの場にも存在する。しかし特集の中には当事者が許可していないものも多く、ネットに拡散されると半永久的に残ってしまう。

 ―取材で嫌だったことはありますか。

 私は基本的に、グラビア関係は嫌なんですよ。カメラマンさんにも会社を通じて(意向を)伝えてもらっていたんです。それでも水着で寝そべったところのカットがあって。最初は断りづらかったのですが、それも嫌だったなあって思います。水着だからそういう風なポーズをさせたのかなって思います。

 ―スポーツと関係ないのに、グラビアポーズを要求されることもある。

 やりたいっていう人ももちろんいると思うので、それはもちろん。でも(個人的には)取り上げ方は、ちょっと思うところがありますよね。

 ―グラビアOKの人もいるし、嫌な思いをする人もいる。

 勝手に載せられるのって、世に出ちゃったらもう消してもどうしようもないじゃないですか。そういうところはおかしいですよね、規制が甘いというか。海外はそういうのを罰することができるから、そんなに多くはないと聞いています。一人一人の肖像権などに関して、規制した方が良いんじゃないかと思います。

ビーチバレーの坂口佳穂選手=2020年10月31日撮影 東京都立川市(提供写真)

 ―スポーツと、性的な魅力は切り離せないと思いますか。

 難しいですよね、受け手の見方とかもあるからなあ。その選手、その人がどういう自分でありたいか、どういう自分を表現したいかっていうところでしか見られないのかな。見られたくないのであったら見られないためにも、やるやれることはやったほうがいい。

 ―受け手としても、一方的に見て良いものではないとも感じます。

 そうですね、それはおかしいと思います。自分がプレーしている画像をものとして扱われることは、明らかに嬉しくないじゃないですか。私は嫌なのでそれを減らす、させないところなのかな。だとしても、捉え方とかってなると、やっぱ人それぞれすぎて…。

 ▽「ビーチバレーが嫌だ」と思って欲しくない

 問題は最近に始まった話ではなく、人前で競技をするアスリートを長年にわたって苦しめてきた。また被害はSNSの発展により拡大している。一部のトップ選手だけでなく、大学、高校生など学生の競技者にまで深刻な影を落としている。

 ―学生の被害についてはどう思いますか。

 すごく気にすると思います。絶対そうだと思う。だってまだ若いし、いろいろ分かっていない状態でビーチバレーもう嫌だ、やりたくないみたいとなってしまうのは嫌だなと思う。そこはなんとか、どうにかしたいなって思いました。

 ―坂口さん自身、被害が多かったのは。

 メディア露出が今よりもあった時の方が多かったかも。大学生のとき。嫌がらせですよね。

 ―JOCなどに具体的にやってほしいことは何ですか。

 相談窓口よりかは、規制です。その人達にしかできないことなので。このエリアは立ち入り、撮影禁止とか。コートから一番離れているところならOKとか。あとネットとかに上がったものに対して追跡、訴訟などの法的措置をとる。そうやってネットに上げられないようにしたほうがいいんじゃないかと思う。

 ―会員制交流サイト(SNS)の情報開示請求ももっと簡単にした方が良いのでは。

 選手とか撮られている人の肖像権を守るじゃないですが、してほしいなと。

 ―開示請求は本人が求めないとできない。アスリート側の負担にもなる。

 もっと、手続きとかをやりやすくしてくれたらなあと思います。今後のためにこれは良くないっ、ていうのがあればやりたいなと思いますね。

 ―いちいち対応するのも大変ですよね。

 やる人達もゲーム感覚でしてしまう人もいるんじゃないかな。モラル、教育の部分を子どもの時からどう教え込むか、も課題ですね。

 ―そういう人たちに対して何かありますか。

 被害を受ける側の気持ちを考えて、っていう事しか言えないです。そういう当たり前のことが分からないからやるんでしょうけど。

 ―無断で性的な写真を撮られたら嫌に決まっているでしょうに…。

 そういうつもりで競技をしているわけじゃないので、どんな気持ちでネットに上げているのか分からないんですが、すごく失礼ですね。

 こうやって、インタビューに応じたり、情報発信したりしたら、もしかしたら、ちょっとずつかもしれないですけど「そうだね」って言ってくれる人が増えるんじゃないかな。女性だけかもしれないけど、発信する人が増えたりしたらまた、変わっていくんじゃないかなって思うので、今後も頑張っていきましょう。ちょっとずつ。

 ―反応が鈍い人も世の中にはたくさんいます。

 嫌なことは言わないと分からないと思ったので、こうやって「嫌だったんです、嫌です」っていう人が増えていけば。だからメディアは言いやすい環境を作ってほしい。(問題を)認知してもらって、会場とかでもそういう人を見たら、怖いかもしれないですが、声を掛けるなど、そういう輪ができていけばいい。

 ▽ブログでも発信

 ―たしかに、言いやすい環境作りは大事だと思います。

 私たち若い世代が言っていけば、私達より若い子達もこれダメなんだって思ってくれる。

 ―まだ「そっちが悪い」と言われることについては、どう考えていますか。

 自分のブログに軽く書いてみたんですよ。でもコメントは…。全部は見る気を失っちゃって。「頑張ってね」「そういう人ばっかりじゃないよ」っていうコメントもあったんですが。「水着を変えた方がいいんじゃないか」みたいな。こちらに言葉足らずな部分もあったのかもしれないんですが、これぐらい書いて、こんな感じで受け止められるのか、と学びました。

インタビューに答えるビーチバレーの坂口佳穂選手

 見ちゃうよね、じゃなくて。そういうふうに楽しんでも良いとは思いますが、拡散するとかはやりすぎだと思います。性的な目線で見ちゃうけど、よくないよねって思ってくれる人が増えてきてほしい。口に出して、少しでも理解してくれる人が増えていくことを願いながら。

  ×  ×  ×

 坂口 佳穂(さかぐち・かほ)父の影響で小学1年からバレーボールを始め、高校時代に競技から一度は離れたが、2014年の大学入学とともにビーチバレーに本格的に転向した。18年世界大学選手権代表。武蔵野大出。24歳。宮崎県出身。

【関連記事】

・性的画像問題「全力で守ってあげて」 バレーの大山加奈さん

https://this.kiji.is/719376904706179072?c=39546741839462401

・性的画像問題「嫌だと思いながら演技」体操の田中理恵さん

https:// https://this.kiji.is/719371745769095168?c=39546741839462401

・性的画像問題「競技の魅力伝えるのが本質」競泳の田中雅美さん

https://this.kiji.is/719376904706179072?c=39546741839462401

© 一般社団法人共同通信社