「サッカーコラム」さぞ気分の良いオフが送れるに違いない ルヴァン杯で交代策がズバリ的中したFC東京・長谷川監督

柏に競り勝ち優勝を決め、トロフィーを手に写真に納まるFC東京・東(左)と長谷川監督=国立競技場

 新しい年が始まった。これまでにわれわれが経験したことのない状況だが、止まっていた社会活動がまた動き始めた。しかし、サッカーの世界に限っては、年が改まってから休みに入るのが通常だ。高校サッカーは残っているが、通常なら元日の天皇杯決勝で関係者は「お疲れさまでした」だ。ただ、今シーズンに限ってはともにJ1勢の柏とFC東京によるYBCルヴァン・カップ決勝が1月4日に延期されたため、ちょっと遅い冬休みになった。

 天皇杯を制したJ1川崎はもちろんだろうが、FC東京の長谷川健太監督はこれ以上ない満足感でオフを迎えられたのではないだろうか。交代のタイミングを見極めて投入した選手が、期待通りにゴールを奪う。結果的にそれが大きなタイトルマッチの決勝点となる。いわゆる「名采配」でルヴァン杯を制し、シーズンを締めくくることができたからだ。

 交代策のひらめきは、一つのプレーがきっかけとなった。

 「(柏)レイソルの攻勢が一服して、レアンドロのFKがあった。あれが入っていれば違う選択肢があったが、外れたので攻勢をかけたかった」

 1―1の同点で迎えた後半21分、FC東京はゴール正面でFKを獲得。22メートルの距離をレアンドロが右足で狙ったが、ボールはゴールポストの角を直撃して得点ならず。直後の22分に、長谷川監督はアダイウトンと三田啓貴を投入した。

 結果はすぐにゴールとして実った。後半29分、FC東京はセンターライン左からジョアンオマリが前線にロングパス。ボールは柏DF大南琢磨に、一度はヘディングで跳ね返された。このこぼれ球にいち早く反応したのがFC東京のアタッカー陣だった。

 永井謙佑の判断が絶妙だった。まず、ボールが落ち切る前にヘディングでのパスを選択した事。そして、パスを落とした場所も正解だった。柏の2人のDF、山下達也と古賀太陽のちょうど中間にパスを送り込んだのだ。守備側は2人のどちらもが処理できる場所にボールがあることで一瞬見合った感じとなり反応が遅れた。

それとは逆に、出場したばかりで疲労のないアダイウトンの反応は抜群だった。2人のDFの間に割ってはいった俊足のアタッカーは、左足のトーキックでボールをプッシュ。ボールはゴール右に飛び込んだ。このシュートには、さすがの名GK金承奎(キム・スンギュ)といえど、反応するのは無理だった。

 2万4219人を集めて行われた試合は、タイトルマッチにふさわしい緊張感のある内容だった。局面・局面での激しさを物語る音は、観客の声援がない分、スタンドへ直に響いてくる。そのなかで先制したのはFC東京だった。開始16分、柏のDFラインからフィードされたボールをFC東京の左サイドバック小川諒也がヘディングで前方に跳ね返したのが起点となった。

 タッチライン際でボールを収めたレアンドロの選択はドリブルだった。タックルに来た柏MFヒシャルジソンを軽々とかわすと、左サイドからカットイン。立ちはだかるDF大南を右に外すと2人目のDF山下もかわし右足一閃(いっせん)。ボールは、ゴール右に吸い込まれた。

 レアンドロの持っている技術とシュート力。それは試合のMVPに輝いたことでも分かる通り文句のないものだった。加えて、見逃してはいけないアシストがあった。レアンドロがカットインした直後に、FC東京のMF東慶悟がゴール前を右から左へとダイアゴナル(斜め)に駆け抜けた。

 この動きに、カバーに戻った柏のボランチ大谷秀和が引っ張られ、レアンドロへの対処がワンテンポ遅れた。その意味で一見、レアンドロの個人技だけに注目されがちな先制点は、チームの連動で奪った得点といえた。

 タイトルマッチにおいて先制点は大きな重みを持つ。特にカウンターが得意な両チームの対戦だっただけに、得点を奪った後もFC東京がペースを握り続けた。センターバックの渡辺剛とジョアンオマリが柏の最大の武器であるオルンガを挟み込んで前を向かせず、オルンガの相棒である江坂任をアンカーに入った森重真人が封じ込める。

 柏はJ1で3位となる60得点を奪っているが、オルンガ(28点)と江坂(9点)の2人だけでチームの半分以上のゴールを挙げている。この危険な2人のホットラインを分断する。これが、FC東京が勝利するための必須条件だった。

 「波多野(豪)の失点以外はすべてはまったと思います」

 前半終了間際の45分に、左CKからオルンガの肩に当たった山なりのボールをGK波多野が処理をミス。柏MF瀬川祐輔に同点ゴールを許した。試合後の会見で長谷川監督は波多野の名を出して報道陣の笑いを誘ったが、これは2―1の勝利を収めたからこその話だ。試合後、仲間が喜ぶなか、22歳の若きゴーリーは涙を流していた。ミスが失点に直結する責任あるポジション。それを任された将来ある選手が、大きな心の傷を負うことなく試合を終えられたのは、結果として良かったのではないだろうか。

 やっと、2020年シーズンが終わった。開幕前、誰がこんな1年を予想しただろか。余計な気苦労を抱えながら走り切った選手やスタッフ。彼らには、いまはゆっくりと休んでほしい。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

© 一般社団法人共同通信社