【特集】社会を変えるデジタル未来都市「スーパーシティ」構想について片山さつき参議院議員に聞く

【片山さつき氏 略歴】
東京大学法学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省、税務署長、G7サミット代表団員、金融機関監督管理職、税務総務部長のほか、女性初の主計局主計官などを歴任。平成17年衆院静岡7区から初当選。平成22年参院比例代表で自民党内トップの得票数で当選。総務大臣政務官、参院外交防衛委員長、内閣府特命担当大臣(地方創生、規制改革、男女共同参画)、女性活躍担当大臣などを歴任

AIやビックデータなどの先端技術を社会の様々なシーンに実装することで、“まるごと未来都市”を実現して、住民の生活全般を暮らすくする「スーパーシティ」構想を実現するための改正国家戦略特区法(スーパーシティ法)が昨年9月に施行された。12月にエリア(区域)の公募が始まり、今年4月頃には5エリアほどが指定される見通し。このスーパーシティの発案者である参議院議員・片山さつき氏(前規制改革・地方創生・女性活躍担当大臣)にスーパーシティの狙いや今後の展望などについて聞いた。

「日本では少子高齢化の進展で、(社会保障費などの)支え手(労働者)が減り一方、支えられる側(高齢者など)が増えていて、さらに要介護4、5の方が増えた時、支えきれなくなる。ならばテクノロジーで要介護4、5にならずに生涯健康でいる人を増やしていく(ビッグデータなどを使った健康寿命の延伸や未病の取り組み、健康以上を発見するウェアラブル端末の活用など)とともに、支え手の少なさをテクノロジー(ドローン配送、自動運転など)で補おうというのがスーパーシティ構想です。日本は日本人の気質として(支え手となる)単純移民を受け入れる国ではなく、生き残る道はスーパーシティしかありません」。片山氏はスーパーシティ構想の狙いについてこう語る。

そのスーパーシティでは、移動、物流、支払い(キャッシュレスなど)、行政(デジタル行政)、医療・介護、教育、エネルギー・水、環境・ゴミ、防犯、防災・安全の10領域のうち、少なくとも5領域をカバーし、最新テクノロジーを使って生活全般にまたがる都市サービスを提供していくこととなる。

1から新しい街を作り上げる「グリーンフィールド」型と、既存の街を作り変える「ブラウンフィールド」型の2つのタイプがあり、ドバイやシンガポールなど海外の都市ではすでに取り組みが進んでいる(海外の事例は、内閣府「スーパーシティ」構想についての中に記載されている)。

日本国内でも、活用可能なテクノロジーが多数あり、個別領域で、テクノロジーを住民の暮らしやすさにつなげようとするスマートシティなどの取り組みがすでに行われている。しかし、スーパーシティ構想は、これまでのスマートシティなどの取り組みと次元の異なるものだと片山氏は説明する。「スマートシティでは、移動や物流などの領域ごとの取り組みを徐々に広げていく構想だったのに対し、スーパーシティでは最初から複数の分野を広くカバーし生活全般にまたがります」(片山氏)

また、(社会生活にテクノロジーの実装が進まない原因となっていた)規制改革を大胆に実施することも想定されているという。これまでは、事業計画案の検討時に各省庁が別々に調整に入り、その段階で一部の事業が断念されるケースがあった。しかし、スーパーシティでは内閣府が加わって規制改革を含む事業内容を一体的に検討、その内容を各省の調整前に公表することで、各省の検討が同時・一体・包括的に進められるように後押しするというのだ。

「スーパーシティに決まった後は、内閣府の担当者がつき、どの規制が緩和されなければいけないかなどを詰めて、『最終的にこれらの規制緩和をお願いします』と国家戦略特区諮問会議に出し、一体的に審議します」。そして認められれば、総理が関係省庁に要請し、進めざるを得ない状況になるのだという。

なお、自治体が構想を申請するにあたり、関係者で構成される協議会、議会、住民投票などで区域住民の合意を確認する必要があるそうだ。「オプトイン(本人から事前にデータ使用の同意を取得する方式)という方法もあります」(片山氏)

5エリアの決定後は、国が23億円の予算で、システム構築費など100%支援していく(オープンクラウドのためハード費用などがなく安価な構築費でできる計画だが、足りなければ増額される模様だ)。

一方、うまくいった、あるエリアの構想を、ほかのエリアにも広げやすくするために重要となるのが、API(システム間の接続仕様)が公開されていること。だが、これまでの行政のシステムはベンダーが異なり、相互接続が難しい面があった。そこでスーパーシティ法では「オープンAPI」が必須要件として盛り込まれた。これにより、あるエリアで成功したシステムを導入したい自治体は、システムを若干修正(つまり低予算)するだけで導入できるようになり、全国各地への広がっていくことが期待できる。

内閣府資料より

コロナ禍で明確になったデジタル化の遅れ

スーパーシティに対する関心は、コロナ禍や、菅総理がデジタル化推進を掲げたことでかなり高まっている。「コロナ禍で、国民がデジタル化の遅れに気がつきました。今年5月頃には、全国に1741ある自治体のうち10程度が応募するのではないかと考えられていましたが、現在(12月中旬)、50〜60の応募があると予想されています」(片山氏)

また片山氏は、「菅政権が誕生してデジタル化が大きな目標になりました。スーパーシティはデジタル化の最たるものだから、先に手を上げたほうが、いいアドバイザーやコンピューター会社がついてくれるのではないかと思い始めた市町村が増えた。公募はおそらく3回程度は行われるので、来年以降の再チャレンジに備えて、手を挙げているところもあるのではないか」と分析していた。

このほか、アーキテクト(スーパーシティで提供される医療・介護、教育、環境・ゴミ、防犯など様々なデータのプラットフォームなる「都市OS」などの開発・管理責任者)などがいることが応募要件の一つにあることから、現在、アーキテクトの募集を行なっている自治体もあるそうだ。

片山氏は「選定されなくても、公募してくる自治体は、住民の生活を向上させようと熱心なところばかり。その熱意を削いではいけないので、スーパーシティに選ばれなくてもスマート政策で支援してあげられないかと政府全体で考えるようになっています」と話していた。

新潟県内での動きは?

新潟県内ではこれまでのところ、応募した自治体はないが、スーパーシティ関連でこれまでに全国30近くの自治体を回った片山氏は今年8月、新潟市も訪れ、市議会議員にスーパーシティ構想を説明し意見交換を行なった。「その時に議員の方々が『新潟市は合併を重ねた市で、山から海まであり課題が区ごとに違う。しかし、ある区でやって、ある区でやらないというのは非常に難しい』と聞きました。であれば、公募は3回程度行われる見通しなので、新潟市は第2段以降で応募していただければいいのかなとその時感じました」(片山氏)。

また、片山氏の祖母の実家は糸魚川市にある青海神社の宮司で、糸魚川市とは縁が深い。こうしたこともあり、糸魚川市の例もあげていた。「糸魚川大火では遠縁に当たる平安堂も含め駅前の一角が消失したが、今は綺麗に再興している。作り直した街なので、道路や電柱や看板などに国産センサーを取り付けて、自動運転が行う取り組みなど、やりやすいのではないかと感じます」(片山氏)。さらに、スマート農業などを例にあげ、「新潟県には期待しています」と話していた。

なお近隣県の自治体では加賀市(市が住民説明会を実施)などが先行しているという。

昨年8月、内閣府は、企業や各種団体が有する知見や先端技術を生かした取り組みを幅広く発信するバーチャルブース「スーパーシティ・オープンラボ」を開設し、スーパーシティ構想の実現に取り組む全国の自治体を、技術的な側面からサポートしている。

内閣府でも、スーパーシティ構想の区域指定への応募を検討する自治体からの個別相談を受け付けている。

【関連サイト】
・内閣府「スーパーシティ」

・「スーパーシティ・オープンラボ」(facebook)

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