前田幸長氏が指摘 巨人残留のエース菅野は「心を整理しきれていなかったのでは」

昨季、ソフトバンクとの日本シリーズに登板した巨人・菅野(右)

巨人からポスティングシステムでメジャー移籍を目指した菅野智之投手(31)の残留が正式決定した。現役時代にロッテ、中日、巨人などで活躍した本紙評論家の前田幸長氏は、エースの責任感の強さを指摘。その上で今季の菅野に〝迷い〟を晴らす投球を期待した。

【前田幸長・直球勝負】正直に言えば、意外な結論だった。メジャー移籍を目指していた菅野は今季も巨人でプレーすることになった。元日に渡米した時点で、ついに長年の夢がかなえられると思った人は多かっただろう。私もその1人だが、菅野の心中には〝引っ掛かり〟があり、本人にしか分からない迷いがあったのではないだろうか。

米メディアでは、年俸などの条件面で各球団の提示内容と菅野サイドの要求がかけ離れていたこともポスティング不成立の一因として伝えられている。確かに代理人を介せばメジャー移籍もビジネスの場となり、シビアな駆け引きが行われるのも当たり前。ただ、菅野自身が「カネ」を重視していたとは思えない。

ちょっとクサい言い方かもしれないが、菅野には「ジャイアンツ愛」が多分に残されていたような気がする。自身とチームには課せられた宿題があった。悩みに悩んだ末に、ひとまず夢を封印する決断をしたように思えてならない。

昨年はプロ野球史上初の開幕投手からの13連勝を達成する大偉業を成し遂げ、チームもリーグVへ導いた。しかし、日本シリーズでは2年連続でソフトバンクに1勝もできず4連敗する屈辱を味わった。誰よりも責任感の強い菅野のことだ。エースとして打倒ホークスを果たすべく残留の道を選んだとしても不思議ではない。

かつて巨人から松井秀喜や上原浩治が海外FA権を行使し、メジャー移籍を果たした。彼らはいずれも一時代を築き、やり残したことはないと気持ちを整理した上で海を渡った。かくいう私もメジャーのマウンドこそ立てなかったが、現役晩年に「最後に憧れの舞台へ挑戦したい」との思いから巨人を退団し、レンジャーズとマイナー契約を結んだ経験がある。

今オフ、巨人側の親心からポスティングを容認されて背中を押される形になったが、今回の苦渋の決断からもうかがえるように、菅野は心を整理しきれていなかったように思う。

残留が決まった以上、今季もジャイアンツで無双の投球を見せてもらいたい。その右腕でチームをリーグ3連覇、ならびに9年ぶりの日本一へと導いてから、再び夢と向き合うのも悪くないだろう。(本紙評論家)

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