<社説>米連邦議会占拠 民主主義を取り戻そう

 1月6日は「米国議会史における暗黒の日」(ペンス副大統領)として刻まれた。トランプ大統領の支持者が米連邦議会議事堂に乱入し、一時占拠したからだ。

 しかも支持者の暴徒化を扇動したのがトランプ氏本人である。民主主義に対する攻撃は断じて認められない。次期大統領のバイデン氏には難しいかじ取りが待つが、民主主義を取り戻すべく最善の努力を尽くしてもらいたい。

 混乱の原因はトランプ氏が大統領選の結果を受け入れなかったことにある。「選挙に不正があった」という根拠のない主張は司法の場でことごとく退けられた。それでも「選挙は盗まれた」などと繰り返し支持者に語り掛けた。

 6日は新大統領の当選を正式に認定する手続きが連邦議会で行われていた。

 それに合わせてトランプ氏が集会を支持者に呼び掛けた。さらにSNSで発信した「議事堂まで歩こう。私も行く」というトランプ氏の一言が騒乱の引き金になった。

 国民一人一人の意思によって代表を決める選挙は民主主義の根幹である。それを否定し、暴力によって結果を覆そうというのであれば国家は成り立たない。群衆をあおるトランプ氏は「米国第一主義」から「トランプ第一主義」に変容したかのようだ。

 メキシコ国境への壁建設や中国との“貿易戦争”など、トランプ氏の4年間は分断と排斥を繰り返した。自身に都合の悪い報道にはフェイクニュースとレッテルを貼った。

 その積み重ねが支持者の暴徒化、5人が亡くなるという最悪の事態を招いた。議会占拠を受け、政権幹部が辞任し、共和党重鎮からも批判が上がった。議会から憲法に基づく罷免要求もあり、トランプ氏はようやく敗北宣言といえる声明を発表した。

 あまりにも遅い表明だ。国民の判断に率直に従えば、無用の混乱は避けられた。大統領職を退いたとしても、民主主義を危機に陥れたトランプ氏の責任追及は免れない。

 一方でトランプ氏を支持した米国民が7300万人以上いたことの背景にも目を向けなければならない。支持者の核は経済構造の変化に取り残されたと感じる中西部の白人労働者層だという。豊かな都市部との経済格差、エリート層や政治家への不満が根底にあるとされる。

 これは米国に限った話だろうか。欧州でも米国発の「一部のエリートが世界を支配する」という陰謀論を信じる人々がいる。日本でも特定の国や民族への中傷を繰り返す者がいる。分断を図る人々の矛先は差別という形で沖縄にも向けられる。

 米国の民主主義は危機的状況にあるが、自由と正義という良心がなくなったわけではない。コロナ禍による閉塞(へいそく)感や経済格差、既存の権威への反感など課題は山積するが、それを乗り越える力が米国民にあることを信じる。

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