自宅で健康状態を非接触モニタリングして早期対応。積水ハウスが顧客宅で実証を開始

 モバイル専門の調査研究機関であるMMD研究所が、スマートフォンを所有する20歳から59歳のビジネスパーソンの男女2,169人を対象に、7月に実施したインターネット調査「2020年 コロナ禍におけるビジネスパーソンの生活実態と副業に関する調査」によると、約67%ものビジネスパーソンが「新型コロナウイルスの影響で在宅時間が増えた」と回答している。

 自宅で過ごす時間が増えたことで、家族と過ごす時間や趣味に費やせる時間ができた、通勤ストレスが軽減したなど、ポジティブな意見もみられる一方で、生活習慣が大きく変わったことでストレスを感じている人も多い。特に感染後の重症化リスクが高いといわれる高齢者や疾患を持っている人の不安は計り知れない。

 例えば、滋賀医科大学が2017年に発表した推計によると、日本の脳卒中の年間発症者数は年間約29万人。その内の約8割近い人が家の中で発症しているという。

 脳卒中は、命に係わる急性疾患。発症から4.5時間以内であれば「t-PA」という有効な治療薬の投与も可能だが、実際には年間約1万5千人もの人が発見の遅れによって住宅内で死亡していると推計されている。また、心疾患や溺死、転倒や転落など、自宅内での死亡者数は年間約7万人にも及ぶという。コロナ禍で人との接触も少なくなり、病院への通院や受診もはばかられる中、例年よりも、発見の遅れによって深刻な状況に陥ってしまう可能性は高い。

 11月から全国で発生している新型コロナウイルス感染症の「第3波」の中、自宅時間をいかにストレスなく過ごすか、そして住宅内でいかに健康的に過ごすか、不安を少しでも軽減するためにも、健康管理をモニタリングする重要性はますます高まってくるだろう。

 そんな中、住宅メーカー大手の積水ハウス<1928>が、首都圏の同社顧客が入居する戸建住宅30棟で生活者参加型の実証実験を開始して話題となっている。その実験とは、世界初の急性疾患早期対応ネットワーク「HED-Net」パイロットプロジェクトだ。

 「HED-Net」とは、住宅内で住まい手のバイタルデータを非接触で検知・解析し、急性疾患発症の可能性がある異常を検知した場合に緊急通報センターに通知、オペレーターが呼びかけにより安否確認し、救急への出動要請、そして救急隊の到着を確認し、玄関ドアの遠隔解錠・施錠までを一貫して行うという、世界初の仕組みだ

 同社が掲げる「人生100年時代の幸せをアシストする家」として、2019年に発表した「プラットフォームハウス構想」の先駆けとなるもので、首都圏で同社の戸建て注文住宅を新築する顧客の中からプロジェクトへの参加を募り、「HED-Net」のシステムを導入する工事を12月から始めている。

 様々なライフスタイルの実生活のなかで非接触型の生体センサーを稼働させ、データの取得状況・判定プログラムの精度・システム稼働状況などの検証を約1年間行う予定だ。今後、急性疾患早期対応の商品化・サービス化を目指すという。

 これが実用化されれば、高齢者や疾患を持つ人のリスクや不安を軽減するシステムになるのは間違いないだろう。また、医療費や介護費、本人や家族の労働損失額、企業の生産性などの社会コスト面でもメリットは大きく、同社の試算では、「HED-Net」をはじめとしたプラットフォームハウス構想が実現した場合、現在、8兆4000億円から8兆7000億円と推計される脳卒中、心疾患、溺死、転倒・転落などによる社会コストを最大約21%も削減できる可能性が期待できるという。

 コロナ禍が収束した後も、日本は超高齢化社会であることには違いない。これからさらに高齢化が加速する中、これを機に自宅での健康管理にはより一層気を配りたいものだ。(編集担当:藤原伊織)

HED-Netの導入工事が進む積水ハウスの新築戸建住宅

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