米国の劣化

 みんなの投票用紙を集めて数えた結果がもし自分の考えと違っていても文句は言わない、それが「みんなで選ぶ」ということだから。クラス委員選びで初めて「選挙」と出合う低学年の子。漢字では書けなくたって、それが「みんしゅしゅぎ」と知っている▲意に沿わない結果を腕ずくで否定することや、そう試みることは、どんな理由があっても肯定されない。それがルールだ。大統領選挙後の混乱が続く米国で「まさか」の出来事が起きた▲投票は盗まれた、俺は負けていない、メインストリートを進め。端から見れば、負け惜しみのお手本としか思えぬ発言に扇動されたトランプ支持派の市民が議会に乱入、当局との衝突で4人が命を落とした▲初めて選挙を経験する“1年生”の国ではない。民主主義の旗手を長く自任してきた国だ。格差、分断、群集心理…どんな単語を並べても説明はつくまい▲「家に帰ろう。法と秩序が必要だ」。間もなく「前」大統領になる彼は支持者たちをいさめた。ただし、自分が間違っていた-とは最後まで言わずに。彼がこの4年間で米国社会を決定的な劣化に導いたのか、彼の登場自体が劣化の産物だったか▲新大統領は20日、就任式に臨む。どんな言葉で、どんな方法で米国の劣化を止めるか-難事業が待ち受けている。(智)


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