第3波「勢いまるで違う」 佐世保県北医療圏の体制逼迫 最前線の医師 危機感あらわ

「今がまさに正念場」と危機感を示す福田医師=佐世保市平瀬町、市総合医療センター

 長崎県内で新型コロナウイルスの「第3波」が猛威を振るう中、佐世保県北医療圏の医療提供体制も逼迫(ひっぱく)している。昨年末には確保病床50床が一時満杯に。今月38床を追加したが、予断を許さない状況が続く。佐世保市の感染症指定医療機関、同市総合医療センターで重症者の診療に当たる医師は「今が正念場」と危機感をあらわにする。

 「第3波の勢いはこれまでの状況とまるで違う」。同センター感染制御部長などを務め、現場でコロナ対応に当たる呼吸器、感染症専門の福田雄一医師(44)はこう語る。
 同医師によると、第2波までは若い患者が目立ち、自力で回復するケースもあった。しかし、第3波が急襲した昨年12月以降、同市内で高齢者や障害者の福祉施設、飲食店、自衛隊などでクラスター(感染者集団)が頻発。「高齢者や障害者は、軽症でも宿泊施設や自宅での療養が難しい。選択肢は入院に絞られる」。同医療圏の病床は見る見る埋まり、重症者は今も増加傾向にある。
 同センターは医師3人でコロナ患者に対応。看護師は各病棟からかき集め、昨年末に16人から30人に増やした。人工心肺装置「ECMO(エクモ)」を使用した例はまだないが、装着の判断を迫られる場面もあった。ただ、エクモは24時間稼働させるため、院内の集中治療室(ICU)12室のうち5室程度を専用病室に割かねばならない。「それは、他の救急患者の治療を大幅に制限することを意味する。救える命が救えなくなる可能性が高まる」。
 同医療圏の確保病床は最大88。周辺病院と連携して態勢を整えている。ただ「数字だけを見て安心はできない」。周辺病院で処置されていても、免疫が過剰に働いて自分の臓器を攻撃する「サイトカインストーム」や、血管に血の塊ができる「血栓症」などで容体が急変する場合がある。そうなれば同センターに搬送されてきて切迫度がさらに高まる。

防護服を着て新型コロナの治療に当たる佐世保市総合医療センターのスタッフ。現場の切迫度は高まっている(同センター提供)

 看護師の負担も限界に近付いている。コロナ病棟内の消毒、シーツの取り換え、トイレの清掃、患者の配膳…あらゆる業務をこなし、帰宅後も家族から隔離される。ストレスは極めて高い。同医療圏で呼吸器と感染症を専門的に診療できる医師が数人しかいないのも不安材料だ。仮に院内感染が発生すれば「ぎりぎりのバランスが崩れる」。
 無症状の患者が、無自覚に感染を広げるのが新型コロナの特徴だが、その恐ろしさが社会に十分伝わっていないのがもどかしい。日々接する患者の多くが「まさか自分が感染するとは予想できなかったと嘆き、ウイルスを広げてしまった後悔の念にさいなまれている」というのに。
 対策の基本は、人と人の接触回避、マスクの着用など。加えて「糖尿病や高血圧、腎臓病などを抱える人は注意が必要。喫煙もリスクを高める。個々人が禁煙や持病のコントロールなどを始めてほしい」と切実に訴える。
 医療現場の負荷を緩和するためには感染者を減らすしかない。「一人一人の行動で地域の医療は守られる。多くの人に協力してほしい」。最前線の現場でそう願っている。


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