「今さらゼロに後戻りはできない…」大相撲初場所〝強行開催〟の舞台裏を追跡

両国国技館

〝強行開催〟の背景とは――。大相撲初場所(東京・両国国技館)が10日に初日を迎えた。日本相撲協会が実施した新型コロナウイルスのPCR検査で、陽性者が出た部屋の力士は全員が休場。横綱白鵬(35)が感染した宮城野部屋など4部屋で計65人もの力士が大量休場する異常事態となった。今後に新たな感染者が出れば、途中で打ち切りとなる可能性もある。7日に1都3県に緊急事態宣言が発令され、世間からの逆風が強まる中、あえて開催に踏み切った舞台裏を追跡した。

日本相撲協会は9日に親方、力士、行司ら全協会員(878人、すでに検査済みの一部の部屋を除く)を対象に実施したPCR検査の結果を公表。九重部屋で幕内千代翔馬(29)と十両千代鳳(28)ら力士4人、友綱部屋で幕下以下の力士1人の計5人が新たに陽性判定を受けた。感染者が出た部屋の力士は濃厚接触の可能性があるため、全員が休場することになった。

コロナ関連の休場者数は十両以上の関取だけで15人。腰痛で休場する横綱鶴竜(35=陸奥)を合わせれば、戦後最多の16人だ。幕下以下を含めた休場力士は4部屋で65人にも上り、これは全力士665人の約1割にあたる数字。芝田山広報部長(58=元横綱大乃国)は初場所中に陽性者が出た場合は「一刻も早く(部屋を)封鎖していくしかない」としており、今後も一度に10人以上の単位で休場者が出る可能性もある。

尾車事業部長(63=元大関琴風)はさらに感染が拡大した場合の打ち切りの可能性について「もちろん、八角理事長(57=元横綱北勝海)の頭の中にはあると思う」と含みを持たせた。本場所途中での中止は昭和以降で前例がない。そうなれば、大関貴景勝(24=常盤山)の綱取りや優勝力士などの取り扱いをめぐり、大混乱が生じることは避けられない。

一方で、国内でも感染者数が拡大の一途をたどる中での〝強行開催〟には、ネット上で「どういう神経をしてるのか」「中止にすべき」といった批判の声が噴出。相撲協会に対する風当たりは厳しさを増している。こうした世間の〝白い目〟を承知の上で、開催にこだわる理由は何なのか。

角界関係者は「昨年はどん底だった。せっかく一歩ずつ前進してきたのに、今さら〝ゼロ〟に後戻りはできない」と事情を明かす。昨年はコロナ禍の影響で3月の春場所を史上初の無観客で開催。5月の夏場所は中止を余儀なくされた。7月場所からは観客の上限を約2500人、11月場所以降は約5000人に増やし「正常開催」への道筋をつくり上げてきた。今年の春場所(3月14日初日、大阪府立体育会館)から地方場所を再開する方針も、その一環だ。

3月1日の番付発表は東京で行い、力士らは初日の3日前に大阪入り。千秋楽後は3日以内に帰京する異例の強行日程で準備を進めている。ここまでして大阪で開催するのは、地方のファン離れを防ぐ狙いがあるためだ。相撲協会の2020年度の決算は中止や観客減の影響で約55億円の赤字となる見込み。ただちに〝倒産危機〟に直面する状況ではないとはいえ、この状況が続けば協会の経営が一気に傾きかねない。

緊急事態宣言発令を受けて、初場所のチケット販売は6日で売り止め(終了)とする一方、有観客開催そのものは「譲れない線」(前出関係者)だったということだ。今場所の開催にあたり、相撲協会は「安心・安全」を強調しているが…。現状を見る限り、逆に不安が募るばかりだ。

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