アイドルとヘヴィメタルの関係、80年代メタルファンを虜にするBABYMETALの共感力! 2020年 12月31日 BABYMETALが第71回「NHK紅白歌合戦」に出演した日

2020年の紅白歌合戦で炸裂したBABYMETALのパフォーマンス

例年に比べ、コロナ禍で静かな年始を迎えた2021年。自宅で年越しの時間を過ごした人々が増え、久々に紅白歌合戦を観た人も多かっただろう。

僕の注目は、何と言ってもBABYMETALだった。ほんの短い時間とはいえ、BABYMETALが繰り広げる熱いパフォーマンスを通じて、ヘヴィメタルらしいサウンドが、久々に全国のお茶の間に届く瞬間を目撃できた(お茶の間… という言葉自体、今や死語かもしれないが)。かつて同じように、X-JAPANで紅白の場にメタルを届けた先人、YOSHIKIとの運命的なリモート共演も、見応えがあった。

国内外で大きな現象を巻き起こしてきたBABYMETALだけに、彼女達についての様々な考察は、ネット上でも無数に溢れている。ここではリマインダーらしく、80年代のメタルシーンと繋がるものに絞った、雑感を述べてみたい。

色物の域を出なかった黎明期、今やヘヴィメタル復権への “希望の星”

先回のコラム『お茶の間に悪魔降臨!聖飢魔ⅡはBABYMETAL以前に紅白出場を果たしたヘヴィメタル』でも触れたが、僕がBABYMETALのライヴを初めて観たのは、2012年初頭のイベントライヴだった。僕は当時、ガールズメタルバンドの仕事に深く関わっており、担当したバンドが出るイベントで共演したのがBABYMETALだった。メタル系のライヴでパフォーマンスするのは、おそらくこの時が初めてだったと思う。

数百人程度の観客の前に登場したBABYMETALは、まだ神バンドもおらず3人のみ。フロア前方に押し寄せたのは、さくら学院の流れと思われる100人にも満たないアイドルファンで、大半を占めるメタル系の観客は、お手並み拝見という雰囲気でステージを見つめていた。

メタルっぽいカラオケの音をバックに歌い踊る、幼い少女達によるアイドルダンスユニットのパフォーマンス。ダンスこそ今のようなキレッキレの片鱗を伺わせており、アイドルらしい可愛らしさを感じつつも、正直色物の域を出ない印象を受けたのが事実だった。その場にいたメタルファンの殆どは、それに近い感想を抱いたのではないだろうか。

そんなBABYMETALが、今や日本におけるヘヴィメタル復権への “希望の星” のような扱いを受けているのだから面白い。音楽系、メタル系などメディアの多くが、手のひらを返したようにBABYMETALを積極的に取り上げ、その恩恵を受けているように見える。デビュー当時のクイーンが母国メディアに、もし売れたら帽子を食べてやる、と侮辱されたのはあまりに有名なエピソードだが、革新や現象を起こすようなアーティストの黎明期は、案外そんなものかもしれない。

本城未沙子、浜田麻里、早瀬ルミナ… 80年代から試みられたアイドル×メタル

BABYMETALの根底にあるコンセプトは、“アイドルとメタルの融合” だが、グループやユニットではないものの、80年代のジャパメタムーブメントの頃にも、試みられた例がある。よく知られるのは、ビーイングが主導した、本城未沙子に始まる、イニシャルH・M(ヘヴィ・メタル)の女性シンガー達だ。

1983年4月デビューの浜田麻里は、“麻里ちゃんはヘヴィメタル” という、糸井重里によるキャッチフレーズをつけられた。当時、女子大生だった彼女は、とりわけキュートなルックスから、アイドル的な要素を前面に売り出そうとしていたのは明白だろう。けれども、浜田麻里の場合、あまりに高い歌唱力に当然注目が集まり、早々に本格派ロックシンガーとしてのイメージにシフトしていった。

イニシャルH・R(ハード・ロック)の早瀬ルミナは、“ギャングエイジが生んだカルチャーパニックアイドル! 15才のハードロック少女登場!” という、もの凄い帯キャッチがつけられたアルバム「甘い暴力」で、1983年9月にデビューした。山本恭司、織田哲郎ら著名アーティストがバックに名を連ねているが、乏しい歌唱力が災いしたのか、たった1枚の作品を残したのみだった。

歌謡メタルを掲げた早川めぐみ、アイドル・メタルという明確なコンセプト

アイドルに最も近いイメージで登場したのが、“歌謡メタル” を掲げて1985年にデビューした、早川めぐみだろう。リマインダーをご覧のアイドル好きの皆さんなら、ご存知の方も多いかもしれない。ミニスカポリスのようなコスチュームで微笑むジャケットが、もろアイドルチックなデビューアルバム「秘密警察」は、B’Zの松本孝弘をはじめとした錚々たる著名アーティストがバックをつとめている。

シングル「横須賀17 -seventeen- エレジー」は、山口百恵のメタルヴァージョンのような雰囲気で、確かに “歌謡メタル” を体現しているように聴こえる。早川めぐみはアルバム4枚、ミニアルバム2枚、シングル4枚を残しており、それなりの人気を集めた。ちなみにセカンドの帯には“(歌謡曲+ロック)÷2=早川めぐみ(アイドル・メタル!!)” と書かれているが、当時目指していたコンセプトがわかるようで興味深い。

他にも杉本誘里(一色ゆかり)、橋本ミユキといったシンガーが同時期に登場したが、浜田麻里を除けば、BABYMETALのような人気を生み出すに至らなかったのは、周知の通りだ。

3人だけのダンスユニットから神バンドを従えたバンド形式に変化

日本でのBABYMETALのファン層は、80年代のHM/HRムーブメントをリアルタイムで体験した、40代から60代の男性(まさにリマインダーに掲載される時代の音楽を聴いてきた層)が中心で、その人気を支える土台になっているのは明白だ。これは僕が関わっていたガールズメタルのバンド群のファン層と共通するが、年々高年齢化が進む男性のメタルファンにとって、若くて可愛らしく才能ある女性達が演じるヘヴィメタル(近年、カワイイメタルともカテゴライズされている)に、魅力を感じるのは当然だ。

勿論、BABYMETALの認知度が上がるに従い、ファンの年齢層は拡がり女性ファンも増えているだろうが、熱心にCDやグッズを買い、ライヴに足繁く通うファンの基本セグメントに大きな変化はないであろう。

僕自身そうしたファン層と同世代のため、実感できる点も多いが、彼等がBABYMETALを支持したポイントは幾つか考えられる。まず、3人だけのダンスユニットから、早い段階で神バンドを従えたバンド形式に変化したことだ。ギターの大村孝佳をはじめ、女性メンバーにこだわらず、メタル界隈で実力派のバカテクとして知られる男性ミュージシャンを揃えたことで、音源以上の迫力あるライヴを行える環境が整った。

絶大なインパクトと共感を与えた「ソニスフィア・フェスティバル」出演

リアルなバンドとして呼吸し始めたBABYMETALは、鹿鳴館、武道館など、80年代のメタルファンに馴染み深い会場を席巻していく。さらには海外に進出において、本場の一流メタルフェスへの出演を実現したことは、とりわけ大きなインパクトとなった。イギリス・ネブワースで開かれた『ソニスフィア・フェスティバル2014』でのライヴは、とりわけ重要な位置付けとして、ファンの間で伝説化している。

海外フェスの巨大なメインステージで、数万人の大観衆を前に堂々とパフォーマンスする映像を、ネットを通じて容易に観ることができるが、モンスターズ・オブ・ロック、レディングといった有名フェスに憧れを抱いた世代のメタルファンなら、誰もがその凄さ、価値に共感し、胸熱になるはずだ。まだ10代の少女達が、日本のメタルアーティストの殆どが体験し得ないステージからの光景を見ている。そう思うとBABYMETALへのリスペクトが湧き上がってくる。

海外への進出に従って、メタリカ、ガンズ・アンド・ローゼズ、ジューダス・プリーストらのゲスト、サポートをはじめ、海外の一流メタルアーティストとの共演を次々と実現させた事実も、80年代のメタルファンに絶大なインパクトと共感を与えた。メタルゴッド、ロブ・ハルフォードと共演を果たしたBABYMETALを、紛い物のメタルと言える人がいるのだろうか?

こうして、BABYMETALはメタルか否か? という賛否両論の論争が巻き起こっている間に、外堀を埋めるように、次々と国内外での実績を積み上げていき、メディアの批評に左右されずに共感するファンを増やしていった。

本物志向のメタルファンをも唸らせる、SU-METALの天性の声質と歌唱力

耳の肥えたオールドメタルファンをも納得させる、レベルの高い楽曲も見逃せないポイントだ。曲毎に多彩な外部ライターを起用したBABYMETALの楽曲は、あくまでもヘヴィメタルの範疇で、様々なサブジャンルの要素が絶妙に絡み合うハイブリッドな形態だ。けれども、その根底には、メタルらしいヘヴィな重厚さが溢れており、BABYMETALとしてのアイデンティティを感じさせてくれる。

そして、KOBAMETAL氏ら関係者のプロデュース力の有能さについては、改めて言及するまでもないが、BABYMETALの創り込まれたコンセプトを完遂しているSU-METAL、MOAMETAL、YUIMIMETAL本人達の頑張る姿こそが、メタルファンに共感を与える最大の要因かもしれない。自分の娘と同年代の少女達が、世界のヘヴィメタルシーンを股にかけ、アーティストとして成長していく様を見ていると、ある種の親心のようなシンパシーを抱くファンも、少なくないだろう。

また、センターを務めるSU-METALのヴォーカリストとしての評価はとりわけ高い。大音量を余儀なくされるメタルライヴの環境下でも、ストレートに耳に届いてくる天性の声質と歌唱力は、本物志向のメタルファンをも唸らせる大きな理由と言えるだろう。

カワイイメタルの隆盛、BABYMETALの登場が与えた共感

僕がリマインダーで取り上げてきたように、80年代当時、ヘヴィメタルは煌びやかに輝くムーブメントとして、若者にとって身近で大きな身近な存在だった。アメリカではPMRC(ペアレンツ・ミュージック・リソース・センター)のような組織に弾圧されたり、日本でも “ヘビメタ” と揶揄されたりしたのも、翻るとメタルが社会の中で目立つ事象として息づいていたからこそだ。

それが、ニルヴァーナの登場とともに始まった90年代初頭のグランジ・オルタナの波によって、80年代に隆盛したヘヴィメタルは死滅してしまう。新世紀になってようやく息を取り戻したメタルの多くは、ヘヴィさを増したニューメタルなどと呼ばれて姿を変えていき、80年代にメタルを愛聴していた人たちにとって、遠い存在になってしまった。

そうした中で、2010年頃から才能に溢れた女性メタルアーティストによるカワイイメタルが隆盛し始めた。その流れから登場したBABYMETALは、前述したように、メタルから心が離れていた層に多くの“共感”を与え、再びメタルの世界に引き戻す原動力となっていったのだ。一方で、BABYMETALで初めてメタルに触れた若い世代も多いだろう。彼等が未来にどんな新しいメタルを生み出していくのか、興味は尽きない。

BABYMETALは、新春早々、コロナ禍の困難に立ち向かうかのように、武道館10daysの偉業に挑み始める。彼女達がこの先、どこに向かうのか、道無き道を進む可憐なる勇姿に注目していきたい。

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カタリベ: 中塚一晶

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