今年のアートトレンド予測、開館・拡張する美術館、米国議会議事堂でのアート作品被害など:週刊・世界のアートニュース

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、1月2日〜8日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「2021年の展望」「米国議会議事堂への乱入」「コロナの影響」「できごと」「アートマーケット」「オススメのビデオ」の6項目で紹介する。

アメリカ合衆国議会議事堂 出典:Wikimedia Commons(Martin Falbisoner)

2021年の展望

◎2021年に開館・拡張する美術館
2021年に開館、拡張予定の世界の美術館のリスト。20年の計画を経てルーブル美術館のそばに安藤忠雄のデザインでオープンするフランソワ・ピノーのコレクション美術館、開館延期が続いてきた香港のM+、オスローにできる世界最大のムンクコレクションを収める美術館など。近い将来にコロナが収まってこれらの素晴らしい美術館を見に行ける日がくることを願う。
https://www.theartnewspaper.com/preview/the-biggest-openings-around-the-globe-in-2021

◎今年のアートトレンドは?
Artsyによる2021年のアートトレンドを読む企画第一弾。絶え間なく続く困難に見舞われた2020年への反動として「Return to Nature」と題し、た自然へ帰るモチーフの若手、中堅ペインター10名をピックアップ。アメリカを中心に、中国、イギリス、中東、南アフリカ、南米から。
https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-trends-watch-2021-return-nature

米国議会議事堂への乱入

◎米国議会議事堂でのアート作品被害
1月6日のトランプ支持者による米国議会議事堂への乱入によって、歴史的建築物である議事堂及び議事堂内のアート作品への被害がどれほどのものであったかの確認を専門家が行っている。幸い、主な絵画や彫像作品への大きな被害はなかったようだが、窓やドアが破壊されたり、かけてあったダライ・ラマの写真が盗まれたり、19世紀半ば第12代大統領ザカリー・テイラーの大理石の彫像が血まみれになったりという様々な被害の発生が報告されている。
https://www.nytimes.com/2021/01/07/arts/design/us-capitol-art-damage.html

◎2020年とパブリック・アート
議事堂の事件とは直接関係ないが、事件の底流を考える上でヒントになる記事。2020年に様々な理由で大きな注目を集めたパブリック・アートを振り返るもの。BLMに起因する多くの壁画。欧州では植民地主義的背景を持つ人物、米国では南軍、奴隷制に関わる人物の像が数多く引き倒されたり撤去されたりした。またコロナで屋内展が制限される美術館による屋外での展示など。
https://www.artnews.com/art-news/news/most-important-public-art-2020-1234580125/

◎注目作家トマシ・ジャクソンの展覧会レビュー
同様に、最近大きな注目を集めている黒人女性作家トマシ・ジャクソンのオハイオでの展覧会のレビューを。投票時の人種差別を禁じた1965年投票権法と、ジョゼフ・アルバースの配色の設計から青(民主党)赤(共和党)を引用してVoter Suppression(マイノリティ投票者の抑圧)についての絵画と音声作品を発表したもの。残念ながらコロナの影響で展覧会は現在閉鎖中。
https://www.frieze.com/article/tomashi-jackson-love-rollercoaster-2020-review

コロナの影響

◎フィラデルフィアではミュージアム再開へ
コロナ陽性者数が少し落ち着いてきたことで、フィラデルフィアの6つの美術館、博物館が再開されることに。感謝祭前の11月下旬から閉館になっていた。Franklin Instituteは1月6日。バーンズ財団、フィラデルフィア美術館、フィラデルフィア自然科学アカデミーは1月8日から再開。
https://patch.com/pennsylvania/philadelphia/six-philadelphia-museums-announce-reopening-plans

◎タイアップ展覧会を始める美術館
コロナで展覧会が思うように企画できない、さらに財政的に厳しい状況に追い込まれている多くの美術館が、これまでご法度であったタイアップ展覧会いわば「スポンサードコンテンツ」をやりはじめている。LACMAではビールのミラーライトの広告の一環の展覧会が行われたり、ブルックリン美術館はNetflixの人気ドラマとタイアップしたヴァーチャル展覧会を行った。特にLACMAの展覧会は広告であるとの表記が不十分であるとしてLA Timesなどが批判しているとのこと。
https://news.artnet.com/art-world/its-a-deal-is-the-rise-in-museum-sponcon-linked-to-lockdown-1933514

◎西海岸最古の美大で資金難
西海岸で最古の美大San Francisco Art Instituteが、これまでの長期的な生徒の減少や無謀なスタジオ拡大で経済状況が厳しかったうえに、コロナの影響で重大な資金難に陥った。校舎内にディエゴ・リベラが1931年に描いた巨大壁画を約50億円で売却しようとしているとのこと。買い手に名乗りをあげているのはジョージ・ルーカス。
https://news.artnet.com/art-world/san-francisco-art-institute-rivera-1935134

できごと

◎アーティストとしてのマルタン・マルジェラ
ファッションデザイナーであったマルタン・マルジェラがこの4月に初めてアート作品の展覧会をパリのマレ地区にあるギャラリーのラファイエット・アンティシパシオンで開催する予定。
https://news.artnet.com/art-world/martin-margiela-art-show-paris-1934699

◎シュウゾウ・アヅチ・ガリバー展示レビュー
現在MoMAで展示中のシュウゾウ・アヅチ・ガリバーによる大型インスタレーション作品Cinematic Illumination, 1968–69のレビュー。元は銀座のディスコに設置されていたもの。2月まで展示予定。
https://www.artforum.com/print/202101/j-hoberman-on-shuzo-azuchi-gulliver-s-cinematic-illumination-84654

◎パブリック・アートにまたも被害
カタールの砂漠に5キロに渡って4枚の巨大な鉄の板が並ぶリチャード・セラのパブリック・アートがなんらかのダメージを受けた模様。犯人は捕まっているとのこと。ただ、これまでも幾度となく落書きをされたりしてきたそうで、美術館は頭を悩ませており、パブリック・アートについての教育プログラムを充実させていく予定。
https://news.artnet.com/art-world/richard-serra-monumental-qatar-sculpture-vandalized-1935652

◎5人のキュレーターが語る「私の好きなモネ」
デンバーや上海での大規模な回顧展や、オークションでの高額落札など、ますます人気の高まるクロード・モネについて、5人のアメリカの主要美術館のキュレーターが1枚ずつ好きな作品をあげて、解説をしている記事。モネの中でも超有名作品は入っていないし、睡蓮も入っていないが、それぞれとても個人的なタッチの説明でとても面白い。
https://www.artnews.com/art-news/artists/claude-monet-best-paintings-1234580881/

アートマーケット

◎巨額脱税の裁判のゆくえ
19世紀から続くパリ・ニューヨークのギャラリー帝国ファミリーのウイルデンスタイン家の巨額脱税に関するパリでの裁判が再開された。これまで2回に渡って無罪とされてきたが、再審されることになった。もとの罪状は家族に対して750億円以上の巨額な罰金を求めるもの。家族内の相続争いやタックスヘイブンのバハマの信託口座などが絡むドラマを予感させる裁判。
https://news.artnet.com/art-world/stunning-reversal-frances-highest-court-commands-re-trial-wildenstein-family-dynasty-1935348

◎英国は厳しい規制を逃れる
Brexitの結果、英国ではEUがアンティークディーラーに課した2019年の新しい規制が採用されないことに。輸入されるアンティークが元の国から法に則って輸出されたことを証明しなければライセンスが与えられないというもの。これが採用されないことでヨーロッパ内で英国のディーラーにかなり有利に働くとの分析。
https://news.artnet.com/art-world/britain-abandons-eu-regulations-cultural-heritage-1935331

オススメのビデオ

◎ウィリアム・ケントリッジが語る
10年前に放送されたウィリアム・ケントリッジの約1時間のドキュメンタリー「Anything Is Possible」。個人的にケントリッジの作品は結構見てきたが、彼自身のことを実はあまり知らなかったことに気付かされた。名前からはピンとこないがユダヤ系で、両親が反アパルトヘイトの弁護士や裁判官であったこと、それが大きく作品作りに影響していることなど。ドローイング作品からオペラまで制作過程に寄り添いながらインタビューしたもの。最後の法律とアートの関係性などとても興味深い。(*お住いの地域、ご利用環境によっては動画をご覧いただけない場合があります)
https://www.pbs.org/video/art21-william-kentridge-anything-is-possible/

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