北朝鮮の貿易会社幹部、十数人が逃亡…処刑の危機逃れ

中国には、数多くの脱北者が身を潜めている。正確な統計はないものの、その数は数万人に達すると推測されている。一方、合法的に滞在している北朝鮮国民もいる。その代表格は、外貨を稼ぎ出せと国の命を受けやってきた貿易機関の駐在員たちだ。

彼らは毎年、業務や思想に関する総和(総括)を受けるが、その結果次第では帰国を命じられる。そんな人たちの運命は過酷だ。中国での豊かな暮らしを奪われ、山奥の農場などの閑職に飛ばされ、一生飼い殺しにされたりする。命を奪われないだけまだマシかもしれない。

北朝鮮当局は昨秋から、通常の総和とは別個のものと思われる、検閲(監査)を中国駐在の人員に対して行っている。これにより不正行為を摘発される人が続出している模様だ。現地のデイリーNK情報筋がその詳細を伝えた。

発端は去年11月中旬のこと。当局は北朝鮮大使館に貿易会社の社長、幹部、派遣労働者の管理者、北朝鮮レストランの社長などを呼びつけ、検閲を開始せよと命令した。同様の命令は各地の領事館にも伝えられた。これは、昨年1月に新型コロナウイルスとして国境を封鎖して以降、駐在員の管理ができていないという指摘に基づくものだ。ただし、一般の労働者やレストランの従業員は対象外だ。

検閲は北朝鮮と国境を接し、北朝鮮国民が多く住む遼寧省と吉林省で集中的に行われている。まず行われたのは携帯電話のチェックだ。

貿易会社の関係者は、12月初旬に領事館の幹部に呼びつけられ、メッセンジャーアプリのWeChatのチャット内容と通話記録をすべてチェックされたと明らかにした。また、怪しい人物には会うな、疑われるような行動をするなとの警告を受けた。

別の関係者は、2台持っている携帯電話のうち、普段あまり使わない方の中身を見せて、危機を乗り越えた。さらに、もう1台の携帯電話は、念のため処分したという。

また、保衛部(秘密警察)が、駐在員や幹部の家を訪れ、抜き打ちで家宅捜索を行っている。ターゲットにしているのは、韓国の書籍、映像や、韓国人と接触した記録だ。

摘発された幹部、駐在員の具体的な数は不明だが、情報筋によると相当数にのぼり、いずれも保衛部の監視下に置かれている。

「保衛部は検閲で摘発された複数のイルクン(幹部)を特定の家屋に閉じ込め、24時間生活を共にし、監視している。逃げ出すかもしれないので、北朝鮮に帰国させるまで関しを続けるようだ」(情報筋)

北朝鮮は、外国からの入国を一切認めておらず、中国当局が摘発した脱北者を強制送還しようにも受け入れようとしない。同様に、保衛部の検閲で摘発された人も、新型コロナウイルスが落ち着くまでは帰国させず、監禁し続け監視下に置くものと思われる。

一連の検閲で摘発されたのは、事前に情報を得られなかったり、庇護してくれる高官とのコネがなかった人々で、ほとんどの高位級幹部は事前に情報を得て、検閲の前に姿を消した。その中には、当局の指示とは異なる安物のマスクと防護服を買い付けて、差額を横領した者など、処刑の可能性が取り沙汰されるほどの重大な問題を起こした者も含まれているという。

逃げた者の数は、瀋陽と丹東だけでも15人から20人に及び、北京、大連、延吉、琿春まで含めると相当数に及ぶ。北朝鮮当局が追跡しようにも動きが取れずにいるうちに、彼らは中国の取引先に匿われたり、韓国を含めた第3国に逃走したりしたものと情報筋は述べている。

ある貿易会社の駐在員は、ビジネスがうまくいかず、生活苦にあえぐ駐在員や幹部が、北朝鮮の内部情報を売り渡す事件が最近頻発していることを今回の検閲の理由に挙げたが、実際の理由はわかっていない。

昨年12月の最高人民会議常任委員会第14期第12回総会での「反動的思想・文化排撃法」の採択を前後して、北朝鮮国内での韓流取り締まりが強化されたことと軌を一にしていることから、韓流流入を元から絶つことを目的としている可能性が考えられる。

しかし、厳しい検閲は、現実を無視したものだ。

情報筋は、「規律の緩みと逸脱を点検しようというものだろうが、中国にいて法律を守って党の資金を稼いでいる人がどこにいるだろうか」とし、外貨稼ぎの能力に欠ける幹部を追い出し、人事を刷新するための口実として検閲が行われたのではないかと噂されていると、現地の状況を伝えた。

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