高校ラグビーの新潮流「63分の9」が表す意味とは? 当事者に聞くリアルと、重大な課題

100回目を迎えた全国高校ラグビー大会は、桐蔭学園が2年連続3回目の優勝を成し遂げ幕を閉じた。無観客での開催ながら例年以上の熱戦が繰り広げられた今大会に、ある一つの新たな潮流が見られた。63分の9――。この数字が意味するものは、日本ラグビー界へのポジティブな影響と同時に、解決していくべき課題が隠されている。

(文=向風見也、写真=KyodoNews)

史上初の16強進出、大分東明ラグビーの礎を築いた2人の留学生

ジョアペ・ナコが自陣から球を回そうとした。

ミスが失点につながった。

「ナコ、楽しんでないよ?」

タッチラインの外から声を掛けたのは、白田誠明監督だ。

2021年1月1日、大阪は東大阪市花園ラグビー場。白田監督率いる大分東明ラグビー部は、全国高校ラグビー大会の3回戦で中部大春日丘と戦った。

17―40。指導者として2度目の全国大会を大分東明史上初の16強進出で終え、同校で初めての留学生の引退を見届けた。

チームは2018年にナコ、セコナイヤ・ブルをフィジーから迎え、県大会の決勝で大分の強豪、大分舞鶴を2シーズン連続で下していた。

「チームのモットーであるエンジョイラグビーを体現してくれた2人でした。東明ラグビーの今の礎を築いてくれた」

中部大春日丘との元日の試合で「楽しんでないよ?」と発した意図について、こう述べるのだった。

「彼らは死に物狂いでやってくれてはいましたが、これまで彼らがやってきたのはそういうラグビーじゃないから。カッカするんじゃなく、もっと主体的に考え、楽しんでやってほしいなと」

9/63、昨季から急激に増加した数字とは

第100回大会は9日、桐蔭学園の2連覇で幕を閉じた。

昨今の情勢を受け無観客開催と望まれない変化も見られたなか、注視されたいトレンドがある。留学生選手の隆盛だ。

1990年代初頭に仙台育英へブレンデン・ニールソン(現ニールソン武蓮傳)が入って以来、2000年代中頃の札幌山の手には日本代表主将となるマイケル・リーチ(現リーチ マイケル)が加わるなど花園には海外出身者も相次ぎ参加してきた。

最近ではさらに、日本へ将来を切り開きに来た青年ラグビーマンは増え続けている。

全国大会の参加63校中、当該チームもしくは当該校へ携わる直前まで異国にいた、もしくは小学生時代の大半を日本以外で過ごした選手が登録された学校は9校だった。幼少期からこの国でプレーした青年のいるチームは、この限りではない。

第100回大会の「9/63」という比率は、昨季から継続されている。第99回大会は「7/51」で、第98回大会の「2/51」、第97回大会の「1/51」より増えた。

札幌山の手、日本航空石川などがずっと多国籍チームをつくってきたのに加え、流通経大柏、仙台育英といった常連校が海外出身者を1軍入りさせ、青森山田、さらには大分東明といった留学生を加えて間もないチームが第99回大会で初出場を果たしていた。

目黒学院、大分東明監督が口にする、留学生と日本人学生の相乗効果

「彼らは何をしに(日本へ)来たかというのを忘れずにやっている。それが、日本人にいい刺激になっていると思います」

こう語るのは、目黒学院の竹内圭介監督だ。

目黒学院では、2012年にアタアタ・モエアキオラらが付属中学を経て入学して以来、複数のトンガ出身者が機会を得ている。

竹内監督は、海外ルーツを持ちながら日本で生まれ育った部員も育ててきた。「日本人と留学生」との安易な切り分けは決して好まない。

とはいえ、この国で生まれ育って私立の学校へ通う若者にとって、15歳で海を渡って一つのことに人生を懸ける同世代の存在が「刺激」になるのを認めている。

大分東明の白田監督もまた、日本人学生と留学生との相乗効果に喜ぶ一人だ。

フィジー出身の2人が言語や集合時間を守る感覚の違いに適応した一方、他の日本人選手は「本当の意味での楽しさを学べた」と指揮官は見るのだ。

大会期間中、こう述べる。

「彼ら(ナコとブル)は、走ることなどに手を抜かない。つらい練習、きつい練習も乗り越えれば楽しさにつながる……と。楽しむというと、日本人は“ふざける”というふうに捉えがちですが、彼らは本当のエンジョイ、本当の楽しみ方を体現してくれた。日本人にとってのいいお手本になった。こちら(大阪)へ来るための飛行機で彼らと話したら、『大会が始まってしまうのが寂しい』『もっと皆とプレーしたい』と言っていました。そういう感情になってくれてよかったな、(日本へ)来てくれてよかったな、と感じました」

2019年のラグビーワールドカップ日本大会で、日本代表は15人の海外出身者を登録。大会史上、過去最多だった。リーチ、モエアキオラら日本の高校を出た3人も含まれた。

異なる背景を持つ者が互いの意志をすり合わせる様は『ONE TEAM』という流行語とともに知られ、国内トップリーグでも増加傾向にある外国籍選手が主将に抜てきされる例が増えた。長らく競技を続けたい高校生にとって、海外選手と手を取り合う経験は将来に向けた実地訓練としても価値がある。

課題も。若くして海を渡った若者たちの受け皿の確保

一方、ある強豪大の監督はこうだ。

「高校からの留学生が増える分、留学生を受け入れる大学もこれまで以上に必要になるのでは」

確かに試合における外国人枠の都合上、これまで留学生を受け入れてきた大学だけで今の高校の海外出身者を受け入れられるかは未知数だ。

2021年限りで発展的解消を遂げるトップリーグの加盟チームも、限られた外国人枠を強豪国の大物かそれに準ずる才能で埋めがちだ。リーチやモエアキオラのような突出した戦士が大学進学を経て契約できる一方、全ての留学生が望む未来を描けるわけではない。

さらに国際統括団体のワールドラグビーは、代表資格を得るのに必要な当該国での連続居住期間を36カ月から60カ月に延ばすことを決定している(改正時期は2022年1月に延期)。その連続居住期間に学生時代を含めるか否かの議論も不透明。いったん受け入れた若者の受け皿の確保は、日本ラグビー界にとっての検討課題の一つである。

ただ、花園で涙を流すナホ、ブルの姿に接すれば、留学生への懐疑的な視点は解消されるべきだとわかる。付け加えれば、青森山田の櫻庭凛主将は、自軍のリサラ・フィナウが手を抜かずにウェイトトレーイングをする日常に「尊敬しています」と触れた。

昨年度の大会中、大分東明の白田監督はブルの賢さを示すべく「古文のテストが日本人よりもよかった」というエピソードを記者団へ紹介。間もなく報じられた。

事実確認を求められた当の本人は、流ちょうな日本語で正直に応じたものだ。

「留学生のテストは、日本人が受けるものと違います。文章はひらがなで、質問(問題)は英語です」

<了>

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