大学では登板ゼロも1年後にプロへ 楽天新人を変えた元鷹ドラ1の「衝撃的な一言」

BC栃木・巽投手コーチのユニホームを寮へ持ち込んだ楽天・石田駿【写真提供:楽天野球団】

元ホークスドラ1巽真悟から石田へのアドバイス「だいたいの辺り」

右のサイドスローから最速153キロの速球を繰り出し「栃木の林昌勇」の異名を取った楽天の育成ドラフト1位ルーキー石田駿投手。九産大時代は公式戦登板なしの無名の存在だったが、わずか1年間でプロ注目の剛速球投手へと育ててくれた恩師のためにも早期の支配下昇格を目指す。

石田は今月6日、楽天の泉犬鷲寮へ入寮した際、昨年1年間在籍したBCリーグ・栃木ゴールデンブレーブスの背番号「99」のユニホームを持ち込んだ。石田自身の背番号は「15」だった。このユニホームは栃木の巽真悟投手コーチのものだった。巽コーチの直筆でサインと「名を馳せろ!」という激励の言葉が書き込まれていた。

巽コーチは現役時代、2008年のドラフト1位で近大からソフトバンクに入団。本格派右腕として期待されたが、在籍8年間で通算1勝4敗に終わり、2016年オフに戦力外通告を受けた。

その後、NPB合同トライアウトを受験したが、NPB球団からのオファーはなし。それでもトレーニングを継続し、翌年もトライアウトに挑戦したものの、またもやNPB球団からの誘いはなかった。2019年から現職に就任したこの巽コーチが、石田の運命を変えた。

新人合同自主トレでキャッチボールを行う楽天・石田駿【写真:宮脇広久】

「気楽に落ち着いてマウンドに立つことができるようになりました」

制球難の課題を抱えて栃木に入団した石田に対し、巽コーチは最初に「コントロールは気にせず、真っすぐを投げておけばいい」とアドバイスした。石田にとっては「衝撃的なひと言」だったという。

それまで「際どいコースに、ピンポイントで投げなければ」と汲々としていた石田に、「おまえの球には力がある。“だいたいの辺り”に投げておけば、バッターは差し込まれて、前に飛ぶことはない。それほどコントロールする必要はない」という巽コーチの言葉は染み渡っていった。「自分のピッチングに自信がついて、思い詰めることなく、気楽に落ち着いてマウンドに立つことができるようになりました」と振り返る。

恐れず腕を振った石田の速球はうなりを上げ、ヤクルトや韓国代表で守護神を務めた林昌勇氏を彷彿とさせた。「実績がなかった自分が栃木で活躍できたのも、今があるのも、巽コーチのお陰です」と感慨深げに語る石田。恩師のユニホームを寮の部屋の見える所に飾り、プロでも励みにしていく。

「僕の売り物は、強い真っすぐ。今年入団した新人の誰にも負けないくらい強い球を投げて、アピールしていきたいと思います」。ドラフト1位の最速155キロ左腕、早川(早大)にも、速球では負けるつもりはない。「年内に支配下へ上がれるように、自分のペースで前へ進んでいきたい」と思い描く石田。プロの世界の厳しさを知るコーチが導いてくれた世界で、文字通り「名を馳せる」決意だ。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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