コロナ療養、ネット調べ過ぎた末に… 看護師たちが語る患者の苦悩

 新型コロナウイルスの感染急拡大が止まらない。次から次へと感染者が搬送される医療現場は、常にぎりぎりの状態だ。発熱や呼吸苦と闘う重症者、綱渡りの医療提供体制、そして軽症者を襲う意外なストレス―。年末年始も休み返上で対応に当たった看護師2人がインタビューに応じ、コロナ治療の実態や患者への思いを語ってくれた。(共同通信=黒木和磨、山本洋士)

大阪府が整備した「大阪コロナ重症センター」で研修を受ける看護師ら=2020年12月11日

 ▽「患者の口湿らせることしか」

 大阪府が2020年11月末に完成させた臨時施設「大阪コロナ重症センター」(大阪市住吉区)。全30床に人工呼吸器を備え、比較的容体の安定した重症者を受け入れている。12月15日の稼働初日から勤務する看護師の石井綾香さん(28)は、大みそかと1月2日、3日も病棟に立った。

インタビューに応じる石井綾香さん=2020年12月29日

 看護師を統率する「サブリーダー」を担うことが多い石井さん。じっとりと汗ばむ防護服を着て「たんを取りましょうか」「氷枕を変えましょうか」「空調は大丈夫ですか」と、一人一人に声を掛けるが、「患者は重症の人ばかり。気管挿管して人工呼吸器を付けているため声を出せず、筋力低下でメッセージボードを使った意思疎通も難しい」と語る。患者は表情や手ぶりでつらさを伝えてくる。のどの渇きを訴える人が多いが、気管挿管したままでは水を飲めず「口を湿らせてあげることしかできない」。

 看護師は日勤と夜勤の2交代制で、患者の容体を24時間注視している。新規患者を受け入れたり、容体が悪化して輸血が必要になったりすると、張り詰めた空気に包まれる。体調が回復し、人工呼吸器を外すことができた高齢患者が「声を出せるようになったよ。退院したら肉が食べたい」と話した時は心がふっと軽くなったという。

 ▽感染リスクと隣り合わせ

 現場の医療従事者は常に感染リスクと隣り合わせだ。石井さんは防護服のフィット具合に少しでも不安があれば、そのたびに集中治療室(ICU)を出て着直すなど、最大限の注意を払っている。「もし私が感染してセンターが閉鎖してしまったら、患者はどうなってしまうのか。常に『自分がウイルスを持っているかもしれない』という思いで、感染源にならないことを第一に気を付けている」と話す。

 センターでは府内外のさまざまな医療機関から派遣された看護師らが勤務しており、12月には自衛隊からも応援に駆け付けた。「シフトの都合で一度も会わない人もいるけど、休憩室の壁に名前と趣味、好きな食べ物を書いた顔写真付きのプロフィル用紙を貼って連帯感を高めている」

 石井さんは山口県の看護学校を卒業後、同県と岡山県の病院で約5年間、集中治療室(ICU)での勤務を経験。大阪府や府看護協会が看護師を募集していることを知り、「力になれれば」と考え応募した。今は神戸市の自宅から車で約1時間かけて通勤している。

研修後に取材に応じる石井さん(右)=2020年12月11日

 ▽歯がゆい思い

 12月に結婚したが、感染拡大の影響で両家の顔合わせは延期続きで実現せず、結婚式の予定も立たない。最近は知人との会食もせず、夫とも外食は控えている。その一方で、街では観光バスから降り立つ大勢の高齢者を目にしたり、政治家が多人数で会食したという報道を耳にしたり。そのたびに「歯がゆくて、複雑な気持ちになる」と明かす。

 日々、命の瀬戸際にいる患者に接している立場から「発熱や呼吸器の違和感に苦しむ患者さんを見続けるのはつらい。誰もがコロナに感染し、重症化する恐れがある。いったん重症になれば回復には時間がかかる。そういうことを多くの人に知ってほしい」と切実に訴えた。

 ▽ホテル療養者、午前4時まで「眠れない」

インタビューに答える貴志あかりさん=2020年12月25日

 無症状者や軽症患者を受け入れる宿泊療養施設でも、ケアの中核を担うのは看護師だ。大阪市内のホテルで勤務する看護師の貴志あかりさん(28)は、宿泊療養ならではの特徴として「最初は元気だったのに、次第に精神的に追い込まれてしまう人が多い」と分析する。

 診察や投薬がある病院と異なり、ホテルではたった1人で部屋に閉じこもり、じっと静養するだけの生活が続く。「外出もできないので、時間を持て余してしまい、インターネットでコロナに関する情報を調べ過ぎてしまう。他の感染者の体験談や薬の情報を気にし過ぎて泣きだしたり、午前4時まで眠れなくなったりする人もいる」という。

 「万全の対策をしていたのに感染してしまった」と気に病む人には、内線電話や看護師詰め所の窓越しに相談に乗り、話にじっと耳を傾ける。「ネット情報をうのみにせず、一つ一つ根拠があるのか考えてほしい」と呼び掛けている。

  ▽軽症のはずが救急搬送

 さらに最近の傾向として「入所してくる人の症状が重くなっている。本当に軽症なのか、釈然としないこともある」と話す。当初は無症状者と軽症患者に限って受け入れてきたが「昨年末ごろから、基礎疾患のある人や、体温が40度台の患者を受け入れるケースも出てきた」。府の担当者も「医療機関の病床が逼迫しているため、重症化リスクのある高齢者でもホテルに回す事例が増えている」と明かす。ホテル療養中に容体が悪化し、病院に救急搬送される事例も相次いでいる。

 貴志さんも患者の容体急変に肝を冷やした経験がある。ある高齢男性は、入所当日は息切れもせきもなかったが、翌日に血中酸素濃度を測ると、前の日よりも明らかに数値が下がっていた。「自覚症状はなく元気だが、血中酸素濃度が急激に下がると一気に死に至る可能性がある。何かあってからでは遅い」。貴志さんはすぐさま入院先の調整を担う府の担当部局に連絡し、男性は救急搬送された。

  ▽触れられぬもどかしさ

 勤務先のホテルでは100人以上が療養している。同僚の看護師3人と交代で対応に当たっているが、1日の勤務時間が14時間に及ぶことも。年末年始は他の医療機関での勤務を含め、12月30日から1月4日まで休みなしで働いた。

 看護師1人が担当する感染者は30人ほど。勤務中は一人一人の体調に異変がないか常に気を配る。毎日の健康状態は電話で確認するが、「電話がつながらなかったときが一番怖い」。内線電話やスマートフォンに何度掛けてもつながらず、感染者の自室まで安否を確認しに行ったことも。「部屋をのぞくと、元気そうにしていた。内線電話が受話器から外れ、スマホも電源が切れていただけだった」。平素と変わらぬ感染者の様子にほっと胸をなで下ろした。

大阪市内の宿泊療養施設で大みそかも感染者の対応に当たる看護師=2020年12月31日

 2020年5月まで大阪府茨木市内の病院で勤務していた貴志さん。看護協会の募集を知り、自らコロナ対応の最前線に飛び込んだが「当初は戸惑いもあった」と振り返る。「感染を防ぐため、患者さんに触れられない。食事を直接渡したい、高熱に苦しむ人には薬を届けてあげたいのに、それができない」。今でも真摯に向き合おうとすればするほど、もどかしさを感じる。

 2週間の療養を無事に終え、出て行く人を見送る瞬間が心の支えだ。「貴志さんには親身になって対応してもらった。今後も相談に乗ってほしい」と声を掛けられることも。感染者の増加は歯止めがかからず、現場の負担は増すばかりだが、貴志さんは疲労の色を見せずに言い切った。「ここで働くことは私にとっても貴重な経験。不安な時はいつでも頼ってほしい」(おわり)

※新型コロナの感染拡大が続く大阪で、治療の最前線に立つ医療従事者の方を取材しています。現場の情報をお寄せ下さい。共同通信社大阪社会部https://twitter.com/kyodonewsosaka(DM開放しています)

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