イギリス最注目ラッパーのスロータイが語る「労働者階級、アニメと声優、政治とアート」

Youtube:slowthai, A$AP Rocky - MAZZA

1973年にニューヨーク州サウスブロンクスにて生まれたヒップホップ。ヒップホップは誕生以来、常に周りの社会と人々の関係を表現してきた音楽と言っても過言ではない。パブリック・エネミーのように、政治についてのメッセージを表現するアーティストも多く、その「伝える」精神は世界中に広まり、国境を超えて多くの人に共感と心の居場所をもたらしている。

 そのなかで、アメリカ国外で最も注目されているラッパー/グライム・アーティストの一人がSlowthai(スロータイ)である。イギリスのノースハンプトン出身の彼は、労働者階級として育った自身のメッセージをアグレッシヴに表現しており、常に大きな話題を呼んでいる。自身の1stアルバム「Nothing Great About Britain」では「グレート・ブリテン」と呼ばれるイギリスの「グレート」さを風刺し、エリザベス女王を放送禁止用語で呼んだり、ライブではボリス・ジョンソン首相の人形の頭を持ちながら「F*ck Boris Johnson!」と叫んだりしており、イギリスの70年代パンクムーブメントの精神を現代で引き継いでいる存在であることが伝わってくる。

Youtube:slowthai - Doorman (Hyundai Mercury Prize 2019)

アルバム「Nothing Great About Britain」はメディアからも非常に高い評価を得ており、9位にチャートインしただけではなく、マーキュリー賞にもノミネートされている。Mura MasaやSkeptaとのコラボ以外にも、先日A$AP Rockyとのコラボ曲「Mazza」もリリースし、飛ぶ鳥を落とす勢いのSlowthaiであるが、2月5日に2ndアルバム「TYRON」をリリースすることを発表している。リリース前に、彼の人生やアーティストとしての理念を振り返ってみようと思う。

 Slowthai Interview

 ➖日本ではSlowthaiのことを知らない人も多いかもしれないので、読者のためにどのような存在かを簡単に自己紹介して頂けると幸いです。

 Slowthai:僕はスロータイだよ。多くの人は僕が議論を巻き起こす存在だと思ってる。僕は怒ってると同時に、とても愛に溢れてるんだ。色んなものをめちゃくちゃにして、破壊して、また生み出すのが好きな人だ。

 ➖ Slowthaiのライブなどを見てると、パンツ一丁で暴れていたりしますが、喋ったときとの印象は穏やかで全然違いますね。

 Slowthai:まぁ今日は40分前ぐらいに起きたから、特に眠そうに話しているかも(笑)

 ➖Slowthaiはイギリスのノースハンプトンというところ出身ですが、どのような街だったのでしょうか?

 Slowthai:結構ラフな環境だったよ。小さな町だったし、白人が大多数を占めている場所だった。だからあまりカルチャーというカルチャーがないけど、コミュニティーのスピリットはあった。行き止まりのような場所なんだ。ここに住んでいる多くの人は、この町で生涯を終える。あまり仕事の機会もなく、建設関係や労働者が多い。外に出る人は、大学に行く人か、稼いだ金を貯金して外に出る人たちだけだな。

 ➖町の名産品や、町を象徴するものってどんなものがありますか?

 Slowthai:革の靴を作ることで知られてるな。Dr. Martensのヘッドクオーターがある。ノースハンプトンといったら革靴だね。革靴以外のものは、Slowthaiしかいないかも。

 ➖町の名産品は革靴か、Slowthaiか、って感じなのですね。

 Slowthai:そうかもね(笑)でも徐々に進化していってるよ。アーティストも少しずつ出てきてるし、いろんなことを実験的にトライしている人たちも出てきている。

 ➖自身がノースハンプトンから出てきたアーティストのパイオニアというか、自身のおかげで町からさらにアーティストが出てくるようになったと思いますか?

 Slowthai:「もっと自信を持てた」って言ってくれる人は多いね。でも僕も、上の世代の人たちが音楽をノースハンプトンでやってるのを見て、インスパイアされた側だから。彼らは音楽の道を諦めてしまったんだけど、彼らがやっていた音楽は外の世界に比べても同じぐらい良かったから、「小さい町出身だから音楽でやっていくのは無理だ」って思うのは嫌だったんだ。だから彼らがインスパイアしてくれたし、自分がやることによって、他の人たちが「可能だ」と思えたのはあると思う。まぁ本当のところはどうなのかわからないけど、そう言ってくれる人は多い。

Youtube:slowthai - Inglorious ft. Skepta 

➖どのようにして音楽の世界に入ったのでしょうか?

 Slowthai:小さい頃、ブートレグのCDとかを売ってるレコード・ストアがノースハンプトンにあったんだ。その店をやってたのが、叔母の当時のボーイフレンドだったんだ。そこで面倒を見てもらっていて、店のなかでミックスを作ったり、DJセットをやったりしている人たちがいた。小さいときは、ガレージとかダンス・ミュージックをそこで聞いていた。僕の母親は割と若いから、モータウンとかソウルとかじゃなくて、割と新しめの音楽が流れてたと思う。

これ、多分誰にも言ったことないんだけど、実は昔バックストリート・ボーイズ好きだったんだよね(笑)。あれはテンション上がるよ。

 ➖わかります(笑)私もNSYNCとかいまだに聞いてます。あの時代のポップスは、良いメロディーが多いと思います。

 Slowthai:そうだよね!もう一回聞いてみようかな(笑)しかもハーモナイズの仕方とかも良いよね。自分のライブで、ああいう歌とか踊りを急に出せたらいいな。

でもそれ以外では、色んな界隈の人たちから、色んな音楽を教えてもらっていたよ。例えばエモ・キッズとか、インディー・キッズとかもいるし、ヒップホップのヘッズとか、そうやって色んなグループ間を行き来して音楽を教わってた。

 ➖実際に当時聞いていたラッパーとかは誰だったのでしょうか?

 Slowthai:僕の叔父がThe Diplomatsとかを流してたから好きだったな。米国のヒップホップだとG-Unit、エミネム、ノトーリアス・BIG、2Pacとかを聞いてたよ。あと自分のなかで大きかったのが、Ludacrisだね。

 ➖Ludacrisは当時まじで最高でしたよね!多分世代として、同じようなヒップホップを聞いて育ったように思えます。私も2000年代前半のヒップホップをリアルタイムで聞いて育ったので。

 Slowthai:そうそう。当時のDMXとかRuff Rydersも全般的に好きだった。Ludacrisのビデオでめっちゃ好きなのがあって、曲名を思い出せないんだけど、Ludaの腕が大きくなってて、トイレを破壊しまくるやつ。

 「Get Back」ですね!当時のイギリスの音楽だと、どのようなのを聞いていたのでしょうか?

Slowthai:Jehstとか、Klashnekof、Chester P、Terra Firmaとか聞いてたかな。あとはWiley、More Fire Crew、So Solid Crewとかのグライムももちろん聞いていたよ。

Youtube:KLASHNEKOFF MURDA (OFFICIAL VIDEO)

➖私は米国で育ち、普段米国のアーティストをインタビューすることが多いので、Slowthaiのようなイギリスのアーティストがどのような経験を経て「アーティスト」になったのかを知りたいです。Slowthaiはラッパーというより「アーティスト」を感じるので。

 Slowthai:それを言ってもらえるのは嬉しいね。ありがとう。色んな人に「彼はラッパーだから」と言われるけど、自分はラッパーだけじゃないんだ。あのSupa Hot Fireの「I’m Not a Rapper」ってやつの気持ちになってくる(笑)

子供の頃の経験でいうと、小さい頃に弟が筋ジストロフィーで亡くなったんだ。当時、自分は感情のコントロールができなくて、アンガーマネジメント療法のためにピアノを習わせられていた。習得する忍耐がなかったし、フォーカスしてなかったから弾けるようにはならなかったけど。
でも当時、ちょうどグライムのムーブメントが生まれていたんだ。みんなで部屋とか校庭に集まって、披露をしていたけど、僕が当時自分のリリックを披露することはなかった。自分が書いていたのは、バトルのように友達をディスって盛り上がるようなリリックじゃなかったからね。

その時点で、なんとなく脳で「これがやりたいことかもな」と思っていたけど、小さい頃から「音楽で食っていくぞ!」ってわけでもなかったんだ。なんか小さい頃って、100個ぐらい色んなものに興味を持つフェーズがあると思うんだ。

段々育つにつれ、「変なもの」を見たり、聞いたりするのが好きなことに気がついた。小さい頃はドラゴンボールとかテレビゲームしか興味ないけど、段々そういった「変」だとされているアートに興味を持った。でも最初に恋に落ちたのはドラゴンボールのようなアニメとかだったな。

 ➖今でもアニメとかは見るのですか?

 Slowthai: アニメとか漫画は大好きだね。昔は漫画が売ってる店がなかったから買えなかったんだけど、大人になってからハマったんだ。しかも僕は吹き替えで見れないんだ。オリジナルの声優とキャラの感情をそのまま感じたいから、絶対に字幕で見る。感情が大切なんだ。

 ➖日本には来たことありますか?

 Slowthai:一番行ってみたいところなんだけど、まだ行ったことないんだよね。前回のロックダウンが終わるときに航空券を見てたんだけど、多分逆に帰国できなくなりそうだなって思って、諦めた。ラーメンとか和牛も食べたい。東京に行って、あの雰囲気を取り入れたい。「Enter the Void」って見たことある?

 ➖ないです。アニメですか?

 Slowthai:いや、東京を舞台として変な映画なんだけど、とてもアーティスティックで、面白い観点で描かれてるんだ。

Youtube:Enter The Void - Official Trailer 2010 [HD]

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