50代夫婦「定年後は再雇用で就職せずに自営業で生活したいのですが…」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は50歳、会社員の女性。定年後、再雇用で就職はせずに、夫婦で起業して自営業で生計を立てていきたいといいます。今からどんな準備をすればよいでしょうか? FPの横山光昭氏がお答えします。

あと10年もせずに夫が定年退職します。再雇用で働くこともできるのですが、収入は今の6割ほどまでに下がると聞いたため、起業をして夫婦で働き、収入を下げないようにしていきたいと考えています。

起業後の収入についてはある程度期待できると見通しているのですが、肝心の起業資金がなかなか貯まりません。まだ7年強の時間がありますし、毎月貯金ができるゆとりはあるはずなのですが、気が付いたら預金残高は増えていません。

子どもの学費はボーナスで支払っています。そのほか、生活費以外の支出には旅行に行ったり、親に会いに帰省したり、ということがありますが、気分転換や必要性を感じて計画しているので、支出を減らすことができるとも思えません。

夫が定年退職した時の退職金は約1,000万円と聞いています。そのほかに現状で会社の持ち株を600万円分ほど持っているそうです。

できれば現役で収入があるうちにお金を貯めておくとよいのだろうと思うのですが、今のように支出を減らす見込みがない状況ならば、退職金などを資金として起業すると考えたほうが良いのでしょうか。

【相談者プロフィール】

・女性、50歳、会社員

・同居の家族:夫(52歳・会社役員)、長女(大学3年生)、長男(大学1年生)

・毎月の世帯の手取り収入:妻23万6,000円、夫42万8,000円

・年間の手取りボーナス:妻約80万円、夫約210万円

・貯金:約460万円

・大学の納入金:長女年間約140万円、長男年間約120万円

・毎月の支出の目安:58万2,000円

【毎月の支出の内訳】

・住居費(住宅ローン):13万8,000円(夫63歳で完済)

・食費:10万4,000円

・水道光熱費: 2万8,000円

・通信費:2万1,000円

・生命保険料:2万9,000円

・日用品代:1万8,000円

・医療費:3,000円

・教育費:0円(すべてボーナスで支払っている)

・交通費、自動車関連費:3万4,000円

・被服費:1万1,000円

・交際費:3,000円

・娯楽費:3万1,000円

・こづかい: 13万円(夫7万、妻4万、長女1万、長男1万)

・その他:3万2,000円


横山:老後は自営業で生計を立てる計画だとのこと。老後資金のほかに、自営業を開業する資金も必要ということになります。どのような業種で起業しようと思われているのかがわかりませんが、どの程度のお金を準備して臨むべきか、計画をしっかり立て、現役のうちに準備しておくのがよいでしょう。

定年後の収支をシミュレーションしてみる

ご相談者ご夫婦が定年までに準備すべきお金を、一度整理してみましょう。必要なのは定年後の生活費である、いわゆる「老後資金」。そして収入を得るための「起業資金」の2つです。それぞれいくらあると足りるでしょうか。

まず老後資金です。お子さんが独立した後の生活の仕方により大きく異なる部分ですが、お子さん独立後は支出の配分が変わるものの、生活費の総額は減らないというご夫婦が意外と多くいらっしゃいます。その為、今回もあえて現状の支出の多い状態で試算してみます。

支出は毎月約58万円。これが65歳になるまでの5年間続きます。一方で収入は起業すると再雇用で働くよりも多く見込めるということでしたから、仮に現在のご主人の収入の8割で計算すると、毎月約34万円。差額の24万円が毎月不足します。5年分だと1,440万円になります。

65歳になると年金を受給できます。夫が先に受給して、加給年金をもらうなど細かな金額の動きがあるかもしれませんが、今回は割愛します。お二人がもらう年金受給額を会社員の平均受給額から計算すると、男性約16万円、女性約10万円で、2人で月に26万円受け取れます。

定年までに準備するお金を整理しよう

もし、起業した事業の収入が順調であれば、住宅ローンも完済しているでしょうし、仕事を継続できている間はお金に困らない暮らしができそうです。ですが仕事の収入がなくなると、あっという間に家計は赤字に傾きます。住宅ローン支払いがなくなっているとしても、毎月19万円ほど補てんする暮らしとなる可能性があります。それがもし20年続いたとしたら、4,560万円以上の生活資金が必要です。

年を重ねるとともに減る支出もあると思いますが、最悪、最初の5年間分の1,440万円と、仕事をしなくなったあとの生活費4,560万円のちょうど6,000万円という老後資金が必要となるわけです。そして、さらに起業するための費用が必要になります。退職金や持ち株で1,600万円があったとしても、4,400万円以上足りなくなる計算です。

老後に向け家計の圧縮を

試算した状態にならないようにするには、現状かかりすぎている生活費を圧縮する必要があります。せめて住宅ローンを除いた生活費が年金受給額近くに収まるようにしたいもの。夫が60歳になるまでに、今の支出を、年金受給見込み額26万円と住宅ローン返済額約14万円の40万円まで支出を落とすことを目標にします。

お子さんが同居し、学費の面倒を見ている今、すぐには支出を大幅に落とすことはできないかもしれませんが、徐々に削減していくように意識しましょう。

現状で気になる支出は、食費、水道光熱費、日用品代、自動車関連費用、娯楽費です。これらの支出を振り返り、その中の本当に必要な支出、さほど必要ではなかった支出に振り分けをしてみてはいかがでしょう。

その時は必要だと思って買ったものでも、あとから考えると「今でなくてもよかった」「それほど欲しくなかった」と思えるものが出てくると思います。買い物の仕方を振り返り、同じことを繰り返さないようにしていくのです。

当たり前のことですが、意外と難しいことです。時間をかけて身に着けていただければ、定年までには支出が圧縮され、徐々に貯金が増やせるようになれると思います。

老後資金作りに積立投資を活用

定年後、何にお金を使うにしても、貯めて増やすということが必要となってきます。今、貯金が生活費の8カ月弱分ありますから、貯金と並行して老後資金用の積立投資を始めてみてはいかがでしょうか。無理にする必要はありませんが、老後も長くなっている時代、ぜひ投資を正しく学び、お金の寿命も延ばすよう意識されてはいかがでしょう。

老後資金作りは、すでにご存知かもしれませんが、国の私的年金制度である「iDeCo」の活用を検討してもよいでしょう。掛け金が全額所得控除、運用益が非課税という運用ができます。つまり節税しながら運用ができるのです。2022年春からは掛け金の拠出が65歳まで可能になりますので、今から始めても不利にはなりません。積立型の少額投資非課税制度である「つみたてNISA」を利用してもよいでしょう。

これから先、貯められるお金には限りがあります。大学の費用もまだかかりますし、思うように貯まらないかもしれません。ですから日々の支出を見直すとともに、お金を育てることができる制度の活用も柔軟に考えていきましょう。そうすると、ご相談者が望むような老後の生活を手に入れることが可能になるかもしれません。ぜひ将来を楽しみに、コツコツと継続されてみてください。

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