【書評】過去の「ヤバい選挙」について勉強したら落ち込んでしまった

こんにちは、自称日本一意識低い政治ライターのひがし(@misuzu_higashi)です。

かつて選挙は一部の貴族だけのもので、お金持ちでない人や女性が選挙権を勝ち取るために昔の人々は奮闘したーーそんなことを、中学社会や高校日本史でうっすら勉強した覚えがあります。
ところが現代では選挙の投票率は下がる一方。政治に対して無関心な人のほうがもしかするとマジョリティかもしれませんね。

すみません!いきなり真面目な話をしてしまいました。選挙マニアの宮澤暁氏の著書『ヤバい選挙』(新潮新書)を読んだんですが、これがすごい本だったんですよ。
タイトルもポップだし、選挙マニアがまとめたニッチなおもしろ選挙事例がたくさん載っていて笑える本なんだろうな〜!と思って読み始めたのですが、思いのほかテーマがずっしりしていて、日頃の行いを思い返して反省するどころか結構落ち込んでしまいました。

ヤバい選挙事例から見出す社会問題

『ヤバい選挙』は、趣味で選挙ウォッチャーを続けている”選挙マニア”である宮澤氏がその名の通り過去に起こったヤバい選挙の事例をまとめた本です。
ポップなコラム集かと思いきや、内容は当時の新聞記事を中心に調査結果をまとめた極めて真面目で客観的なもの。
公職選挙法が今ほど整備されていなかった昔の選挙から、2000年代のつい最近の選挙まで、厳選されたヤバかった選挙が解説されています。
笑えるドタバタ劇、おもしろ選挙なだけではなく、社会問題が改めて提起され、ただ胸糞悪い事件をまとめただけでもなく、クスッと笑える(※笑っていいのか?と自問自答する羽目になりますが)多種多様な選挙。少しだけ内容をのぞいてみましょう。

267人が村長選挙に立候補!ウケる〜!……ウケないな……

本書の2章では桑絹村(当時)の村長選挙に267人もの人が立候補したという事例を挙げています。見出しだけ見ると、あ〜村民が暴走しちゃったんだろうなぁウケる〜!という感じですが、詳細を読むと背景がめちゃくちゃ重たい。
自分たちの住む村や産業に対する当事者意識の高さ。情熱。行動力。県当局や隣県、国との交渉の難しさ。ドタバタ劇の末に見えてきた過酷な現実。そしてマスコミに対する捨て身のアピールとしての大量立候補、衰退劇。結果はともあれ、自分たちの住んでいる村をよりよくするために注ぎ込んでいるエネルギーが尋常じゃないんです。

ヤバい選挙に出てくる人々は、桑絹村の人々をはじめノンフィクションならではの人間味が非常に生々しく感じられます。
当選したいがあまりの汚職の背景が泥沼すぎたり。選挙権を剥奪されていた人々の疎外感や、それを得るまでの経緯、最初の選挙は晴れ着で向かったという喜びの表れ方にホロリと来させられたり。
無言の政見放送から考えさせられる障害者の政治参画問題と公職選挙法の課題は、改善を重ねつつも現代でも完全には解決されていません。

これは、ヤバい。

私、こんなに自分の住む街について、真面目に考えたことあったっけ?
私、選挙に行けることって、当たり前だと思っていなかった?
私は国や自治体が作ってくれた制度をただただ享受するばかりで、こうしたらよくなる、これが問題だ、こうしたい!という意見をしっかり持ったことなんてなかったかもしれない。

ただヤバい選挙事例を学べるだけではなく、今後の生き方について考え直す機会になりました。反省です。反省どころか落ち込んでます。

まとめ:ヤバい選挙から当事者意識が芽生えます

選挙ウォッチャーが選りすぐりのおもしろ選挙・ドタバタ選挙・トンデモ汚職などを詳しくまとめた『ヤバい選挙』は、そのタイトルから受ける印象より非常に読み応えのある本でした。自らの当事者意識の低さをこれでもかというくらい実感させられました。
よく本を読んで「考えさせられる」と言う人がいますが、この本こそまさに「落ち込むくらい考えさせられる」本なのではないでしょうか。
語り口は淡々と、そして軽快で、その読みやすさがまた事の重さを実感させます。選挙という名の人間ドラマを覗いてみたい方、投票だけして政治や選挙に関わっていたつもりだった全ての人にオススメです。

また、著者の宮澤氏は本書を執筆するにあたり大量の調べ物をしたそうですが、ヤバい事例というだけではなかなか資料も見つからなかったそうです。本書で挙げられている事例の市町村は今は合併等で消滅した所も多く、ひょっとしたらこの本がなければ風化寸前だったかもしれません。
今後選挙や公職選挙法を研究する人のための貴重な資料になるであろう本、と言っても差し支えないでしょう。

https://go2senkyo.com/articles/author/actin

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