<社説>トランプ氏弾劾訴追 一刻も早く政権を退け

 米下院が、トランプ大統領を弾劾訴追した。支持者による米連邦議事堂襲撃をあおったとして、トランプ氏の「反乱扇動」の責任を問い、大統領の罷免を求めたものだ。 決議案の採決で、民主党だけでなく与党共和党の10人も賛成に回り、弾劾訴追が超党派で支持された意味は重い。政権移行の民主手続きを阻止するために暴力を扇動したトランプ氏の行為は、国家の転覆を企てるクーデターやテロリズムに等しい。法の支配を否定し、民主主義国家の一線を踏み越えた重罪だ。

 既に政権を退くことが決まっている身だとしても、このまま大統領の地位にとどまり続けることは許されない。一刻も早くホワイトハウスを出て行くことだ。

 バイデン次期大統領の当選を正式に認定する手続きが行われていた6日、トランプ支持者が議会議事堂に乱入し、一時占拠した。トランプ氏は事前の集会で「死ぬ気で戦わなければ国を失う」と呼び掛けるなど、支持者に暴力を唆した。そしてSNSへの「議事堂まで歩こう。私も行く」の投稿が、議事堂襲撃の引き金となった。

 弾劾訴追決議は「米政府への反乱を扇動し、重罪と不品行を働いた」とトランプ氏を厳しく糾弾した。大統領として2度も弾劾訴追を受けるのは米史上初だ。この点でもトランプ氏が大統領の適性に欠いていたのは明らかだ。

 20日に迫ったバイデン氏の就任式に向け、トランプ派による抗議活動を警戒して首都は戒厳態勢にある。大統領がでっち上げの情報で政敵への憎悪をたき付け、支持者の過激化をあおった結果、民主主義の存立を危うくするほどの暴力をはびこらせた。

 破滅的な混乱は政権自ら招いた最期の姿とはいえ、米国社会に残した分断の傷はあまりに深い。

 米国の民主主義を損ねた「トランプ政治」がなぜ支持を集めたのか。大統領選で敗れたとはいえ前回を大幅に上回る得票をどう理解したらいいのか。その理由を解明せずに、自由を尊重し、寛容な精神を持つ米国の民主主義の復権はないだろう。

 「全ては嘘から始まりました」。元カリフォルニア州知事で俳優のアーノルド・シュワルツェネッガー氏がツイッターに配信した動画が大きな注目を集めている。ナチス・ドイツを引き合いにトランプ政治を批判した。

 ナチスは没落する旧中間層の不満に付け込み、権力奪取に成功した。同様に経済のグローバル化で職を失い既存の政治に失望した人々が、トランプ氏に旧弊打破の破壊力を期待したことは間違いない。だが、ナチスの行く末は破壊であり、トランプ政治にも通じる。

 分断ではなく超党派で格差を是正し、公正な社会をつくる。自国第一ではなく国際協調を重視する。米国の民主主義の底力を見せる時である。

© 株式会社琉球新報社