増税は不可避!?米両院を手にしたバイデン政権の景気対策、株価への影響を考察する

米国では1月5日にジョージア州で上院議員選挙2議席の決選投票が行われ、2議席とも民主党が勝利しました。これで、大統領、下院に続き、上院も民主党が支配(50対50にハリス副大統領を加える)することになります。

翌1月6日には、トランプ現大統領支持者による米国議会議事堂への乱入事件が起こりました。米国内では混乱が続いていますが、バイデン氏は正式に次期大統領に選出されました。

株式市場は上昇を続けており、背景にはバイデン政権による追加の景気対策が早い段階で打たれるとの期待感があります。

<文:ファンドマネージャー 山崎慧>


近いうちに追加の景気対策が成立へ

米国では年末に600ドルの家計向け給付金を含む0.9兆ドルの景気対策が成立していますが、バイデン次期大統領は立候補時に公約として3兆ドルを主張していました。

2020年9月、共和党が多数だった上院では可決されませんでしたが、下院民主党は2.2兆ドルの景気対策を可決しています。バイデン氏は早急に経済対策を策定すると表明しており、追加の景気対策が間もなく発表されると思われます。

年末にはトランプ大統領と民主党が結託し、家計向け給付金を600ドルから2,000ドルに引き上げようと試みました。民主党が多数を占める下院では可決されたものの、上院では共和党のマコネル院内総務が採決を拒否し、実現しませんでした。

しかし、今後はマコネル氏に代わって民主党のシューマー院内総務が多数派として議事日程を決められます。バイデン氏は「家計への現金給付は600ドルでは全く足りない。2,000ドル給付の実現に向けた作業を終えなくてはならない。」と述べており、共和党内でも賛成の議員がいることから、2,000ドル給付は成立する可能性が高いと見られます(追加で0.4兆ドル程度)。

家計向け給付金が4月に実施された際には比較的高所得なホワイトカラー層のオンライン株取引の盛り上がりが株価を押し上げたこともあり、今回も株高要因と言えそうです。

新型コロナウイルス対応における州政府向け財政支援(民主党案では0.4兆ドル)についても、かつてはニューヨークをはじめとした民主党の地盤でコロナの被害が大きかったことから共和党が反対していました。しかし直近では共和党の地盤でも被害が拡大していることから、共和党も賛成する可能性があります。

その他の項目も含め、1兆ドル程度の追加景気対策が近いうちに実現すると筆者は考えています。

<写真:ロイター/アフロ>

2021年後半は法人増税実施、インフラ投資は規模縮小も

一方、年後半に株式市場の下押し要因になりそうなのは増税です。バイデン氏はトランプ大統領によって35%から21%に引き下げられた法人税を28%に引き上げることを公約として当選しました。

コロナの感染が続く中で増税に踏み切ることは簡単ではありません。ただ、かつて前FRB議長で財務長官就任が確実視されているイエレン氏の愛弟子である米サンフランシスコ連銀のデイリー総裁は10月13日の会見で、「実体経済回復の足取りが鈍く国民の多くが依然として失業状態にある中で株式だけが上昇しているのは不公平で、ウォールストリートが勝利しメインストリートが敗北している事例だ」との問題意識を示しています。

法人増税による景気対策の財源確保はマーケットフレンドリーと言われているイエレン氏やFRBも含め、コンセンサスが取れていると言えます。

上院における民主党の議席は共和党による議事妨害を防ぐ60には届いていませんが、財政調整措置という例外的な規定を用いることにより50の単純過半数で増税を行うことができます。

トランプ政権もこの財政調整措置を用いることで減税を成立させました。トランプ政権の減税が成立したのは発足から1年近くが経過した2017年12月であり、コロナの感染が引き続き拡大していることを踏まえても、バイデン政権による増税が行われるのは早くて今年の年末でしょうが、増税自体は高い可能性で実施されると筆者は考えています。

また、バイデン政権のインフラ投資拡大に期待する声もあります。しかし、バイデン氏の再生エネルギーなどを主体とした2兆ドルの投資に対しては民主党内でも反対意見が出ています。

増税実施に対して歳出が縮小すると、バイデン政権の財政運営が予想外に緊縮化してしまいます。議席が50対50で一人の造反も許されない状況ではインフラ投資の規模縮小を余儀なくされるでしょう。

予想外の緊縮財政で市場の期待剥落も

これまでのところ、株式市場は追加の景気対策への期待から上昇を続けています。しかし、増税はかなり高い確率で実施されそうですが、インフラ投資は大規模なものにならない可能性があります。

そもそも、家計向け給付、州政府支援、インフラ投資などは景気にはプラスなものの、株式市場に上場している大企業の業績を直接押し上げるものではありません。一方、法人増税は確実に企業利益を削ります。

S&P500の一株当たり利益はトランプ減税の際に大きく伸びましたが、その一部が巻き戻されることは覚悟すべきでしょう。年後半にかけてバイデン政権の財政政策に対する株式市場の期待剥落には注意する必要があります。

※内容は筆者個人の見解で所属組織の見解ではありません。

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