23年ぶり珍事はなぜ起きた? 殿堂入り競技者表彰「該当者なし」に終わった理由

高津臣吾氏、山本昌氏、ランディ・バース氏、掛布雅之氏(左上から時計回り)【写真:荒川祐史】

選手のメジャー志向、投手の分業制で候補者の“小粒”化を懸念する声も

競技者表彰で1人も殿堂入りできなかったのはなぜか──。公益財団法人「野球殿堂博物館」は14日、2021年の野球殿堂入りを発表。競技者表彰は「プレーヤー表彰」、「エキスパート表彰」ともに選出者がいなかった。競技者表彰で1人も殿堂入りしないのは、1998年以来23年ぶり。「プレーヤー表彰」と「エキスパート表彰」の2部門となった2008年以降では、初めての事態だ。一方、特別表彰では、1996年アトランタ五輪日本代表監督の川島勝司氏、ノンフィクション作家の佐山和夫氏の2人を選出した。

「プレーヤー表彰」は、現役引退後5年以上、21年未満の人が対象。今年は前巨人監督の高橋由伸氏、元中日投手の山本昌氏、横浜(現DeNA)と中日で捕手として活躍した谷繁元信氏、現日本ハム1軍ヘッド兼打撃コーチの小笠原道大氏、ダイエー・ソフトバンクで活躍し平成唯一の3冠王となった松中信彦氏ら11人を新たに加え、昨年から引き続いて候補となった19人と合わせ、計30人がノミネートされていた。

野球報道に15年以上携わっている表彰委員が、最大7人連記で投票。当選には有効投票の75%以上の得票が必要だ。今年は358人が投票。得票数トップの現ヤクルト監督・高津臣吾氏も72.3%(259票)で、あと10票足りなかった。2位は山本昌氏の68.2%(244票)、3位はアレックス・ラミレス氏の65.1%(233票)と続いた。プレーヤー表彰で選出者がいないのは、昨年に続いて2年連続2度目。

競技者表彰委員会代表幹事の永瀬郷太郎氏「有力な新人候補が集中したのは極めて珍しい」

昨年に続いて候補となった19人のうち、高津氏とラミレス氏の得票数は昨年と同じ。その他の17人は得票数を減らした。その分、新候補者11人に票が流れたことになる。競技者表彰委員会代表幹事の永瀬郷太郎氏は「今回のように有力な新人候補が集中したのは、極めて珍しい。その分、票が割れた」と分析した。

一方で、「最近は選手たちのメジャー志向が強まり、挑戦して“壁”に跳ね返される選手も多いことから、通算成績が伸びない傾向がある。投手でいえば、先発ローテーションや先発・リリーフ分業化も定着し、昔のように何百勝もするのが難しい状況だ」と指摘する関係者もいる。

2025年に候補者入りするとみられるイチロー氏のような超大物も残っているが、「全体的に候補者は“小粒”になっていくのではないか」と懸念する声が上がっている。

「エキスパート表彰」は、指導者としての実績も加味し、監督・コーチ退任後6か月以上、もしくは現役引退後21年以上を経過した人が対象。野球報道30年以上の委員などが最大5人連記で投票し、75%以上を得票すれば殿堂入り。今年の有効投票数は134で、候補者20人のうち、得票数トップのランディ・バース氏は70.9%の95票。当選にあと6票足りなかった。2位は掛布雅之氏の54.5%(73票)だった。現役時代に3冠王に2度輝き、熱心な阪神ファンにいまだに「神」として崇められているバース氏だが、指導者経験はなく、今更ながらエキスパート部門で議論されるのには、やや違和感もある。

野球人にとって最高の栄誉ともいわれる「殿堂入り」。来年こそ、競技者からそれに浴する人が現れるだろうか。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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