GMが実現するEV時代を見据えた移動のイノベーション ーCES2021レポート6

オンラインで開催されているCES2021レポートの第六弾は、GMのキーノートから。CES2021のオープニングキーノートは自動車販売シェア世界4位のGeneral Motors(以下GM)が担った。自動車メーカーがCESのオープニングキーノートを行うのは、2017年のFordに続いて2回目だ。GM CEOのMary Barraは冒頭で2020年に起こった2つの社会問題とその対応を説明した。まず、コロナの感染拡大に対して従業員の安全、顧客の安全のために販売手順の改善、例えば、自動車のクリーニング手順の強化等自社のビジネスプロセスを変革したということ。そして、医療機器メーカーのVentec Life Systemsと共に自動車技術を活用した人工呼吸器を開発、3万台生産。またリモートワークができない労働者を支援するために2億個のフェイスマスクの製造も行ったという。このような取り組みでGMの社会的な存在価値がこれまで以上に高まったのではないだろうか。多くの北米企業の経営者と同じように「ジョージ・フロイド氏の事件(※)」に触れ、これまで以上にダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを推進するために1000万ドルの予算を割り当て、世界で最も多様性を尊重する企業になる宣言をした。※アフリカ系アメリカ人の黒人男性ジョージ・フロイド(George Floyd)が、2020年5月25日にミネアポリス近郊で、警察官の不適切な拘束方法によって死亡させられた事件実際にキーノートのプレゼンテーターからも、その様子を垣間見ることができた。

EVへの取り組みとLGと共同開発したバッテリー「Ultium」

GMでは3つのゼロ、「クラッシュゼロ」「ゼロエミッション」「渋滞ゼロ」の世界を目指すことをビジョンとしている。この実現のためのKSFが「車両の電動化」だ。電動化によって環境を汚染する排出物を大幅に削減できることをはじめ、コネクテッド化も進むため、事故や渋滞を無くすことに繋がっていく。LGと共に開発した大容量・高密度バッテリーUltiumは10分の充電で90マイル(約150㎞)走行でき、フル充電で600マイル(約1000㎞)の走行を可能とするという。ちなみにガソリン満タンで1000㎞以上走行できる車は最新のハイブリッドカーでも一部の車種に限られるという。

EVオーナー向けサービス「Ultifi」

またGMが提供するEVオーナー向けサービス「Ultifi」は、スマホのアプリで電気残量、駐車位置、走行状態、メンテナンスが必要な部品などが確認できるこれからの当たり前になると思われる仕組みだ。コネクテッドカーはある意味「自動車のスマホ化」という表現をする方がいるが、まさにスマホと一体化する流れが明らかになると同時に、スマホのように家庭で毎晩充電するデバイスになっていく。

ハンズフリー運転にも対応した保険、「OnStar Insurance」

ハンズフリードライブ「Super Cruise」さらにコネクテッドが前提のEVならではとなる、自動車保険「OnStar Insurance Services」を保険代理店に認定した。この保険は走行状況に応じた一人ひとりにパーソナライズされた保険内容と保険料を提供するだけでなく、GMのハンズフリー運転支援システム「SUPER CRUISE」へ対応していることが特徴だ。SUPER CRUISEは走行車線変更なども自動で行えるようになっているため、万が一事故が起こった際に、事故の責任が運転手なのか自動車なのかが把握できるようになっていることが必要となる。現状の仕様では、事故後すぐに、どのような状況で誰が運転している時に事故が発生したかが確認できるデータをEVが送信し、適切な対応ができるようになっている。

次世代コンセプトかーと、有人ドローン

有人ドローン(左)個人用自動運転カー(右)次に、キャデラック、ハマーのEVを紹介した後、「Cadillac Halo Portfolio」の中から2つのコンセプトモデルを発表した。1つはPAV(個人用自動運転車)でトースター型(日本で言うとワンボックスタイプ)の自動運転リムジンだ。車内環境は乗車されている人の状態をセンシングし、最適な温湿度にするだけでなく、アロマテラピーにも対応し快適な空間を提供するという。そしてもう一つのモデルが、GMとして初の電動垂直離着陸機(eVTOL)、つまり、人が乗車できるドローンだ。こちらは既視感の無い先進的なデザインをアピール。eVTOLによる空中の移動は渋滞とは無縁の贅沢な移動を実現するものだ。

物流への取り組み BrightDrop

年々拡大していた物流市場だが、コロナの蔓延で加速的に荷物の運搬量が増えている。このような課題に対応するためにGMは物流ソリューションとしてBrightDropを発表した。BrightDropはEV運送トラック「EV600」と、電動パレット「EP1」で構成されている。電動パレットEP1は車から家庭までのラストワンマイルの配送を支援するもので、配送員の移動に併せて自動で走行するEVだ。

EV運送トラック「EV600」

電動パレットEP1数か月後にリリース予定で、街中を動く様子が見られるようになるということだ。また、2021年末にリリース予定のEV600はEP1運搬トラックとして開発されているだけでなく配車システムと共に提供されるという。つまりBrightDropは荷物配送の最適化、リアルタイムでのマネジメントの実現だけでなく、地球環境にも貢献する次世代物流ソリューションである。

GMの取り組む自動運転 「Cruise」

自動運転 「Cruise」最後に自動運転の現状として、「GM Cruise」が2020年末にサンフランシスコの公道で自立走行テストを行ったことを紹介した。その際、コロナ対応も含め、14万件を超える食品デリバリーを行うとともに、ウォルマートとのパートナーシップによるアリゾナ州での食料品配送のトライアルも開始したという。このような取り組みで単なる人の移動支援だけはない自立走行車の活用市場の拡大を目指していくということだ。そして商用展開に向けては、「今後5ヶ月かけてミルフォード試験場での走行テストを行いつつ、2021年は公道で数十万マイル走行し様々なデータ収集をしていく予定だ」とした。GMのキーノートは徹底したEV訴求だったが、「単なるエコカー訴求」ということではなく、環境問題を解決すると同時に、人々の快適な移動や暮らしを実現するソリューションとしてのEVという位置付けだった。これからの事業は持続可能性が重要と言われているが、それぞれの内容が社会課題に応えるものであり、特にBrightDropは、まさにその象徴的な事例として注目すべき内容だった。

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