GR010ハイブリッド“初乗り”のはずがまさかの雪! 一貴&可夢偉に聞くLMHの現状と、スケジュールへの懸念

 1月15日、トヨタGAZOO RacingはWEC世界耐久選手権に投入する新型ル・マン・ハイパーカー(LMH)『GR010ハイブリッド』を正式に発表。同日、スペインのアラゴンからリモートでのプレスカンファレンスを行ない、ドライバーやチーム首脳が報道陣の質問に答えた。

 本来はこの前日まで、GR010ハイブリッドの走行テストがモーターランド・アラゴンで行なわれている予定だった。

 昨年10月にポール・リカールで行なわれたシェイクダウン、そして12月のポルティマオでの開発テストをいずれも全日本スーパーフォーミュラ選手権参戦のため欠席している中嶋一貴と小林可夢偉にとって、このアラゴンでのテストがいよいよGR010ハイブリッドの初ドライブ、となるはずだったが……。

 サーキットに到着してみると、「スキー場かっていうくらいに」(一貴)雪が一面に降り積もっていた。

「結局、テストの時間がとれるのは最大でも今日(15日)までという状況だったのですが、(テストできるかどうか)不透明な状況でスタッフを残しておくわけにもいかないので、昨日までに雪が溶けるのかどうかをチームが早めに判断して(中止になりました)」と一貴。

 マイク・コンウェイを除く5人のレギュラードライバーとリザーブのニック・デ・フリース、テクニカル・ディレクターのパスカル・バセロンとチーム・ディレクターのロブ・ロイペンらはマシンのテストができないまま、プレスカンファレンスのために現地に居残る形となった(コンウェイは自宅から出席)。

 GR010ハイブリッドと対面したときの第一印象を可夢偉は、「パッと見、デカいですね」と語る。

「ル・マンのガレージの中がさらに狭くなるな、っていうのが第一。前のクルマ(TS050ハイブリッド)でさえ結構ギュウギュウだったのに、いまのクルマ(GR010ハイブリッド)が2台入ったら、結構大変だろうなと思います」と、そもそも間口が狭いサルト・サーキットのピットガレージを気にかける。発表されたスペックでは、全長が250mm、全幅と全高がそれぞれ100mm、TS050ハイブリッドから大きくなっている。

「(以前のテストに参加した)他のドライバーの話を聞く限りでは、しっかり走っているということです。これからはハイパーカー、さらにLMDhというマシンが参加してくることになり、一番大きく変わるのはBoP(性能調整)が入るということ。これまでは速いクルマを作れれば勝てるという話でしたが、BoPが入ることで戦い方そのものが変わってくる。これからのWECで成績を残すための、一番のポイントなのかなって思います」

リヤまわりの造形も特徴的なGR010ハイブリッド

 一方の一貴も「正直、まだクルマに乗っていないので何とも言えないんですが……」と困惑しながらも、「単純にクルマが変わるタイミングっていうのは、すごく楽しみ」と前向きだ。

 ただ、「いまは状況が状況なので、スケジュールもはっきりとは見通しづらい。そのなかでできる限りの準備をして、いい形でシーズンに臨みたいと思います」と、新型コロナウイルスの影響によるスケジュール変更の可能性や、移動の制限などを気にかけている様子だった。

 2021シーズンのWECは、3月にアメリカのセブリングで開幕する。その直前にセブリングで行なわれる公式テストまでの間に、あと1回の開発テストが予定されているようだ。ふたりのGR010ハイブリッド初乗りは、早くてそこで実現することになる。今回のアラゴンテスト中止の影響は、決して小さなものではない。

「ただ、一番のポイントはそもそもセブリング(の開幕戦)はあるのか、っていうこと」と可夢偉は言う。

「僕の感覚では、厳しいと思いますよ。いまアメリカ(デイトナ24時間)に行く前なのでいろいろと情報を聞いていると、まずお店がやってないらしいですからね。そんな状況で本当に(3月にレースが)できるのかって言ったら、正直厳しいんじゃないのかな、というのが本音です」

 もしセブリングが中止(あるいは欧州内で代替レースを開催)となれば、ヨーロッパでテストできる機会が増える可能性もなくはないようだ。

 なお一貴、可夢偉ともにGR010ハイブリッドのシミュレーター・テストは、これまでしていないという。

 準備不足で開幕を迎える可能性について「僕は全然大丈夫です」と可夢偉。一貴も「同じく大丈夫じゃなきゃいけないので、その状況であればそれでやるだけ」と、現実を淡々と受け入れる構えだ。

 ふたりはともに全日本スーパーフォーミュラ選手権への参戦が見込まれるが、可夢偉は「現状は渡航規制、(帰国後の)2週間の自主隔離がある状態ですが、僕らはWECが優先になります」と語り、スケジュール次第ではWEC以外のカテゴリーにフル参戦できなくなる可能性を示唆した。

 なお、プレスカンファレンスのなかでチーム・ディレクターのロイペンは、昨シーズンLMP2で活躍した山下健太について、新型コロナウイルスに関わる各国の移動制限を主な理由として2021シーズンのWECには参戦しないことを明らかにしている。

© 株式会社三栄