時津町の減塩推進事業 高血圧対策に地元店舗とタッグ

時津町の減塩レシピに使っている減塩しょうゆが町内でも販売されている=同町浦郷

 西彼時津町は住民の高血圧対策として、「減塩」に焦点を当てた「町減塩推進事業」に2019年度から取り組んでいる。減塩しょうゆの取り扱いや減塩弁当作りなど地元商店や飲食店の協力を得ながら、無理なく自然に減塩できる食環境整備に力を入れている。
 「ラーメンの汁は飲みますか」。元村郷の町保健センター。指導を受けに来た高齢男性に、保健師の矢野綾子さん(47)が尋ねた。よく食べる物にどれくらいの塩分が含まれるか、資料を作って後日訪問する。1日に塩分を何グラム摂取しているか、実際には分かりにくいからだ。
 県国保・健康増進課によると、本県は厚生労働省が16年度の特定健診(40~74歳)の結果などをまとめたデータで、収縮期血圧(上の血圧)の平均が男性129.0(全国平均126.4)と全国ワースト2位、女性は124.2(同121.2)で同1位。高血圧の人の割合が高い傾向だ。同町でも国民健康保険(国保)加入者の疾患で高血圧の割合は例年トップになっている。

●家庭でも気軽に

 町保健センターによると、高血圧は脳、心臓、腎臓の疾患とかかわりが深く、自覚症状がないまま放置すると、介護が必要となったり日常生活に支障が出たりするような重い病気に進む恐れもある。「血圧をコントロールさえできれば大きな病気を予防できる」としてコントロールに効果的な減塩に着目した。
 国保加入者を対象にした町の特定健診(40~74歳)受診者のうち、高血圧の中等度以上の人の割合を全体の4.1%(17年度)から1.7%(23年度)にまで減らすのが目標。そのためにも厚労省の「日本人の食事摂取基準」が示す1日の食塩相当量(20年版では男性7.5グラム未満、女性6.5グラム未満)を勧めている。
 ただ、減塩食は「おいしくない」と敬遠されがち。そうしたイメージを払拭(ふっしょく)し、家庭でも気軽に減塩に取り組んでもらえるよう、19年に開いた減塩フォーラムでは講演と、町管理栄養士が開発した「減塩おでん」の試食会を実施。おでんの味付けは評判が良かった。
 この時に使用した減塩しょうゆは、塩分が減ってもおいしくなるよう、うま味成分を補うなどして開発された商品。日本高血圧学会も推奨しており、料理の際も普通のしょうゆと置き換えたり、他の減塩調味料と合わせたりするだけで済む。

●レシピ集を配布

 ただ九州では、このメーカーの減塩しょうゆが販売されていなかったため、「自然に減塩できる手伝いができれば」と、取り扱ってくれる町内店舗を募集し、2店が応じた。うち、水元菓子店(浦郷)の水元あけみさん(72)は「減塩しょうゆを使っても料理の味は変わらない」と太鼓判。お酒の泉屋山下酒店(日並郷)店主、山下房子さん(71)は「客に薦め、何本かまとめて配達することもある」と話した。
 町は減塩しょうゆを使ったレシピ集を作り、商品の購入者に配布する一方、外で買って家で食べることも珍しくない現代の食環境に対しては、減塩料理を提供してくれる飲食店の協力を募った。その結果、居酒屋食堂シエスタ(浜田郷)が町管理栄養士監修の減塩弁当を昨年2月から毎週木曜日に販売している。「しょうが焼き」「鶏肉のトマト煮込み」の各弁当は栄養バランスの取れた食事「スマートミール」に認定。オーナーの山崎純子さん(54)は「減塩を感じさせないので、安定して注文を受けている」と話す。
 取り組みは少しずつ知られるようになった。矢野さんは「協力店が増えれば町民にとって買いやすい状況となる。それをきっかけに消費者が求めれば減塩商品の取り扱いや開発が進むのでは」と広がりを期待している。

居酒屋食堂シエスタが販売する減塩弁当(しょうが焼き)。1食当たりの食塩相当量は2.8グラム

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