トリプルブルーで動く死刑廃止 孤立する日本は対抗できるのか

 連邦議会議事堂の襲撃に続く大統領弾劾訴追の陰に隠れた形で目立たないが、最近、米国について重要な2つのニュースが報じられた。、ジョージア州での上院議員選挙と死刑確定者の女性への死刑執行がそれである。

 この2つのニュースは無関係ではない。そして、それらは日本にとっても大きな意味を持つ。読み解いていきたい。(弁護士=芦塚増美)

ジョージア州での決選投票で勝利した民主党のウォーノック氏(左)とオソフ氏(ロイター=共同)

 ▽ジョージア州上院選挙のインパクト

 まず、南部ジョージア州の上院議員選挙の決戦投票では民主党の候補2人が当選した。大統領選でも民主党のバイデン候補が勝利しており、これによってアメリカは「トリプルブルー」となった。トリプルブルーとは大統領、上院、下院のすべてが民主党の主導権の下に置かれることをいう。民主党のシンボルカラーがブルーだからだ。

 ジョージア州で勝利した民主党候補は、ツイッターを重視して政策を訴えた。ジョージア州は共和党の地盤であり、民主党支持者は相対的に少ない。民主党候補2人は、これまで選挙に行かなかった層をターゲットにして、連携して活動した。

 2人のうちオソフ氏はドキュメンタリー映画プロデューサー。33歳の若手であり、資金力にも乏しかった。これを補うように、ツイッターの更新は際立って多かった。

 もう一人のウォーノック氏(51)は、南部ジョージア州では初のアフリカ系上院議員となる。古くからの支持者もいて、その経験に信頼を置く人も多かった。

 ここで注目するべきは、死刑問題についてのそれぞれの姿勢である。

バイデン氏(ロイター=共同)

 バイデン氏は政策として死刑廃止を明確に掲げた。4年前の民主党候補・ヒラリー・クリントン氏は死刑問題について、はっきりした立場を示すことはなかった。しかし、バイデン氏は旗幟鮮明であり、迷いを見せていない。

 そしてジョージア州で当選した上院議員の2人も、死刑廃止を主張している。オソフ氏はツイッターで死刑廃止を明言している。ウォーノック氏も教会で死刑廃止を訴えていた経歴を持つ。

 ▽差別的刑事司法を批判するBLM運動

 市民レベルに目を転じると、米国の死刑廃止運動はこれまで、公民権運動と連携することはなかった。だが、警察官によるアフリカ系市民の殺害事件などを受けた「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動の高まりと死刑廃止運動は結びいている。

 アフリカ系市民の刑事裁判における有罪率が他の人種より高い、冤罪事件も多いとの報告もあり、その差別的な刑事司法の究極にある死刑制度にも批判的な目が注がれているのだ。

 トリプルブルーの政治の動きと、こうした市民運動は連動し、状況を動かす可能性は高い。

 もう一つのニュース、死刑が確定していた女性への死刑執行は、この流れにあらがおうとするトランプ政権の意思であろう。

 米国では連邦や州ごとに死刑への対応は分かれていて、連邦レベルでは2003年以来、死刑の執行がなかった。ところがトランプ大統領は昨年7月から死刑執行を再開、AP通信などによると、これまでに11人の死刑を執行した。

トランプ氏

 政権の移行期間中は、死刑を執行しないという伝統、慣行もあった。しかし、トランプ大統領はこの慣行を無視した。本来、政権の移行期間中でなく選挙戦中であっても、死刑廃止を掲げる人が候補になったら、執行を先送りするべきだが、トランプ氏にはそんな道理は通用しなかった。

 ▽女性死刑囚への死刑執行が招く反発

 トランプ氏のやり方はしかし、強い反発を招き、米国での死刑廃止への動きを加速させるかもしれない。死刑を執行された女性について、幼少期に虐待を受け、そのために精神障害があったといった情報が流れるに連れて、この執行への疑問や非難が国際的にも高まっているからだ。

 バイデン氏は大統領就任直後に動くかもしれない。上院、下院の死刑廃止決議は、いつでも可能である。米国の死刑廃止は突然、行われることもあり得るのだ。

 アメリカのトリプルブルーと死刑廃止運動の高揚に対して、死刑存置国である日本はどう対抗するのか。アメリカが死刑廃止国となれば、昨年、韓国が国連の死刑執行停止決議に賛成していることから、OECD加盟国でただ1カ国、日本だけが死刑を存置し執行を継続していることになる。

 この国際的な潮流から孤立して、「世界で最も人権を軽視している国」という非難に対抗する理論を構築し、国際社会を納得させることは不可能ではないか。 

芦塚増美氏

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 あしづか・ますみ 中央大法学部卒、1992年弁護士登録。福岡県弁護士会。2020年6月から日弁連死刑廃止・刑罰制度改革実現本部副本部長。『被害者問題からみた死刑』(日本評論社、菊田幸一監訳)のうち「恣意の不可避性 」と「国際法違反の死刑事例」を翻訳。

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