元女子プロ野球選手から教師に転身 身をもって感じた「技術よりも心が大事」

駒大苫小牧女子硬式野球部の佐藤千尋部長【写真:石川加奈子】

女子プロ野球選手から体育教師に転身した佐藤千尋部長

野球人口の底辺拡大を願い、Full-Countでは女子野球の「今」を伝える連載を随時展開している。連載第2弾は今春創部した駒大苫小牧。04、05年夏の甲子園連覇に関わった茶木圭介監督に続き、女子プロ野球選手から体育教師に転身した佐藤千尋部長の最終回は、指導者として目指すものについて語る。

この1年間でノックバットを振る姿も様になってきた。04年夏の甲子園で男子野球部が優勝したことで有名になった氷点下の屋外で行う雪上ノックにも意欲満々だ。「雪が積もったら、雪の上でも打ちますよ。下が白いだけで土と一緒と聞いていますから」。新天地にすっかり適応している佐藤部長は、そう言ってさわやかに笑った。

プロ8年間で身につけた技術を全国各地から集まった1期生徒24人に伝授しながら、基礎の大切さを説いている。「私の高校生時代より意識が高い子たちばかり。日本一になるんだと気持ちを決めてここに来ているので、飲み込みが速く、成長が著しいです。最初の頃に体力や反復練習への意欲が足りないと感じたので、基礎、基本が大事という話はよくしています。うまくなっていることを実感して、取り組みが変わってきています」と選手の成長に目を細める。

近年のスポーツ界では女性指導者が増えている。アーティスティックスイミングやソフトボールなど世界トップクラスのチームをけん引する女性指導者も目立つ。野球界でも侍ジャパン女子代表監督に2代続けて女性が就任した。女性指導者が女子選手を指導する利点や難しさについて、指導者1年目の佐藤部長はどう感じているのだろうか。

「今こんな感じなのかなとか、こんな気分なのかなという部分は察しやすいです。逆に、やりにくいということはないですね」と選手の気持ちを理解できるメリットを口にした。

「私は周りが見えないし、気が利かない。茶木先生をイライラさせる天才です」

気持ちを分かった上で、一定の距離は保っている。「実際に選手からどう思われているのかは分かりません。なめられているのか、怖いと思われているのか」と笑いながら打ち明けた佐藤部長。「どう思われているのか気にならないというか、そんなことを言ってられないという感じです」と必死に目の前の選手たちと向き合っている。

「大事な時期を預かっているので、ダメな時はダメと厳しく愛情を持って接することのできる指導者になりたいと思っています」と理想像を語る。「技術よりも心が大事だということを私自身、身を持って感じました。指導者である限り、そういう部分を伸ばせるようにしたいですね」と続けた。

柔らかな人当たりからは、厳しく指導する姿がなかなか想像しにくいが……。「そうですか? 怒鳴ったりはしないですけど、『それでいいの?』とか結構言いますよ。どう言ったら良いか探り探り言うこともあれば、ガツンと言って後でもう1回呼んで話をすることもあります」。そのしっかりとした口ぶりからは、現場でさまざまな経験を積んでいる様子が伺える。

女子野球部でコンビを組むのは男子野球部の部長として甲子園で優勝した茶木監督だ。「私は周りが見えないし、気が利かない。茶木先生をイライラさせる天才です」と佐藤部長が謙遜するのは、熱血漢の背中を見て多くのことを吸収しようとしているから。その茶木監督が「いつか監督になってほしい」と期待を寄せる新米先生は、創部したばかりの女子野球部とともに成長していく。

○佐藤千尋(さとう・ちひろ)

1989年10月22日生まれ。岩手・一関第一高時代はソフトボールで全国高校選抜大会に出場。北海道教育大岩見沢校進学後、男子硬式野球部にマネジャーとして入部し、2年春から選手になった。大学卒業と同時に女子プロ野球入りし、13年に二塁手でベストナイン、18年に外野手でゴールデングラブ賞のタイトルを獲得した。プロ8年間で334試合に出場し通算打率は.281。今春から駒大苫小牧の体育教師になり、女子硬式野球部の部長を務める。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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