ゲートキーパーになろう!~自殺の危険を抱えた人々に私たちができること~ 

新型コロナウイルスへの対応に追われる日々のなかで、生きることに困難を感じている方もいらっしゃると思います。
中には、自殺する以外には解決策がないとお考えの方もいらっしゃるかも知れません。
このような困難を抱えている方々に対して、私たちが少しでもできることはないのでしょうか。
答えのひとつが「ゲートキーパー」です。
今回は、ゲートキーパーについてわかりやすく説明します。

自殺を考えている方の特徴

まずは自ら命を絶とうとしている方がどのような特徴があるのか解説します。

1. 心理状態

自殺を考えている方の心理状態は、以下の特徴があると考えられています。

(内閣府,2013)

2. 自殺につながるサインや状況

「死にたい、死にたい」と口癖のように訴えたり、手紙や写真の整理をしたりなど、いくつかの特徴があると言われています。

2020.08.24

「自殺したい」は特別な感情?

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このようなサインや状況をあなたの周囲で見かけた時、温かい声を掛けたいものです。ゲートキーパーは、そのような役割をする人なのです。

ゲートキーパー

「産業保健新聞」では以前にもゲートキーパーをご紹介しました。

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1. ゲートキーパーとは

「ゲートキーパー」とは「悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る人」(内閣府,2013, P6)です。
自殺対策におけるゲートキーパーの役割は「心理社会的問題や生活上の問題、健康上の問題を抱えている人や、自殺の危険を抱えた人々に気づき適切にかかわること」(内閣府,2013, P6)とされています。
政府はこのゲートキーパーを養成するためのテキストを作成し、市区町村などの自治体や民間団体などが研修を盛んに開催しており、研修をしっかり受ければ誰でもなることができます。

2. ゲートキーパーの心得

ゲートキーパーの心得として、以下が挙げられています(内閣府,2013)

・ 自ら相手とかかわるための心の準備をする
・ 温かみのある対応をする
・ 真剣に聴いているという姿勢を相手に伝える
・ 相手の話を聴く
・ ねぎらう
・ 心配していることを伝える
・ わかりやすく、かつゆっくりと話をする
・ 一緒に考えることが支援
・ 準備やスキルアップも大切
・ 自分が相談にのって困ったときのつなぎ先を知っておく
・ ゲートキーパー自身の健康管理、悩み相談も大切

<参照>
厚生労働省「誰でもゲートキーパー手帳」

3. ゲートキーパー研修の実際

数年前、私はゲートキーパーに関する研修に参加し、講義とロールプレイの2本立てでゲートキーパーの理論と実際を学びました。
以下に、主として学んだことを2点ご紹介します。

(1) なぜ自殺予防が大切なのか
この研修では以下の3点が挙げられていました(小高,2020)。

① 死ななくて良い命が助かること。死ぬ以外の方法もあることに気づいてもらえる
② 家族の生活崩壊を防ぐこと
③ 連鎖自殺を防ぐこと

(2) 「今死にたいと思っていますか?」と尋ねること
「こんなことを聞いてしまったら自殺への後押しになってしまうのではないか」と思ったのですが、講師によれば「自殺を考えているかについて質問したとしても、それがその人の自殺の後押しになってしまうことはない」(小高,2020)とのことでした。
むしろ、その方が自殺を考えているか(自殺念慮があるか)を確かめることが重要であるようです。
現在、YouTubeの厚生労働省チャンネルでは、ゲートキーパー研修の動画が公開されています。

<参照>
厚生労働省/MHLWchannel「こころのサインに気づいたら」

メンタルヘルス・ファーストエイド

ゲートキーパーは、メンタルヘルス・ファーストエイド(Mental Health First Aid)の考え方を基にしています。
メンタルヘルス・ファーストエイドは、「メンタルヘルス(心の健康)の問題を抱える人に対して、専門家による支援の前に提供する支援のこと」(キッチナー&ジョーム,メンタルヘルス・ファーストエイド・ジャパン編訳 2012,P10)を意味し、以下の5つの基本ステップがあります。

1) 自傷・他害のリスクをチェックしましょう(り:リスク評価)
2) 判断・批判せずに話を聞きましょう(は:はんだん、批評せずに話を聞く)
3) 安心と情報を与えましょう(あ:あんしん、情報を与える)
4) 適切な専門家のもとへ行くよう伝えましょう(さ:サポートを得るように勧める)
5) 自分で対応できる対処法(セルフ・ヘルプ)を勧めましょう(る:セルフヘルプ)
(内閣府,2013)

このような支援を身近にいる人たちが行うことで、悩んでいる人の孤立を防ぎ、安心してもらうことができるのです。
メンタルヘルス・ファーストエイドは、ゲートキーパーのほか身体疾患やアルコール依存、災害対応などの場面においても活用されています(厚生労働省,2016)。
さらには、大学生の心理的問題への活用方法としての研究も行われています(河合,2016)。
統計によると、2020年は新型コロナウイルスの第一波が収束した7月頃から自殺者数が増え始め、10月は2015年以降で最も多い人数となりました(厚生労働省,2020)。
また、毎年3月に自殺者数が最も多くなる(厚生労働省,2020)ことから、ゲートキーパーに少しでもご興味をお持ちになった方は、今から研修に参加したり、動画をご覧になり、あなたの近くにいる悩みを抱えている方に温かい言葉を掛けてみてはいかがでしょうか(厚生労働省,2020,P1)。

【産業保健新聞に掲載された記事】

2020.08.24「自殺したい」は特別な感情? 自殺は誰の周りにも起こる 皆さんこんにちは。 精神保健福祉士の笹井です。 働く皆さんにお届けする産業保健新聞、本日のテーマは「自殺」です。 先日、若手俳優の自殺が報道されました。 突然の訃報であるために、大きな...

2020.12.15

コロナ禍の今、改めて自殺対策を考えよう

「自殺」と聞いて、皆さんは何を思いますか。 自分は自殺するはずがない、自分には関係ない、周りで起こったことがないから身近に感じないなど、思いはさまざまだと思います。 最近では芸能人の自殺が立て続けに起こったこともあり...

【引用・参考資料】
・ 河合輝久「大学生は身近な友人の心理的問題にどのように対応するか—抑うつ症状に対する初期対応の生起過程モデルの生成—」(「教育心理学研究」2016年3月)
・ B・キッチナー (著)、A・ジョーム(著)、メンタルヘルス・ファーストエイドジャパン(翻訳)『専門家に相談する前のメンタルヘルス・ファーストエイド:こころの応急処置マニュアル』(創元社、2012年)
・ 小高 真美「自治体等における自殺予防ゲートキーパー研修の作り方」(一般社団法人日本臨床心理士会第7回自死予防研修会(2020年10月17日開催))
・ 厚生労働省/MHLWchannel「こころのサインに気づいたら」
・ 厚生労働省「誰でもゲートキーパー手帳」
・ 厚生労働省「警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等(PDF)」
・ 内閣府「ゲートキーパー養成研修用テキスト(第3版)」(2013年)
・ 政府広報オンライン「あなたもゲートキーパーに!大切な人の悩みに気づく、支える」

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