「他人事」「覇気がない」菅首相の会見はナゼ響かない?専門家が分析

支持率が30%台に急降下した菅首相

国内の新型コロナウイルスの感染拡大に比例して、菅義偉首相(72)への批判の声が高まっている。9月の就任時にあった最大70%以上の高い支持率は、今や“コロナ失政”の声もあって30%台へと急降下。永田町では早くも「いつまで持つか…」という声まで出はじめているほどだ。どうしてこうなってしまったのか? スピーチライターの蔭山洋介氏が分析する。

官房長官時代の冴えはどこへ行ってしまったのか…。

携帯電話の通信料引き下げを促すなど、既存の自民党支持者だけでなく多くの若者からも支持されてきた菅首相。しかし、今や新型コロナ関連のネット記事のコメント欄にはネガティブな書き込みがズラリと並ぶ。

新型コロナ禍という有事に日本のリーダーを任されたがゆえの試練とも言えるが、一方で聞かれるのが、その対策が遅すぎるという不満の声。人の移動を促す自身の肝いり政策「GoToキャンペーン」の停止が遅れ、これに感染者の急増も重なって支持率が急降下してしまった。

中でも不満が強いのが菅首相の会見での姿だ。「目がうつろ」「覇気がない」といったものから、果ては「言ってることが人ごと」といったものまで、発言や政策の内容とは関係なく批判にさらされている。

テレビプロデューサーでタレントのデーブ・スペクター氏は17日、TBS系情報番組「サンデー・ジャポン」に生出演し、菅首相の会見に言及。「怖いんじゃないですか、自分の言葉でしゃべるのが。全国の知事は自分の言葉で言う。緊急事態宣言くらいは、本当に自分の言葉で言った方がいいのに、どうしても安全第一で用意されたものに頼っている」と指摘した。

そもそも菅首相の会見は何がいけないのか? 数多くの顧客を抱えるスピーチライターの蔭山洋介氏はこう分析する。

「一番ダメなのは原稿の棒読みで思いが伝わらないということ。会見で原稿を読むのは他国のリーダーもやるが、称賛される人もいる。その大きな違いは菅首相から感情が表に出てこないこと。性格的な部分かもしれないが、かつての小泉純一郎氏のように感情が表に出ないから、発言が『人ごと』などという、いわれもない批判を受けてしまう」

新型コロナで多くの死者が出ているドイツでは、先月9日、メルケル首相がテレビ演説を行った。この時、メルケル氏は“鉄の女”の異名からはほど遠い感情むき出しの姿勢で国民に窮状を訴え、「歴史的演説」と称賛された。同じく冷静沈着な菅首相も、メルケル氏ばりに普段との“ギャップ”を使って感情むき出しに訴えればもっと国民に響くはずだ。

また、蔭山氏は菅首相の会見について、別の問題点も指摘する。

「会見で読んでいる原稿の内容がとても分かりにくい。必要な情報を伝えているつもりかもしれないが、あまりにも文語的で伝わらないし、耳で処理できる情報量を超えてしまっている。これではテレビを見ている国民が関心を持てない」

通常、演説や会見の原稿は官僚や専属ライターが書くという。その場合、普通は聞く人に伝わりやすいように書かれているが、一分一秒を争う昨今の新型コロナ情勢だ。最初に出来上がった原稿に次々と情報が付け足されることは想像に難くない。

こうした可能性について蔭山氏は「政治家の会見原稿ではよくあること」としつつ、「普通は情報が追加された後に書き手が確認して最終稿となるが、何らかの理由によってそれができていないのではないか」と推測する。

このほかにも修正すべき点を挙げたらキリがないという蔭山氏だが、「ちゃんと聞いていると菅首相の言葉自体に力がないわけじゃない。ところどころ大事なところは心を打つくらい強い言葉で話している。ただ、それが原稿を超えた感情としてあふれ出ないのがもったいない」と分析する。

官房長官時代は冷静沈着に数々の修羅場をくぐり抜けてきた菅首相だが、一国のリーダーとなった今はそれだけではない“何か”を国民は求めているのかもしれない。

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