フランス製『シティーハンター』は、ヒャッハー!で抱腹絶倒!! あのフィリップ・ラショーが監督・主演だ!!

『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』©Axel Films Production

なぜ日本以外で実写化? 海外でも評価の高い「シティーハンター」

「シティーハンター」がフランスで実写映画化されると聞いたとき、どうして日本ではないのかと不思議に思った。それというのも、この作品の実写化は、過去にジャッキー・チェンが1993年に香港で行っており、またまた海外で? と思ったからだ。

ご存知のように「シティーハンター」は、1985年に「週刊少年ジャンプ」でスタートした北条司原作のコミックで、1987年にはテレビアニメの放送が始まり、4度のテレビシリーズ化と4本の劇場アニメが公開されている超人気コンテンツだ。コミックスの発行部数は、累計で5000万部を超えている。

その人気ぶりから、日本でも実写化されて当然なのだが、なぜか実現していない。現在、このフランスでの実写化の他に、中国でも黄 暁明(ホアン・シャオミン)主演で企画が進行していると聞くが、まさに海外でも評価の高い作品なのかもしれない。

フランスでの実写化を聞いて不思議に思った後に、驚いたことがあった。それは、この映画を監督するのが、あのフィリップ・ラショーだと知ったからだ。しかも、彼が主人公の冴羽リョウ(フランス版ではニッキー・ラルソン)を演じていて、脚本も自身で執筆しているという。

『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』©AXEL FILMS PRODUCTION – BAF PROD – M6 FILMS

『ヒャッハー!』シリーズを知っているか!?

フィリップ・ラショーという名前に馴染みがないという人も多いと思う。『世界の果てまでヒャッハー!』(2015年)という、日本では2016年に公開されたコメディ映画をニコラ・ブナムとともに監督した人物だ。『シティーハンター』と同じく彼自身が映画にも出演し、脚本にも参加している。

『世界の果てまでヒャッハー!』は日本公開時、あまり多くの劇場で上映された作品ではなかったので、ほとんど話題にはならなかった。実は自分も、1日で4本の映画を観ようとしたときに(バカなことをよくしていた)、つなぎ的な存在として、上映時間が嵌るこの作品をチョイスしたのだ。通常なら、このテレビ番組をもじった安易なタイトルを敬遠して、観賞しなかったに違いない。

ところがこの『ヒャッハー!』が、ことのほか面白かったのだ。下ネタやブラックジョークが満載で、ちょっと見にはただのおバカ映画なのだが、『ハングオーバー!』シリーズ(2009年~)や『カメラを止めるな!』(2018年)のような、とことん伏線を回収しまくるという、かなり作品としても完成度も高いコメディだったのだ。

物語の前半は、ブラジルの環境に配慮したエコなリゾートに出かけた一行が、同地のウリでもある手つかずの自然を見物に出かけ、行方不明になることから起こる珍騒動を描いている。後半では、彼らが遺した1台のビデオカメラによって失踪の「真実」が明らかにされ、隠されていた個人の秘密までが明らかになっていく。

前半で張りめぐらされた伏線が次々と回収されていくくだりは、実に鮮やかで、爽快でさえある。抱腹絶倒しながらも、緻密な脚本と計算され尽くした映像に、すっかり感心させられてしまう。劇場公開時は、あまり話題にはならなかったが、DVDや配信になってからは、結構カルトなフィリップ・ラショーのファンが生まれているようなのだ。

ちなみに、フィリップ・ラショーの『ヒャッハー!』シリーズは他に2本あり、1作目の前日譚ともいうべき『真夜中のパリでヒャッハー!』(2014年、実はこちらがラショーの監督デビュー作だが、日本公開は『世界の果てまで~』の後になった)と、『アリバイ・ドット・コム カンヌの不倫旅行がヒャッハー!な大騒動になった件』(2017年)がある。

ラショー関係を追求したいという人には、前2作の『ヒャッハー!』シリーズを共同監督したニコラ・ブラムの『ボン・ボヤージュ 家族旅行は大暴走』(2016年)という作品があるので、余裕があればこちらも。ラショーは出演にも脚本にも名前は連ねていないが、『ヒャッハー!』の雰囲気は楽しめる。

才人ラショーはコメディの究極をめざす

さて、そのフィリップ・ラショーの『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』だが、やはり『ヒャッハー!』な素晴らしい出来であった。冒頭からいきなり下ネタが炸裂し、これまでのラショーの作品には見られなかった本格的なアクションシーンも加わった。

『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』©Axel Films Production

しかもラショーが、原作者である北条司氏から映画化の許諾を得るために18カ月かけて書いたという脚本も、あいかわらず細部まで趣向が凝らされており、お得意の伏線の回収もいささか怠らない。

物語は、ラショーが演じる「シティーハンター」こと冴羽リョウ(日本吹替版のみこの役名)の元に、香りを嗅がされた者は必ずその相手の虜になってしまうという“キューピッドの香水”が持ち込まれるところから始まる。依頼主は、この世界をも支配できるかもしれない世紀の大発明を悪の手から守ってほしいとリョウに依頼するが、次の瞬間、バイクに乗った男に奪われてしまう。そこから物語は二転三転、途中お決まりの下ネタも交えながら、ハラハラドキドキで進んでいく。この“キューピッドの香水”の設定が、いかにもラショーの脚本らしい。

『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』©Axel Films Production

そもそも、フランス人であるラショーが「シティーハンター」に興味を持ったのは、フランスでアニメ版が「ニッキー・ラルソン」というタイトルで放送されていたことがきっかけだったという。

フィリップ・ラショーは1980年生まれの39歳だが、小学生のときにこのアニメの大ファンで(すでにかなりマセていた)、やがて長じて映画の仕事に携わることになり、実写映画化を切望していたのだという。

『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』©Axel Films Production

原作者の北条司氏の事務所に企画書、プロット、直筆の手紙を添えて送ったところ、脚本を読んでから契約を交わしたいということで、ラショーは前述の18カ月かけて執筆したという脚本を携えて来日。北条氏はラショーの脚本を読んで、48時間後にはOKを出したという。

「脚本をチェックしたいと言われたが、内心、少し怖かった。北条さんに原作に忠実だと気に入ってもらい、そのうえ、このストーリーは自分の原作にも入れたいと言ってくれたんだ」

ほとんどの作品で、監督・脚本・主演をこなす才人のラショーだが、もちろん『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』でも、見事に主人公の冴羽リョウを演じている。撮影の前には8カ月間の食事ダイエットとトレーニングを自らに課し、筋肉を8キロもつけたという。

『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』©Axel Films Production

「スタイリストが衣装を用意してくれた日を思い出すな。青いスーツに赤いTシャツ、黒いスラックスを身にまとった自分を、鏡で見たときはとても感動したよ」

このラショーの言葉通り、『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』では定番コスチュームで「シティーハンター」に成り切って、おバカで愉快な大活躍を見せる。

『ハングオーバー!』シリーズのトッド・フィリップス監督が『ジョーカー』でシリアスものに挑戦して新境地を開いたが、ラショーはあいかわらずコメディ作品の究極をめざしているところが嬉しい。

「とにかく面白くすることだけを考えている。今回、着想の源になったのは、何でもやってみせるアメリカのコメディだ。ファレリー兄弟の『メリーに首ったけ』(1998年)を初めて観たときはショックだったよ」

『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』©AXEL FILMS PRODUCTION – BAF PROD – M6 FILMS

ちなみに日本では「デラックス吹替版」での公開となるが、山寺宏一他、日本の人気声優たちが大集合している。こちら吹替版もなかなか興味深いが、フィリップ・ラショーの「ヒャッハー!」なファンとしては、フランス版の『ニッキー・ラルソン』の公開も映画会社にお願いしたいところだ。

文:イナガキシンジ

※冴羽リョウの「リョウ」は、けものへんに「僚」のつくり

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