五輪開催へ〝内村発言〟乱用する政治家…体操界からは同情の声

内村の発言が“無断引用〟されている…

体操界のキングこと五輪2連覇の内村航平(32)が思わぬ被害を受けている。現在、新型コロナウイルス禍で今夏の東京五輪開催の賛否が飛び交う中、政府や大会組織委員会の要人は開催をアピール。その決めゼリフとして自身の言葉が〝無断引用〟されているのだ。政治家たちは自身の主張を正当化するため、最終兵器のごとく使いまくっており、体操界は同情論一色。一体どういうことなのか?

連日のように議論の的になっている五輪開催是非。政府、東京都、組織委の3者は首尾一貫して開催の姿勢を貫くが、その主張の中で頻繁に使い回されている定型文が存在する。「人類がコロナに勝った証し」「トンネルの中の一筋の光」などが代表例だが、中でも「〝できない〟ではなく、〝どうやったらできるか?〟を皆さんで考えてほしい」というフレーズは昨年末から五輪主要関係者によって何度も繰り返されてきた。

このセリフは昨年11月8日、体操国際交流大会の閉幕セレモニーで内村が国民へ向けて発したもの。五輪開催を信じるアスリートの本心を代弁してリスク覚悟で発言したのだが、その直後から引用の嵐が始まった。来日した国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長(67)は会見中に「内村航平さんの声もうかがっております。私はそこで確信しました」と誇らしげに語り、その後は東京都の小池百合子知事(68)、橋本聖子五輪相(56)らも式典などで水戸黄門の印籠のように「内村選手が…」と口にしてきた。

特に小池知事はキング発言をヘビーローテーション。政府が緊急事態宣言を決めた7日の緊急記者会見では「どのように感染を抑え込むか?」という質問に対して「大変厳しい状況ですが、できることを考えてやっていきたい」と言った直後に「できない理由を探すというよりはできることを探せ、ということを体操の内村選手もおっしゃっていた」と唐突に引用。やや表現が盛られている上、体操に興味がない人々は「なぜ内村?」とザワついた。

多くの政治家が、まるで「私の発言ではなく、あくまで内村選手が」と責任転嫁のように使用。これによって内村の発言はネット上で独り歩きし、一部では批判も浴びてしまうまでに至っているのだ。体操関係者からは「完全に内村がスケープゴート(いけにえ)になっている」「世論を恐れる政治家に利用されて気の毒」との同情の声があふれ返っている。

内村は先日、コロナ禍による業績悪化で所属のリンガーハットと契約打ち切りとなったが、まさに踏んだり蹴ったり。影響力の強さゆえ、都合よく利用されてしまったようだが、政治家たちの発言力のなさにはあきれるばかりだ。

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