「誰かのために走ると力が出る」 陸上・野上恵子(十八親和銀行) 14年間支えられて 今月限りで現役引退【インタビュー】

「感謝の思いでいっぱい」と語る野上=長崎市、十八親和銀行清風寮

 2018年ジャカルタ・アジア大会女子マラソン銀メダリストの野上恵子(十八親和銀行)が、今月限りで現役を退く。06年冬から、縁あって走り続けた長崎の地。「皆さんに喜んでもらえるのがうれしくて」。マラソンをはじめ、県代表として全国都道府県対抗女子駅伝や国体でも活躍してきた35歳に、数々の思い出が詰まった14年間について語ってもらった。

 -長崎での14年間の実業団生活を振り返って。
 いろんな人に出会えて、いろんな人に支えてもらったと、あらためて感じている。最初はすぐに辞めちゃうんじゃないかと思っていたけれど、こんなに長く続くとは…。

 -競技生活の前半は故障も多かった。
 けがが多くて苦しみながら、チームメートに支えてもらって陸上をやっていた。常に進退を考えつつも「まだやれるんじゃないか、まだいいタイムが出るんじゃないか」という自分への期待もあって続けてきた。

 -そこで諦めなかったことが、今の活躍につながっている。
 その気持ちで15年まで頑張って、最後に「マラソンを走って終わろう」と29歳で初マラソンに挑戦。名古屋ウィメンズに出たら、意外と走れた。これなら「まだ駅伝でチームの役に立てるかもしれない」と思って続ける選択をした。でも、駅伝で思うように結果が出なくて「じゃあ、自分が会社の役に立てることは何だろう」と考えたら、マラソンだった。

2019年9月、東京五輪マラソン代表選考レース(MGC)。沿道の大応援に背中を押され、5位でフィニッシュする野上=東京・明治神宮外苑

 -マラソンとの出合いは大きな転機に。
 いろんな経験をさせてもらった。日本代表にもなれて、学ぶことも多くて、それが自分の力につながった。マラソンで結果が出だすとさらに応援の力をすごく感じて、自覚や責任も出てきた。トラックやロードの自己ベストを更新したのは18~19年。30代でまた成長できた。

 -最も印象に残っているレースは。
 銀メダルを取ったアジア大会も楽しかったけれど、1番は19年の東京五輪マラソン代表選考レース(MGC)。応援の数がすごかったので。ふくおかフィナンシャルグループ全体で約500人。沿道で途切れることなく名前を呼んでもらい、最後まで粘ることができた。結果は5位だったけれど、いろんな人からねぎらいの声をいただいて喜んでもらえた。

 -長崎のユニホームで活躍も。
 兵庫県出身の私が長崎のユニホームを着させてもらうのは、最初は違和感しかなかった。でも、温かく迎えてもらい、だんだんみんなと顔なじみになってきて、それが普通になった。誰かのために走ると力が出る。結果的に長崎の役に立てたのであればうれしい。最後に都道府県対抗女子駅伝(京都)を走りたかったけれど、コロナ禍で中止になってしまって残念。

 -心残りはないか。
 全日本実業団対抗女子駅伝(宮城)で入賞したかったし、16年を最後に遠ざかっている宮城へ後輩たちを連れて行きたかった思いはある。でも、MGC後は「いつかは終わりを決めないと」と思ってやってきた。それが今季だった。

 -長崎への思いを。
 すべては皆さんの応援のおかげ。駄目なときは励ましてくれて、いいときは一緒に喜んでくれて…。喜んでもらえることがうれしくて、ずっと続けてこられた。十八親和銀行の応援は日本一だと思う。14年間、本当にありがとうございました。

 【略歴】のがみ・けいこ 兵庫県出身。須磨学園高から実業団のサニックスに進んだが、在籍約2年半で廃部となったため、2006年12月に十八銀行(当時)へ移籍した。全国都道府県対抗女子駅伝は、銅メダルを獲得した18年をはじめ、3度の入賞に貢献。国体成年女子5000メートルも4度入賞した。19年仙台国際ハーフマラソンで県記録となる1時間9分27秒で優勝。自己ベストはマラソン2時間26分33秒(県記録)、5000メートル15分24秒70。


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