危機の時代を乗り越える社会的パーパスとは 「ホンモノ」かどうかが見極められる時代

今日の世界で、サステナブルな企業として成功するには社会的なパーパスを定義し、それに沿った行動をとることが求められる。そして、自社のバリューや特徴、ステークホルダーや従業員を最優先に考え、世界をより良いものにするという真のコミットメントを表明することが必要だ。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

しかし、言うは易く行うは難し。消費者はグリーンウォッシュや中身のないマーケティング、行動の伴わない広報主導のコーポレート・ステートメントを段々と理解するようになっている。2020年という時代において、不可能というわけではないが、ホンモノであると偽ることは難しい。

米サステナブル・ブランドはこのほど、企業ブランドが社会的なパーパスを定義する後押しをするために電子書籍『Purpose 360』を発行した。本書では、アフラック、ジョンソン・エンド・ジョンソン、LG、マクドナルド、P&G、セールスフォース、ティンバーランド、ユニリーバなどの多国籍企業から中小企業、社会的企業、NGOなど幅広いセクターを代表する25人のビジネスリーダーの75の知見を紹介する。制作したのは、ソーシャル・パーパス・ムーブメントの先駆者であり、「コーズ・ブランディングの母」と呼ばれるキャロル・コーン氏と、デジタル・マーケティング、コーズ・マーケティングの専門家でマッチファイアーCEOのクリス・ノーブル氏だ。

本書に登場する一社、ジョンソン・エンド・ジョンソンは1943年、株式公開を行うにあたり350語の声明文で創業のパーパスを明確に掲げた。それがいまや、大胆にも1行に凝縮され、「人類のために健康の流れを根本から変える」になっている。同社のグローバル・コーポレート・アフェアーズのマイケル・スニード専務によると、このパーパスは同社に「挫折に直面しても、突破口を見つけるまでやり抜くことを認める」ものだという。具体的には、HIV撲滅に向けた戦いに継続的に取り組むことなどだ。

今回の電子書籍の一部は、コーン氏とノーブル氏がポッドキャスト「パーパス360」で、数十人のリーダーに、ビジネスを成長させ、社会的インパクトを高めるために社会的パーパスの可能性をどう解き放てばいいかをインタビューした内容に基づいている。また、新型コロナウイルス感染症の拡大が生活やビジネスを一変させた後、専門家にインタビューして聞いた知見も含まれており、真のパーパスを掲げることにより、組織がどう迅速で決断力のある行動をとることにつなげられるかについて知見を得ることができる。

本書の特徴は、実行可能な戦略や実践につながるパーパスに関する議論を発展させるために、同僚と簡単に内容を共有できるようつくられていることだ。学生やサステナビリティを実践する人、社会的企業を立ち上げようとしている人、官民パートナーシップを構築しようと取り組む非営利団体や公共セクターの人などあらゆる人たちにとっても一読の価値があるだろう。

例えば、アウトドアブランドREIの創業のパーパスは「屋外(アウトドア)で暮らすことは、人生を豊かにする」というシンプルなものだ。それにより、同社は「#OptOutsideキャンペーン」の一環で、利益の約7割を自社の持続可能性を高めることや自然保護などアウトドアコミュニティを活性化するために投資することができた。同社は、従業員が週末に家族と過ごし、アウトドアを楽しめるよう、米国の小売業にとっては歴史的な売り上げを記録するブラックフライデーに店を閉めるというトレンドをつくり出した。

消費者がREIという企業に期待を抱くことは当然だ。パーパスはすべての行動に現れるからだ。同社のブランドスチュワードシップ・インパクトの責任者アレックス・トンプソン氏は、本書の中で「従業員が組織のレガシーがなにかを知らないなら、それは十分に深く掘り下げてないか、十分に深く問い直していないからだろう」と語っている。

ここで紹介したものは、本書に掲載されている貴重な教訓や事例、深い洞察の一部にすぎない。インタビューや抜粋された重要なポイントは、パーパスが秘める膨大な可能性を照らし出す。従業員を惹きつけ、顧客ロイヤルティを根底から高め、さらに製品イノベーションを後押しし、市場シェアの拡大にもつながっていく。

本書は、社会的パーパスを明確に定義することが、あらゆる産業のさまざまな規模や形態の組織にどう利益をもたらすかを示している。読者自身のパーパス・ジャーニーを後押しすることも狙いだ。

ブランドが人種的正義や環境・社会的課題に対してこれまでにない姿勢を示した2020年。社会全体が公平性や気候変動をとりまく信じ難い変化に直面する中、明確な社会的パーパスを定義し、それに忠実であることはもはやオプションでない。

すべての企業や組織は、何かが起きてから対応する受け身の姿勢ではなく能動的であることが必要だ。その中で、パーパスは、自らの組織戦略やブランド戦略を定義し、現代においてビジネスが成功するのに不可欠なより広い社会的対話に加わっていく上で重要になる。

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