【新型コロナ】神奈川県、限界認め療養者へ「自身による健康観察」を要請

 神奈川県の医療体制がついに剣ヶ峰を迎えた。黒岩祐治神奈川県知事は、18日の定例会見で連日続いている自宅療養者の死亡例について「対応は十分でなかったかもしれないが、現状では限界だ」と、県の医療提供体制が崩壊しつつあることを認めた。定例会見後に開催された県の感染症対策協議会では、限られた資源で県民の命を守るための新たな対策が検討されたが、体制崩壊を防ぐため、患者に対し手当ての内容が後退するものとなっており波紋が広がるのは必至だ。

「現状では限界だ」

 18日の定例会見ではまず、ひっ迫している病床のうち、中等症患者専用のセンターとして臨時開設している藤沢市の「湘南ヘルスイノベーションパーク」内の施設について、新たに病床を追加で稼働させトータル180床とすること、知事をはじめとする県の特別職、議会らが給与を削減し「痛みを分かち合う」ことを公表した。しかしこの180床については新しい施策ではなく、昨年、同施設の開設時に公表していた予定数で、予定していたものを稼働させると決めたにすぎない。また給与の削減についても年ベースで最大10%(知事)となっており、コロナ禍で退職や事業撤退を余儀なくされている県民、事業者にとってみれば「痛みを分かち合ってくれている」と言えるものかは疑問だ。

 また先日、大和市の感染者が、結果的に保健所と一度も連絡がつながらず亡くなっていたことについて、会見で記者から認識を問われてから初めて言及し「対応は十分ではなかったかもしれないが、現状では限界だ」と発言。「(自身が提唱し進めている)『神奈川モデル』の選択と集中だけでは対応できない。地域全体で対応するようにしたい」と、医療提供体制の方針転換を示唆。具体的な対応策は会見後開かれる「感染症対策協議会」で議論されるとした。

パルスオキシメーター配布を制限、療養者自身が24時間体調チェック?

 協議会では、18日時点で入院待機者が95人、療養施設への入所待機者5人、新型コロナの発生届が出されているのに連絡がついていないケースが124件あることなどが報告され、医療提供体制を維持するための対策が協議された。

 自宅や宿泊施設の療養者で血中酸素飽和度が低下したにもかかわらず、救急搬送や連絡が遅れ死亡した例が出た件に対しては、病床が空くまで酸素吸入などの応急措置ができるようにする「HOTセンター(仮称)」を設置し予防できるようにするとした。医療機関としてではなく災害時の救護所のような立ち位置であるとしているが、設置規模、時期などは決まっていない。また設置に関するリソースも現在の対応でひっ迫しているため、自衛隊へ派遣要請を行い実施することも検討する。

 また、現在療養者全員に配布している血中酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターについて、配布対象を「40歳以上」「高リスク患者」に絞るとともに、現在、行政が電話連絡するなどして行なっている1日2回の体調チェックをやめ、療養者自身が24時間チェックする対応に変更するとした。いずれも保健所、県職員による対応が感染者増大で困難になっていること、機材が不足していることなどが理由だ。

 しかし今回決まった対応策は、爆発的な感染拡大が要因とはいえ、いずれも対応が困難になっている現状を追認し患者にリスクを押し付けかねない内容になっている。流行から1年近く経ち、これまでの症状経過の傾向が明らかになっているが、患者自身がパルスオキシメーターもない中で、24時間体調チェックするなどとても現実的な対応策だとは思えない。

 医学的には軽症と判断される事例であっても、体感的には高熱で動くこともままならず、息苦しさも強いケースが多いことはよく知られているし、逆に、外見的にも自身の体感的にも重篤ではないように見えても、体内では肺炎が進行し血中酸素飽和度が危険なレベルに下がっている例もかなり見られる。そもそも、軽症からの死亡例はそうした症例から多く出ており、こうした重症化例検知の鍵がパルスオキシメーターであるのに、逆に配布を制限するというのは本末転倒だと言わざるを得ない。

 また「HOTセンター(仮称)」にしても、設置をいつどれほどの規模で行うのか定かでない上に、仮に設置したとしても、酸素吸入が必要なほどの状態に陥った患者がセンターまで移動してこれると考えていることも非現実的だ。果たしてどのような運用ルールを想定しているのか、議論が拙速にされてはいないか検証が必要だろう。

 いずれにしろ、神奈川県の医療提供体制は全国的にも、いまもっとも危機に瀕していることだけは確かだ。県民は自身と大切な人の命を守るため、新型コロナだけではなく、他の疾患、怪我にも気をつけ自衛しなければならない。

© 合同会社ソシオタンク