2020年 全上場企業 「不適切な会計・経理の開示企業」調査

 2020年に「不適切な会計・経理(以下、不適切会計)」を開示した上場企業は58社(前年比17.1%減)、総数は60件(同17.8%減)だった。集計を開始した2008年以降、2019年は過去最多の70社、73件だったが、2020年はそれぞれ下回った。だが、年間では50件台を持続し、高水準の開示が続いている。
 2020年4月、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令で、業績や財務内容などの数字が適正かチェックする公認会計士の多くが在宅勤務となり、監査業務などに遅れが生じた。2020年の件数は減少したが、不適切会計などのチェックに向けた業務フローの見直しも必要になりそうだ。
 2020年に不適切会計を開示した58社の内容は、最多は子会社で不適切会計処理などの「粉飾」が24件(同40.0%)、経理や会計処理ミスなどの「誤り」も24件(同40.0%)と同数だった。
 産業別では、最多が製造業の23社(同39.7%)。次いで、卸売業の10社(同17.2%)と続く。
 上場企業の相次ぐ不適切会計の発覚で、健全なコンプライアンス意識の徹底が求められている。金融庁や東証は、ガバナンスのさらなる向上に向けた指針整備を進め、企業も確実に履行できる体制作りが必要だ。

  • ※本調査は、自社開示、金融庁・東京証券取引所などの公表資料を基づく。上場企業、有価証券報告書提出企業を対象に、「不適切な会計・経理」で過年度決算に影響が出た企業、今後影響が出る可能性を開示した企業を集計した。
  • ※同一企業で調査期間内に2回内容を異にした開示の場合、社数は1社、件数は2件としてカウントした。
  • ※業種分類は、証券コード協議会の業種分類に基づく。上場の市場は、東証1部、同2部、マザーズ、JASDAQ、名古屋1部、同2部、セントレックス、アンビシャス、福岡、Qボードを対象にした。

開示企業数 2020年は58社(60件)

 2020年に不適切会計を開示した上場企業は58社で、五洋インテックス(株)と(株)スカパーJSATホールディングスの2社は、それぞれ2件ずつ開示した。
 上場企業は国内市場の成熟で、メーカーを中心に売上拡大を求めて海外市場への展開を強めている。だが、拡大する営業網にグループ会社のガバナンスが徹底できず、子会社や関係会社に起因する不適切会計の開示に追い込まれる企業が多い。
 理研ビタミン(株)は2020年7月、中国連結子会社でエビの加工販売取引や棚卸資産での不適切会計処理について開示した。過年度決算短信等を訂正したが、訂正後の連結財務諸表について適切な監査証拠を入手できなかったとして、監査法人が監査意見を表明しなかった。
 また、小倉クラッチ(株)は、中国の子会社2社で2014年から過大在庫の計上や米国子会社での不正送金関連などについて特別調査委員会を設置。2020年12月、委員会の調査結果を踏まえ、決算を2016年3月期まで遡って修正した。

「不適切会計」開示数 年度推移

内容別 「粉飾」と「誤り」が最多の24件

 内容別では、最多は「架空売上の計上」や「水増し発注」などの「粉飾」が24件(構成比40.0%)、「誤り」も24件(構成比40.0%)と同数だった。
 第一商品(株)は、長年にわたり歴代の社長らが回収不能となっていた貸付金の回収偽装や貸倒引当金戻入益の過大計上、広告宣伝費の架空計上などの不適切会計を行っていた。7月11日、東証は第一商品に対しジャスダック特設注意市場銘柄への指定と2,000万円の上場違約金を徴求した。
 また、子会社・関係会社の役員、従業員の着服横領は12件(同20.0%)だった。「会社資金の私的流用」、「商品の不正転売」など、個人の不祥事にも監査法人は厳格な監査を貫いている。

「不適切会計」内容別

発生当事者別 「子会社・関係会社」が23社でトップ

 発生当事者別では、最多は「子会社・関係会社」は23社(構成比39.7%)で、子会社による売上原価の過少計上や架空取引など、見せかけの売上増や利益捻出のための不正経理が目立つ。
 次いで「会社」の22社(同37.9%)だった。会計処理手続の誤りや事業部門での売上の前倒し計上などのケースがあった。
 「子会社・関係会社」と「会社」を合わせると45社で、全体の約8割(同77.6%)を占めた。

「不適切会計」発生当事者別

市場別 東証1部が33社でトップ

 市場別では、「東証1部」が33社(構成比56.9%)で最も多かった。次いで、「ジャスダック」が10社(同17.2%)、「東証2部」が9社(同15.5%)と続く。
 2013年までは新興市場が目立ったが、2015年から国内外に子会社や関連会社を多く展開する東証1部の増加が目立つ。

「不適切会計」市場別

産業別 最多は製造業の23社

 産業別では、「製造業」の23社(構成比39.7%)が最も多かった。製造業は、国内外の子会社、関連会社による製造や販売管理の体制不備に起因するものが多い。
 卸売業では、連結キャッシュ・フローの記載に誤りや子会社土地の売却で時価評価差額が適正に取り崩されなどの「誤り」が目立った。

 2020年の不適切会計の開示は58社、案件数60件で、高水準が続く。(株)ジャパンディスプレイは2020年4月、不適切な会計処理に関する第三者委員会の調査報告書および過年度の決算短信の訂正を開示した。経理責任者の指示で過大在庫の計上、費用の資産化、費用計上の先送りなどの不適切な会計処理が行われていた。また、常務執行役員などの指示により収益認識の要件を満たさない売上計上等の不適切な会計が行われていた。この不適切処理の一部は2014年3月の新規上場前から行われていた。
 このため、東証は市場に対する株主および投資者の信頼を毀損したとして7月10日、ジャパンディスプレイに対し改善報告書と上場違約金6,240万円を徴求。さらに、不適切会計の開示による株価下落で損害を受けたとして大株主から訴訟も起こされている。
 監査法人は緊急事態宣言以降、リモートによる監査が加速している。だが、リモート監査は必要に迫られたものだが、安易な業務のリモート化は不正の機会を増やす懸念もある。コロナ禍で業種によっては経営環境が一段と悪化している企業もあり、2021年3月期は特に不適切会計に気を配る必要があるとの声も聞かれ始めている。
 経済のグローバル化で、海外子会社との取引に伴う不適切会計も増加した。また、現場や状況を無視した売上目標の達成へのプレッシャーで、不正会計に走る担当者も後を絶たない。
 コーポレートガバナンスやコンプライアンスの意識改善が掛け声倒れに終わらないために、上場、未上場を問わず不適切会計を防ぐ風通しの良い組織づくりが求められている。

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