<金口木舌>鬼滅の刃とムーチー

 漫画「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」の人気が止まらない。累計発行部数は1億部を超え、映画は興行収入が歴代1位の300億円超。最速の記録を更新した。主人公が鬼になった妹を人間にするために、鬼退治の旅に出るストーリーだ

▼鬼退治の話は「桃太郎」を挙げるまでもなく、日本の昔話に多く登場する。沖縄に伝わる「鬼餅(ムーチー)」も鬼退治の物語だが、「鬼滅の刃」とは設定が逆だ

▼諸説あるが、鬼餅は鬼になってしまった兄を退治するため、妹が鉄や瓦などが入った硬いムーチーを兄に食べさせ、崖から突き落とす話に由来する。残酷さは「鬼滅―」の戦闘シーンと共通するところか

▼きょう旧暦12月8日は、ムーチーの日。鬼に餅を食べさせたことから「鬼餅」と書く。子どもの成長を願い、家庭によっては軒下に下げ、餅を蒸したお湯で家周辺を厄払いするという

▼宜野湾市の知花優子さんは、月桃の茎を手で裂いたものをムーチーを結ぶひもとして使うことを提唱する。近年、ビニールひもが多く見られるが、植物なら環境にも優しい

▼現実には人間の命を脅かす鬼はいない。しかし便利さや安さを追求してきたつけが、温暖化となり生き物の生態系を脅かしている。平年よりやや高い今日の気温。ムーチービーサと言われるほど冷え込みそうにないが、ムーチーをかみしめつつコロナの厄払いも合わせて願う。

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