わいせつ行為は認定も…時間の壁で控訴棄却、弁護士が指摘する問題点

TOKYO MX(地上波9ch)朝のニュース生番組「モーニングCROSS」(毎週月~金曜7:00~)。12月17日(木)放送の「オピニオンCROSS neo」のコーナーでは、弁護士の三輪記子さんが裁判における“時間の壁”について述べました。

◆裁判における"時間の壁”とは?

在校していた中学校の男性教師にわいせつな行為をされ、30代になってPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したとして、フォトグラファーの石田郁子さんが教師と札幌市を相手に3,000万円の損害賠償を求めていた裁判で、東京高裁は原告の控訴を棄却する判決を言い渡しました。一審から争点となっていたのは20年間経過すると賠償請求権利が消滅する「除斥期間」が過ぎているかどうか。石田さん側はPTSDと判断された2016年を起算点と主張しましたが「除斥期間は過ぎている」と判断されていました。

今回の裁判を聞いて三輪さんは、優生保護法に基づく不妊手術をされた人が国を訴えた事件を想起したそうで、それも除斥期間として棄却されましたが、そのときは不妊手術であり行為時点で損害が発生。しかし今回のような事案の場合、「PTSDなどは行為があったときと損害が発生したときの間にタイムラグができる」と言います。

今年、改正民法が施行されましたが、この案件では旧民法が適用され、そこでは損害及び加害者を知ったときから3年間行使しないときは時効、除斥期間は20年と解釈されていました。除斥期間というのは時効の中断・停止などが認められず、いわば不法行為が行われた時点から20年で主張しようがしまいが全て棄却されるということ。今回の場合、行為時からは20年が経過していますが、PTSDの発症からは20年が経っていません。

改正民法では、不法行為のときから20年間行使しないときは時効となります。除斥期間は20年ではなく"消滅時効”であることが明記されていることから「被害者保護が厚くなった」という声があるものの、根本的な問題であるPTSDのように後発的に損害が発生した場合、起算点を不法行為時からとするのかは解決しておらず「この解釈をどうするのかという問題が残されている」と指摘します。

◆法律は国民の力で変えられる…

過去には"不法行為のとき”を柔軟に解釈し、被害者が自分の権利を行使することができたのかを実質的に判断している裁判例も数多くあるそうですが、三輪さんは「今回の改正でも"不法行為のとき”という文言だけからは一義的には結論が導き出せないことになっている」と危惧。そして、今後もその解釈を巡って同種の事案が出てくると示唆し、PTSDのような新しい概念について法がどう解釈するのか懸念します。

三輪さんは弁護士として「法は前進していけるはず」と信じ、よりよくしていくことは「私たちの仕事でもある」と明言。加えて「法律の改正はみんなの問題。国民の力で変えられる」と言います。だからこそこのニュースを通じ、自分自身さらに学び、考えていくことを再確認しつつ、「みんなにも考えてほしい」と訴えていました。

慶応大学特任准教授でプロデューサーの若新雄純さんは、裁判についてあまり学校で学ぶことなかっただけに、今後は子どもたちが「もっと学校で学べるようになるといい」と期待を込めます。

一方、キャスターの宮瀬茉祐子はそもそもなぜ時効があるのか、その制度に疑問を覚えていたと言います。科学が進歩し、今やAIもあるだけに「それらを踏まえて考え直してもいのでは?」と問いかけると、三輪さんは「おっしゃる通り、そういうことも反映して法改正されるべき」と同意していました。

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<番組概要>
番組名:モーニングCROSS
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:00 「エムキャス」でも同時配信
レギュラー出演者:堀潤、宮瀬茉祐子
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/morning_cross/
番組Twitter:@morning_cross

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