不動産投資家が行う「譲歩は一切しない」価格交渉の一部始終

不動産投資で行われる「価格交渉」。そこではどんな駆け引きが繰り広げられているのでしょうか。この疑問を知るために話を聞いたのが、不動産投資家の束田光陽さん。前回に引き続き、ファイナンシャルアカデミー「不動産投資スクール」講師も務める束田さんに、過去の実体験をもとにした価格交渉のエピソードを聞きました。


物件Aを内見して、価格交渉の金額を決めた

――前回記事では、580万円で売り出されていた関東近郊の“物件A”に目をつけ、その金額が高いか安いか、データをもとに調べたところまで伺いました。全体の相場などから、ある程度安いと判断しつつも「さらなる見極めが必要」とのことでしたよね。

そうですね。そこで実際に物件を見に行きました。そして、どうしても確かめたいことがありました。この物件の「稼働力」です。稼働力とは、入居者の決まりやすさですね。物件Aは現在空室で、最寄り駅から近いのですが、一方で駅自体の規模が小さい。乗降客が少ないのです。

この点が気になって、まだ購入には気持ちが傾かなかったんですよね。それでも相場よりは安いので、一応見るだけ見ようかと足を伸ばしました(笑)

――念のため見ておこうか、くらいのテンションですかね。

それに近いと思います。実際に最寄り駅に着いてみると、確かに殺風景。ですが、近隣には大企業の工場がいくつかありました。それなりの規模の工場なので、駅の利用者数ほど入居者に苦労はしないかも?と思ったんですね。ここに住んでいる人は一定数いるかもしれませんから。

とはいえ、それだけで稼働力の不安を払拭できません。調査は続きます。

――となると、次は物件そのものの評価ですかね。

はい。実際に物件を見ました。詳しい内容は伏せますが、状態は決して悪くなかったですね。物件そのものに価値はありそうでした。ただひとつの難点は、リフォームをする必要があったんですね。ざっと見ても、100万円単位の費用はかかりそうだと……。

こうなると、やはり駅が弱いですよね。もっと繁華街なら強気になれますが、駅近で物件も悪くないけれど、乗降者数の少なさを一掃するほどではないんです。なので「相当安く買えるなら」という条件付きで値段交渉をすることにしました。具体的には、500万円が希望のライン。ということで、不動産会社さんに電話を入れたんです。

500万円に難色を示した業者にとった行動

――500万円! どんな風に価格交渉したんですか?

まず「内見をしたのですが、リフォームで100万円はかかりますね」と伝えました。それを理由に「500万円が限界です」とはっきり言ったんです。

すると、不動産会社さんは「実は他にも興味を持っている人がいるんです」と、ライバルをほのめかしてきたんですね。物件を見たのは私が最初でしたが、数日後にはそのライバルが見にくると。

――つまり“値引きは難しい”というメッセージですよね。

はい。私は「それなら結構です」と伝えました。それなら、他の方に案内していただければと。これは前の記事でも話しましたが、価格交渉は自分が追いかけたら負けなんです。相手に追いかけさせないと。譲歩してはダメなんですね。

――なるほど……。不動産以外の分野にも通じそうですね。

だと思います。その後しばらくして、不動産会社さんから電話がきました。ちなみにこの会社から私は何件か物件を購入しており、お互いに取引のある関係でした。しかも、私はローンを使わず“現金買い”することが多かった。担当者さんはそれを知っているので「(束田さんは現金で買う人だから確実。そして買ったあとに多少の不具合があっても揉めない。それなら)できれば束田さんに買ってもらいたいです」と言っていただいたんです。

――つまり、500万で決まったと。

いいえ、まだ続きがあります。500万円はかなり思い切った金額なので、担当者さんも「売主さんの意向を確認したい」とのことだったんですね。それからしばらくして、電話がきました。500万円は厳しいので510万円でどうですか?と。

――たった10万円の上乗せで買えるなら、いいかもしれませんね。

そうですか?(笑)。私は「すみません、それならあきらめます」と断ったんです。色々とお手間をおかけして申し訳ないです、と。この物件は、妥協してまで買うほどスペシャルな物件ではありません。つまり「過去最安値で買える」というお買い得感が売りの物件なんです。そういうときには、価格に妥協をしないことが大切です。これも、最初に自分が相場観を養っておいて、買うべき金額を自分で設定をしているからこそです。ただ、この価格交渉はこれで終わりではありませんでした。

次回、いよいよ物件Aの価格交渉がまとまります。

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