ゴードン・ベッカム〝新人王〟受賞も伸び悩み「周囲の期待がつらかった」 34歳が自然体でもう一花

タイガース時代のゴードン(ロイター=USA TODAY Sports)

【元局アナ青池奈津子のメジャーオフ通信=ゴードン・ベッカム内野手】「頭の片隅に、それはずっとすみついていたんだ。自分はみんなの期待に応えられていないんじゃないかって。それがどんどん重くなっていった。人が思う自分の姿ばかりが気になって、自分自身がどういう人間なのかを忘れた。成功したかったから。高い期待に応えたかったから。それがたとえ自分でなくても」

カレッジ・ワールドシリーズのヒーローで、ホワイトソックスから2008年ドラフト1巡目指名されてプロ入り。09年に大リーグデビューを果たして選手投票の最優秀新人賞にも選ばれたゴードン・ベッカムは間違いなくエリート選手だった。

彼にとっては優勝した時やデビューした時よりも19年、タイガースの開幕ロースター枠の25人に入れたことの方がうれしかったそうだ。「今はもう、自分を見失っていないから」と。

「僕は幼いころ、野球はそこまでうまくなくて、人よりずっと頑張らないといけなかった。だから友達が遊んでいる時も野球の練習を続け、なんとか大学時代に伸びてプロに入れたわけだけど、シカゴでは長いこと、みんなの期待がつらかった。『彼ならもっとできるはず』と思って自分を見ている人たちの前で失敗する姿を見せるのが、しんどかった。彼ら同様に自分も自分に期待していたから。プレッシャーに感じないようにすればするほど難しくなった」

そう当時を振り返るゴードンに「転機は?」と聞いたら「特にないと思う」と一瞬、戸惑う答えが返ってきた。

「休まず毎日球場に顔を出して、ひたすら闘い続けるしかない。全力で。当然、多くの人に助けられてきたけど一番は『もう誰も自分が大リーグに戻れると思っていない、それでもやるの?』って押し寄せる不安と自分のエゴと向き合い、家のドアを出る時には確信を持っていられるか」

数球団を渡り歩き、マイナー生活が長くなり、彼は初めて自分のためだけに野球をすることができたのかもしれない。

13年に結婚した妻ブリトニーさんの存在も大きかった。球場での不振を払拭しきれず家に帰ってくる夫に、新婚当初からたびたび破綻しそうな局面を迎えながらも「ただあなたらしくいればいいのよ」と声をかけ続けたそうだ。

父は元大リーガーのスコット・フレッチャー氏で、幼いころから「ポジティブと情熱」がキーワードの家庭で育ったブリトニーさんは野球選手の生活をよく理解していた。だからこそ「野球選手とだけは結婚しない」とも言っていたそうだが、ゴードンは「彼女と出会う運命でよかった」と愛妻の話をする時は心からいとおしそうにのろけていた。

「自分の野球人生は良いものだったと感じているけど、もうそろそろ終わるんだろうなとも思っている。ここには長くいたし、いい年だしね。長くやってきた野球だけど、自分にとって休まず顔を出し続け、向上することをやめない生き方を体現するために存在していたんだと思う。大事なのは家族、そしてこれからも続く人生」

インタビューしたのは19年夏。昨季は残念ながらプレーできずに終わってしまったが、彼なら大丈夫――そう思わせる何かがそこにはあった。

☆ゴードン・ベッカム 1986年9月16日生まれ。34歳。米国・ジョージア州出身。183センチ、86キロ。右投げ右打ち。内野手。2008年ドラフトで1巡目指名されたホワイトソックスに入団。09年6月4日のアスレチックス戦でメジャーデビュー。7月は打率3割3分、3本塁打、18打点でア・リーグ月間最優秀新人選手に。同年は出場103試合で打率2割7分、14本塁打、新人ではリーグ最多の63打点。10年に正二塁手となるも、トレードでエンゼルスに移籍した14年から打撃不振で出場機会が減少。その後はマリナーズ、タイガースなどを渡り歩く。20年はメッツとマイナー契約を結んだが、7月に自由契約となった。

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