コロナ禍が影響?年々犯罪が増えるパリ生活から学ぶ防犯心がけ

昨年、二度もスリの被害に遭いました。23年間のパリ生活で、スリにあったのは計3回。そのうち2回が2020年、コロナ禍の昨年でした。

一度目は春の外出制限が開けた6月、オペラ座がある繁華街のエリアで買い物をした後、帰宅してから財布がなくなっていることに気づきました。2度目は秋の外出制限中の11月で、同じくオペラ座エリアの地下鉄改札を通る際、すれ違いざまにiPhoneを取られました。気付きようのない素早さでした。

これまでほとんどなかったスリ被害に二度もあったのは、「たまたま」でしょうか。スリたちが「観光客が減ったパリで少ないカモを捕まえるのに必死だ」というような話も耳にしています。筆者がスマホ盗難の被害届を出した警察署の署員は、「このところ窃盗が増えている」とも、こぼしていました。コロナ禍の影響は、パリの治安にも影響を与えているのでしょうか。


コロナ禍になり犯罪件数は減少

統計を調べてみると、じつはコロナ禍における犯罪件数は減っていました。

昨年、フランスでは新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、春と冬の2回外出制限を行ないました。春の外出制限中は、犯罪件数が激減。このことはニュース番組などでも報道され、フランスで生活する人々を喜ばせました。

人が外に出ない分、路上で起こる暴力や窃盗が、劇的に減ったのです。仏パリジャン紙も昨年7月3日の電子版で、「フランス全土で発生した空き巣被害が前年の同時期に比べ70%減少した」と伝えました。

外出制限が解除されていた期間はどうでしょうか。ロックダウンが解除された昨夏の間、犯罪件数は増えましたが、前年の同時期に比べると、やはり減少傾向です。また、フランス内務省が公表する2020年12月の報告書によると、暴力を伴わない窃盗は、11月に24%減少しました。

11月からは、再び外出制限は敷かれましたが、春とは異なり学校と多くの場合で仕事が継続されたため、街に出る人の数は、春のロックダウンと比べて多く感じました。それでも犯罪件数は減少しています。

(出典:SSMSI Interstats Conjoncture n°63 - Décembre 2020)

コロナ禍で犯罪は減りましたが、大局的に見るとフランス全体で犯罪は増加傾向です。フランス内務省のデータをもとに、「ル・パリジャン」がフランス国内の犯罪件数(性暴力、暴力、ナイフなど武器を持った窃盗、武器を持たない暴力的な窃盗、暴力を伴わない窃盗、空き巣、車の窃盗、車の中での窃盗、車の部品の窃盗)を比較したところ、2015年と2019年では19万3,678件から24万2,915件と増加しています。フランス全体での犯罪件数は1.16%増ですが、 パリだけだと25.4%増となっています。

盗難されたスマホをフリマサイトで発見

海外で暮らしていると、日本に住んでいた頃よりは、盗難に対する心の耐性は付いていますが、それでもやはり盗難に会うとショックです。動揺していた筆者を思いやって、被害届を受理した警察官も丁寧にアドバイスをくれました。

その警察官が言うには、盗難品はフリマサイトに出品されるそうです。「フリマサイトに自分のスマホを見つけても、それを自分で受け取りに行ってはいけない。必ず警察に連絡すること」とのこと。翌朝、フリマサイトを見たところ、その警察官のアドバイス通り、筆者のものと思われるiPhoneが出品されていました。iPhoneの表面に付いた傷の特徴も同じですので、ほぼ間違いないと思われます。

早速、自宅の住所を管轄する警察署へ行き、このことを報告しましたが、ただでさえ仕事の多いパリの状況に加えてコロナ禍での仕事もあります。話は聞いてくれましたが、日々の膨大な仕事量の中、警察はすべての細かな事件に対して迅速に動けるわけではないような雰囲気でした。

フランスのアップル社のサポートチームにも確認してみました。同社によると「紛失の登録をしたiPhoneは、アップルがブロックするので使えなくなっている。結局フリマサイトで購入した人が騙されることになる」との回答でした。メーカー側でも盗難への対策はあるようです。

日常的にスリに警戒する

パリで盗難などの被害に会っているのは観光客だけではなく、そこで暮らす市民もターゲットになっています。フランスのメディアでは、東ヨーロッパからパリに出稼ぎに来る組織的な泥棒グループがいることを度々報じていますし、日々の生活では日本以上の防犯対策が必須です。

まず、パリやその近郊に住み、通勤や通学で地下鉄などを利用する人は、窃盗グループの顔(または顔つきや姿格好)を覚えていて、遭遇すると車両を変えたり、持ち物を盗られたりしないように抱えます。

メトロに子供4、5人の子供のグループが乗り込んできたらスリを疑います。フランスの小学生くらいの子たちは、子供たちだけではまず移動しません。引きずるような長いスカートにショールをかけた、独特の服装のグループにも注意が必要です。

街を歩いていて、彼女らが近づいてきたら持ち物を確認します。最近はブランドの服で着飾り、一見普通の人と変わらない風貌のグループもいますが、やはり見慣れてくると周囲の人々とは異なった雰囲気をまとっています。

スリに遭わないための自己防衛

地下鉄車内では、日本のようにドアの前に立って路線図を眺めていると、盗難に会う可能性が高まります。列車内では、立つより座った方が安全ですし、ドア付近より車両中央の方が、扉が閉まる直前のひったくり被害は減ります。同時にバッグの口には。常に手を被せておきます。こういった所作は、普段の環境から現地の人は自然に行っています。

スマホ、身分証(パスポート)、クレジットカードなど、盗られた時の「やることリスト」も、いざと言う時にパニックにならずに済みます。スマホのシリアルナンバーを控え、身分証は必要な箇所を写真撮影しておくと、盗難届や再発行がスムーズです。

日本でも海外にいるつもりで少し防犯対策をアップするだけで、いつもより犯罪に合う確率は減らすことができます。普段からの小さな心がけが一番の対策だと、今回あらためて痛感しました。

〈文:Keiko Sumino-Leblanc / 加藤亨延〉

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