なぜ、日本の国会には世襲議員が多いの? #25歳からの国会(平河エリ)

本記事はnote「なぜ、日本の国会には世襲議員が多いの? #25歳からの国会」の転載です。

世襲の話ですけれども、政治家の親族だからということで議員の席が当然のごとく譲り受けられるというのは、これは問題だというのは正しいと思いますね。
他方、国民にとって有為な人材というものが政治家の親族だからということで国民を代表することができなくなるというのもこれまた問題なんだと思っております。

したがって、法律などによって立候補を制限するということについては、これは憲法上の問題、被選挙権の問題とか、何だろうな、職業選択の自由とかいろいろあるんだろうと思いますので、これは慎重な検討が必要なんだと思っております。

麻生太郎内閣総理大臣
平成21年5月20日 参議院予算委員会

日本の世襲議員の割合が高いことは多くの人がご存知でしょう。世襲議員は、選挙に必要ないわゆる「3バン」があると言われています。

カンバン(知名度)・カバン(お金)・地盤の3つです。知名度はもちろん「名字」を受け継ぐこと、お金は資産管理団体などを通じて継承できること、そして親の持つ人脈をフル活用できることです。

また、日本の政界にとって血の繋がりとはとても重要です。

ときには、婿養子として政治家の娘と結婚した候補者が「名字」を継いで、後継候補として出馬することもありますし、祖父の養子になってまであえて名字を継ぐケースもあります。それほどまでに、名前は大きいのです。

しかし、少し考え方を変えてみましょう。これは世襲議員が「有利」だという理由にはなりますが、「世襲議員以外が」立候補しない理由にはなりません。日本はなぜ、世襲議員以外が立候補しづらい構造なのでしょうか。

事前運動の禁止

事前運動とは公職選挙法において、選挙運動は「公示日から投票日の前日まで」と定められています。
これ以外の期間に行われるものは「事前運動」として厳しく規制されます。

世襲議員以外の立候補を阻む一つの壁は「事前運動の禁止」です。日本の「選挙運動」は「選挙期間」に限られており、それ以外の期間において「選挙運動」を行うことはできません。

もちろん、政治家は度々選挙運動以外の期間に演説や集会を行います。これらは「政治活動」です。日本には表現の自由があるため、政治活動は自由に行なえます。

政治活動と選挙運動は何が違うのでしょうか?実の公職選挙法にはこのように定義されています。

選挙運動
特定の選挙で、特定の候補者(政党)の投票を得または得させるために、直接・間接を問わず選挙人にはたらきかける行為。

政治活動政治活動のうち、選挙運動にわたる行為を除いた一切の活動。

例えば、いわゆる候補者名を掲げたタスキは挙げられませんし「投票してください」ということも言えません。しかし、実態としては、明確な線引きがないのも事実です。

政治活動という観点から政治家について考えてみましょう。現職の政治家は、政治活動を行うことは簡単です。政治家は政治活動をするのが仕事です。ですが、政治家ではない候補者の政治活動は、選挙運動ほど自由ではありません。

ですから、国政選挙の候補者は一般的に、政党の「総支部長」という肩書で政治活動を行います。地方選挙なら「政策委員・幹事」などです。総支部長は実質的な候補者ですが、党に所属し、党の政治活動であるという建前で、実質的な選挙活動(事前運動)を行うことになります。

ただし、知事・市長選挙の場合や地方選挙の場合、無所属で出馬することが多く、こういった「政党の活動としての政治活動」という建前で事前運動することが難しくなります。

このように、日本の選挙は現職のようが自由に活動できる仕組みになっており、候補者にとっては様々な「本音と建前」を使い分けなければいけない、複雑なものです。

これが日本の「現職優位」の構造を作っている一員になっていることは、否定できないのではないでしょうか。

政治家はいつ辞める?

対して、世襲議員は基本的に現職の議員と歩調を合わせ政界入りすることが出来ます。

現職の議員が「引退」するときに合わせて後継候補としてそれまでのキャリアを辞めるか、引退が濃厚になったときから「修行」として親の事務所の秘書として雇用されることが多くあります。

準備が充分でなくても、地盤を継承し選挙資金を受け継げば、充分に戦うことが出来るのです。また、現職議員が死亡した「弔い選挙」であれば、有権者の同情を買い、圧勝することもあります。

「家業」としてよく知っている子供に地盤を譲り、自分自身も「先代」として一定の影響力を持つほうが、お互いにとっていい。そう考えるのは人情でしょう。

現職の後継となる候補はもちろん、世襲議員だけではありません。しかし、圧倒的に世襲議員のほうがスムーズに後継候補となれるのが実情なのです。

69条解散
憲法69条の「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」の条文に基づき、不信任が可決された際に解散すること。
現行憲法下では4回(吉田茂内閣で2回、大平正芳内閣と宮沢喜一内閣)行われており、憲法上明確に保障されている「解散権」。

7条解散
憲法7条の「内閣の助言と承認に基づき」「衆議院を解散する」との文言に基づき、内閣が実質的な決定権を持って解散を行うこと。
解散が国事行為であることから、内閣の自由裁量で解散が出来る、というのが通説の条文になっているが、合憲性については一定の議論がある。

日本では「解散」というと、内閣総理大臣の専権事項として扱われることが多いですが、内閣の自由裁量で解散が出来る「7条解散」は常に議論の対象となっています。

議会制民主主義とは、絶対君主制から立法を切り離すことによって権力を分離したものです。君主と議会が対立した際に君主に対してその対立を解消する手段を与えることで、行政が停滞することを避けてきました。

しかし、議院内閣制が発達するのに従い、欧州諸国を中心に解散権を制限しようとする試みは増えています。

例えば、イギリスでは議会任期固定化法案を成立させ、議会の圧倒的多数の賛成がない限り、与党が勝手に解散することは出来ないようになりました。

議会任期固定化法案(Fixed-term Parliaments act)
2010年、保守党と自由民主党が連立合意の条件として設定した法案。議会の3分の2の同意によってのみ解散が可能となる法案。
しかし、その後イギリスはBrexit(欧州連合からの離脱)を巡って混乱し、テリーザ・メイ政権、ボリス・ジョンソン政権の2回解散が行われた。
2019年の選挙で政権与党の保守党は本法案の廃止を公約として掲げ、勝利したことから今後廃止される可能性もある。

北欧諸国では比較的解散に抑制的な議会が多く、ノルウェーには議会解散権がない、スウェーデンは2014年の解散が50年ぶりの解散総選挙となるなど、ハードルが高いものとなっています。

世襲制限は必要か?

前述のイギリスにおいては、選挙区と候補者の強い結びつきはなく、候補者を頻繁に変えたり、党本部が当選させたい候補を、その党が強い選挙区に送り込むなど、党が手動で選挙戦を行います。

そのため、いわゆる世襲議員はいますが、選挙区が同一である世襲議員はほとんどいません。

ましてや、比例が中心になる選挙制度のドイツなどでは、世襲であっても特別当選しやすいということはなく、また比例選出だからといって党内の地位が下がることもないのです。

日本の小選挙区比例代表制の導入は、本来「人物本位」で政党のマニフェスト・公約が後回しになりやすい選挙制度から、「政策本位」への選挙へ転換を図ったものでした。

世襲議員が悪だとは言いません。世襲議員に優秀な方や、政治への使命感が強い方が多いことも事実です。

しかし、生まれながらにして当選のしやすさが変わってしまうとすれば、それは立候補の自由、生まれながらの平等を保証した日本国憲法の趣旨にもそぐわないことになります。

政治改革・選挙制度改革の趣旨に立ち戻り、より「政策本位」の選挙を実現するため、比例機能を強化するなどの改革が必要な時期に来ているのではないでしょうか。

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