【追う!マイ・カナガワ】ハワイの孫に会いたい、でもPCR検査が… 州指定医療機関の検査が高額な理由

湘南鎌倉総合病院が発行する新型コロナウイルスの陰性証明書

 「ハワイに移住した次男夫婦と孫に会いに行きたいが、指定された病院で受けるPCR検査費用は、なぜこんなに高額なのか」。神奈川県横須賀市に住む男性(74)から「追う! マイ・カナガワ」取材班にこんな疑問が寄せられた。民間施設の格安PCR検査も広がる中、なぜ価格差は生じているのか調べてみた。

 「私たち老夫婦は人生の時間があまり残っていません。孫たちに、早く会いたい」

 男性はため息交じりに嘆く。会いたいのは7歳と5歳の孫。誕生日やクリスマス、正月などにビデオ通話でやりとりするが、日に日に成長していく姿に寂しさが募るばかりという。

 男性の次男がハワイに移住したのは2年前。昨年の今ごろは、息子家族に会うために夫婦で飛行機チケットを購入し、渡航を心待ちにしていた。だが新型コロナウイルスの感染拡大で昨春に予定していたハワイ行きは夢と消えた。

 コロナ禍で観光業が大打撃を受けている米ハワイ州は昨年11月から、州当局が指定する日本国内の医療機関で検査し、陰性証明書を発行してもらえば、入国時に日本の旅行者の自主隔離を免除するようになった。日本国内にある同州指定医療機関は84施設(昨年12月現在)だが、県内には3施設しかない。PCR検査費用はおおむね2万~4万円かかる。

 「飛行機代だけでも高いのに、さらに検査で数万円がかかり、どうしようもない。八方ふさがりの状態」

 今月には2度目の緊急事態宣言も発出され、ハワイ渡航のめどはまったく立たない。帰国後に14日間の自主隔離が求められることも、嘱託として週2回通勤している男性の悩みの種だ。

◆予約で埋まり

 記者は今月6日、米ハワイ州の指定医療機関となっている湘南鎌倉総合病院(鎌倉市岡本)を訪ねた。

 同院健康管理センター責任者の河野晋一さんによると、人気観光地が集まる鎌倉に立地する同院は、医療サービスを目的に訪日する「メディカルツーリズム」の海外旅行者を約10年前から受け入れており、国際的に普及している「リアルタイムPCR法」を導入している。「検査方法により陽性判明には2~3割の差異が生じるが、国内で行われる中で一番感度が良い方法」と自負する。

 縁のあった旅行代理店からの依頼もあり、同州の指定医療機関への参加を決めたといい、取材時には渡航目的以外を含めて、月300件ほどのPCR検査を受け付けていた。来院してもらい直接鼻から検体採取する。検査費は2万2千円だ。

 昨年11~12月にハワイ渡航を目的に検査を受けたのは10歳未満から70代以上までの男女111人で、観光目的の日本人や、帰省目的の現地住民が中心という。1週間以内の予約枠は埋まる状況で、「ハワイ渡航のためのPCR検査は当初想定していたよりも少ないが、状況を見て受け入れ可能数を増やしていきたい」と河野さん。今後、感染拡大の状況が収まり、帰国後の2週間の待機などが条件付きで免除されるようになれば、希望者はさらに増えると見込んでいる。

◆日本独自の…

 では、民間施設が郵送などで行う2千~3千円程度のPCR検査も話題となる中、なぜ米ハワイ州指定医療機関の検査は高額なのか。ハワイ大学の疫学専門家で、同州の新型コロナ対策専門家チームの岡田悠偉人さんに話を聞くことができた。

 「米本土では他人の唾液をPCR検査で悪用する事例などもあり、医療機関で直接検体採取することを求めています。検査を安くどこでも受けられることは必要ですが、国の基準の違いの問題もあります」

 日本で比較的安価に実施されているPCR検査は日本で独自に普及した「LAMP法」によるものが多い。結果が短時間で出る上に高精度というが、“国際基準”の検査でない点が、ハワイ州で入国後の自主隔離を免除する「事前検査プログラム」を開始するに当たってネックとなったようだ。

 LAMP法は栄研化学(東京都)が1999年、遺伝子検査を簡易で迅速、安価、正確に行う手法として発表し、2002~03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の対応や、結核検査などで広がってきた。昨年3月にはLAMP法を用いた新型コロナの検出試薬キットを発売し、多くの医療機関で使われるが、普及はほぼ日本国内にとどまっているという。

 そのため、米政府は“国際基準”の「リアルタイムPCR法」を指定。その機材は主に欧米で製造されているため、「機材や試薬の導入費で検査が高額になってしまうんです」と岡田さんは説明する。

◆地域守るため

 日本から近いイメージもあるハワイ。コロナ禍で入国のハードルが高くなっている背景には現地の厳しい医療事情も関係していると岡田さんは言う。

 「(州都ホノルルがある)人口約90万人のオアフ島でも大きい病院は四つほどで、ベッドは少ない。高齢者が多く、コロナが入ってきたときのリスクは高い」

 一方で主要産業の観光業は大きなダメージを受け、失業率は深刻化。「観光客に医療資源を取られて医療崩壊することなく、観光を再開しないといけない」というジレンマの中で事前検査プログラムに踏み切った。地域を守るため、ハードルが高いということか。

 今回の投稿者の男性の声を伝えると、岡田さんはこう答えた。

 「会いたい人に会うことを大事にできる世の中にしていきたい。安くする方法を調整していますので、もう少し時間をください」

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