核禁条約発効

 〈カムチャッカの若者が/きりんの夢をみているとき/メキシコの娘は/朝もやの中でバスを待っている…〉-国語の教材でご記憶の方も多いだろう、さまざまな国が順繰りに新しい一日を迎える世界の時差をリレーになぞらえた谷川俊太郎さんの「朝のリレー」▲条約発効の「瞬間」がそれぞれの国内時間で決まることを改めて知り、この詩を思い出した。2021年1月22日。世界50の国々に「歴史的な朝」が訪れた▲“一番乗り”は日付変更線のすぐ西に浮かぶサモアやキリバス。少し遅れてニュージーランド。そして新しい日付はアジア、アフリカ、中南米へ。核兵器禁止条約が発効した▲核兵器を許さない国際ルールの始動。被爆者や市民にも祝意が広がる。しかし、特別な朝は“唯一の戦争被爆国”を素通りしていった。条約に背を向ける政府の姿勢が変わらない▲核保有国の参加しない条約には実効性がない、多くの非核兵器国からも支持を得られていない、現実的に核軍縮を進める道筋を…菅義偉首相は昨日も国会で、相変わらずのゼロ回答を繰り返した▲朝が来たよ、と世界が呼んでいる。頭から布団をかぶって耳を塞いでいるようなざまで「橋渡し役」など務まるものか。起きろ、目を覚ませ-その声に力を込めたい。もっと大きく、粘り強く。(智)

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