<社説>河井案里議員に有罪 「政治とカネ」不信拭えず

 地元議員に「陣中見舞い」などと称して現金を配った行為は、選挙買収だったと認定された。2019年7月の参院選を巡り公選法違反の罪に問われた参院議員河井案里被告に、東京地裁は懲役1年4月、執行猶予5年の判決を言い渡した。 案里被告側は夫の元法相で衆院議員の克行被告が地元の県議や首長ら計100人に現金計2900万円を配ったとされる。判決では、そのうち地元議員4人に配った計160万円について案里被告が克行被告と共謀して票の取りまとめなどの報酬として提供したと認定した。

 民主主義の根幹である国政選挙をゆがめたとして、元法相である夫と共に国会議員夫妻が逮捕されるという前代未聞の事件だ。

 夫妻は自民党を離党したが、今も現職で月額100万円超の歳費や年2回の期末手当など多額の国費が支払われている。事件後は国会を長く欠席し、議員の職責を果たしているとは言えない。

 案里被告は国会議員を辞職すべきだ。案里氏を支援してきた安倍晋三前首相や菅義偉首相の責任も問われる。丁寧な説明なくして「政治とカネ」への不信は拭えない。

 同選挙は自民と野党系の2人の現職との三つどもえで争われた。自民県連が現職を支援し、情勢が厳しい中、当時の安倍首相、菅官房長官は案里氏擁立を決め、自ら複数回応援に入った。党本部は現職の10倍もの計1億5千万円の資金を案里氏側に提供した。

 公判で案里被告側は現金は陣中見舞いや当選祝いだったと主張した。しかし地元議員らは「票集めを求められたと思った。表に出せない金で違法だ」などと述べ、案里氏側が領収書の受け取りを拒んだり、事後に口裏合わせを持ちかけたりしたと証言した。

 案里氏は、車上運動員に違法な報酬を渡した公選法違反で公設秘書の有罪がすでに確定している。広島高検が連座制適用による当選無効の訴えを起こしている。いずれかの訴訟で検察勝訴が確定すれば案里氏は失職するが、控訴・上告している間は国会議員の地位は保たれる。

 案里氏擁立の立役者だった菅首相から詳しい説明はほぼない。河合夫妻のほか鶏卵生産業者からの現金受領で吉川貴盛元農相が、IR汚職で秋元司元衆院議員が起訴され、4国会議員が起訴される事態となった。安倍首相の桜を見る会前夜の夕食会費補?(ほてん)など「政治とカネ」の問題について首相と党が説明責任を果たす必要がある。

 一方で、現金を受け取ったと認め、授受を生々しく証言した地元議員らに刑事処分が今も出ていない。処分がうやむやでは議員らが刑事処分を免れるために検察に有利な証言をしたのではないかとの疑念も生まれる。捜査への信頼が揺らぐことのないよう検察側は事件の全容解明と関係者の処分を行うべきだ。

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