乳がん隠してきました・・・がん患者が傷つく『言葉』とは? 【がんを取材してきた私たちが乳がんに②】 46歳、両側乳がんになりました66

検査・告知・手術・仕事復帰・・・誰かのお役に立てればと綴ります。

いつもお読みいただきありがとうございます。発売されたばかりの本『がんの記事を書いてきた私が乳がんに!?~育児があるのにがんもきた~』の原作者、藍原育子さんとの患者トークの続きです。(その1はこちらで。)

私たち、お互いのことを知らずにお互いのこと気にかけてました

藍原さんはがんなどの医療記事を中心に執筆活動をしている編集・ライターさん。
『取材していたがんになった』、いわば私と同じ思いを感じていた方の一人です。

私は両側乳がんでした。手術の前日にエキスパンダー(一時的に入れる乳房を広げるシリコン製のもの)とインプラントが(アメリカで自主回収)止められました。エキスパンダーを入れる一次再建手術を希望していましたが、がんの摘出だけ行い、同時再建手術は手術中止となりました。そのときによぎったのは、入っている人ってどう思っているんだろうと。入院しているときに、異時性の両側乳がんの方がいらっしゃって前にり患した側にインプラントが。『私はまだ入ってないけど、入っている人不安だろうな。』と。今回、本を読みまして、藍原さんはその自主回収されたインプラントが入っていた方なんだと気がつきました。

(※2019年の7月、日本で保険適用されていた人工乳房・インプラントが悪性リンパ腫の発症リスクがあるとして自主回収に そのときのお話はこちら

あ:『最初、聞いたときどう思われましたか?』

藍:『新聞で見たんですけど、私には関係ないだろうと一回閉じて、また見て、何回か繰り返して・・・確実に関係があったんですね。あ、これ告知と同じ心の動きだなと思って。一回なかったことにする。でも大丈夫とフタをする・・・。でもサイレン鳴り続けているから、調べて、不安になって・・・。結局病院に問い合わせて、該当者全員MRIを受診するよう言われました。(リンパ腫の発症)確率は数字を見ていたのでそれほどの不安ではありませんでした。インプラントは自分の一部になっているので、意識することがほとんどないんです。プールに入ったときに浮力で違和感を感じるくらいで見た目もほとんど変わらなくなってきていました。』

藍:『でも、こういう報道に触れるとやっぱり私はインプラントが入っている人だと思い知らされるというか、忘れようとしていたことがまた来ちゃった、と。逆にこれから手術する人はどうなるんだろうと。阿久津さんとは逆で、離れたところにいながらお互いを思っていたというか、きょう手術する人いるだろうとMRI受ける日に思いました。大変なことでしたよね。』

MRIが苦手だった藍原さん。看護師さんに励ましてもらいながらインプラントを入れた胸の検査に臨んだそうですが、一度、MRI画像に影があると指摘を受けました。

藍:『それがショックで。これまで同時再建してエキスパンダーも乗り越えてインプラントに入れ替えてようやく普通の生活に戻ってきた今、ここでとりますか?と。』

”いのちが助かるのなら”など摘出を考えた段階もあったそうですが、その後の検査で結果は良性腫瘍。現在は経過観察だそうです。その前後の心の動きを想像すると私も胸が痛くなります。

藍:『この先も半年に一回みていかなくてはいけないし、がん患者だなと、100%忘れては生きてはいけない。つきあっていく病気、つきあっていかなくてはいけない病気。それを抱えて、でも恐怖にのみこまれないように正しい情報を得ていくのはしんどいぞ、なかなか一人ではしんぞいぞ、と。精神腫瘍科に何回か通って、今の気持ちまで来たので、なかなかひとりでは立て直せなかったですね。』

藍原さんの本の帯には『手術したら終わりじゃない、そこが患者のスタートだった』と書かれています。私も同じ気持ちでドキュメンタリーを作りました。ほとんど世の中では言われてないと思いますが、精神腫瘍科の先生は『手術したら終わりじゃない、そこが患者のスタート』、そう患者さんに伝えているそうです。

本音トーク ”たたかう”という言葉が嫌い!

あ:『私はここから(タモキシフェンなど治療が)長い。10年長いんですけど、これ10年やります?まだ8年2か月ありますけどみたいな感じです。』

藍:『病気と闘って勝って、克服してとか・・・』

あ:『その言葉大きらい!』

藍:『そもそも闘って勝てるだけの病気じゃないわけじゃないですか。身体の病気だって、心の病気だって。それを勝てと言ってしまう側の知識のなさと心身の健康さ加減にイラっとくる。』

あ:『わかりますねえ、闘えないよ、と。』

藍:『闘えないです、つきあっていくのが精いっぱいで。負けないようにするのでギリギリの路線で。がんの報道があるたびにいろんな角度から傷つく患者さんが多いのではないかなと。例えば、克服して大きなスポーツ大会で活躍しました。復帰しました。それは表層をみればそうかもしれないけどそこの言葉にできない、いろいろなもののがあるんだけどそこだけ聞いてしまうと周りの人が、”〇〇さんだってのりこえたじゃないの”とか”治る治る初期なんだから。”とか。そういう表層だけみて言葉を出さないでほしいなと。それで傷つく人がとても多いのではないかと。』

がん患者が傷つく”言葉”とは?

藍原さんの今回の本は”こころの問題”に大きく迫っています。私自身、がん患者の心のケアが一番足りていないサービスだと思っています。がんになると悩みます。(閉経前の)ホルモン受容体陽性患者さんの治療薬、タモキシフェンでのうつ病などの副作用発症は見解が得られていませんが、向精神薬も一緒に服用されている方もいらっしゃるのが現実です。病気と一緒に生きていく中での精神的な負担を和らげればもっと働けるし、活躍できるし、社会に貢献できるのではないかと考えています。

藍:『”がんとともに生きる”とか”2人にひとりががん”ってキャッチーでいいんですけど、それより、心の問題にもっと関心を持ったり、そこをケアしようと患者自身も思う方が大切。つらいのは私の甘えだとか気のせいとか気持ちを封じ込めるんじゃなくてつらいには理由がある、と。ココロがつらいんだったら、精神腫瘍科や精神科のカウンセリングなど専門家につながるべき、是非つながってほしい。』

がんということを隠していました

藍:『取材でいろいろ患者さんにはつながっていたけれども、患者になったときに一切つながろうとしませんでした。同病の人には話していましたけど、ほとんどの人に隠していました。実名で堂々と活動されている方に、卑屈になっていたのか、すごいですねって思って・・・。でもその一人で抱え込んでいたことがココロのバランスを崩していったのです。そういうひとたちに今すぐじゃなくても精神腫瘍科ってあるよ、とか心がつらいときは、頼っても恥ずかしいことでもなさけないことでもないよ、という言葉をおいていきたい。日本はこころの問題が粗末にされているというか、気合で乗り切るイメージ。つらい人がたくさんいて、だから”自分もつらくて当然”じゃなくてつながるべき場所が絶対あるから、情報だけでも片隅にいれてくれないかな、と。』

毎回、がん相談室の前をとおって、乳腺科にいくけれど、相談室に入ったことはなかったという藍原さん。情報もあって、場所もあるのになぜいかない、とシステムを作った人はいうかもしれないけど、そこで閉じこもってしまう患者の気持ちも組みとってほしい、待ってほしいとも話します。本の中には、藍原さんの悩みながらも心が解けていく瞬間が丁寧に描かれています。

藍:『ひとりじゃないから、ひとりよりはつながったほうが楽になる。細いロープでいいから見つけてほしいと思う。アツくなってしまいました(笑)』

『キャンサーギフト』という言葉も苦手です。

これからどうしていくか、私が一番よくきかれる質問。藍原さんにもしてみました。

藍:『経験したくなかったけど経験してしまったので災害でも病気でも経験した人でしか出てこない言葉はあるよね、と。それをキャンサーギフトとはいいたくないんですけど(あ:そこも同意です!)経験してしまったのだから今こうしてお話しているように、絞り出てくる言葉は大事に発信したい。啓発なのか、患者支援なのかははっきり見えていないけど携わる何かをしたい。苦しい、つらいとひとりで抱えている人に文章で背中を置く、背中をささえるくらいのことかもしれないのですが。ひとりじゃないから、子育ての視点でも支えられる文章、情報、知識を発信できたらいいな。』

お話が合いすぎて、あっという間でした。本は漫画とコラムの組み合わせです。とにかく内野さんの漫画、情景描写が素晴らしいです。藍原さんも何もいわなくても、そのシーンをどこかで見ていましたか?と思うくらいの再現度で驚いたそうです。

映像でドキュメンタリーを作っていた私が印象的だったのは、乳房再建のお話のところです。再建の方法の図説や再建した人のお話などはしていましたが、患者さんにお胸を見せていただいたりしたところは映像がなく、撮影できていなかったので描けなかった部分でもあります。

(※北海道にも乳房再建体験者によるピアサポート倶楽部 「re-breast」など乳房再建についての知識や実際に体験したひとのお話を聞ける場所もあります。)

私も手術後に病院にお見舞いに来てくださった先輩患者さんに見せていただいたことがあります。その映像化は私にはできなかったので、本当は知ってほしいこと。漫画だとマイルドに受け止めやすいというか、漫画ならではだなと思いました。今の実例として是非、見てほしいなあと思います。

様々な患者さんや先生を取材したからこそ、伝えたいこと。これまで伝わっていなかったことを伝えたい、という思いが本には込められています。書かれているエピソードは様々。こうして患者生活を続けていると”あるある!”ということばかり。共感することも、違うんだな、と思うこともあると思いますが、読み終えると、”ひとりじゃないんだな”と感じていただけるのではないかと思います。

藍原さんの『がんの記事を書いてきた私が乳がんに!?~育児があるのにがんもきた~』【発売元:KADOKAWA 著者:内野こめこ(漫画)藍原育子(原作)】発売中。詳しくはこちら:コミックエッセイ劇場 コミックエッセイ劇場をご覧ください。

対談の模様は・・・
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