レトロ雑貨や老舗喫茶。想いの詰まった店舗が並ぶ高円寺ルック商店街

70年以上も続く「なんでもある商店街」

野菜を買いたい、新しい靴が欲しい、どこかで外食したい……。そんなふうに考えたとき、みなさんはどこに行きますか? たとえば今なら、大型デパートに行けばすべてがその場で揃うでしょう。

1951年に始まった東京・高円寺の「映画館通り商店街」は、まさに大型デパートのような“生活に必要なものが揃う場所”でした。名前のとおり映画館もあったので、娯楽の場としても賑わっていた場所だったそうです。

1962年、このエリアに商店街組合が発足し、のちに現在の「高円寺ルック商店街」が誕生しました。時代の流れとともに店舗の種類も変化していますが、「なんでもある商店街」のDNAは今も受け継がれています。

郵便局や薬局、歯医者もあれば、古着屋、雑貨屋やカフェ、居酒屋、ギャラリーなど、通りを歩くと種類の多さを実感できるでしょう。

歩いて感じる建物の歴史

高円寺ルック商店街は、JR高円寺駅と地下鉄新高円寺駅の間にあり、全長600メートルの場所に170近い店舗が軒を連ねています。

新しい店舗でも、建物自体は江戸時代に多く見られた長屋の造りになっていて、外観から歴史が感じられる場所もあります。長屋とは、複数の家が横に連なり壁を共有する建物のこと。1つ1つの店舗がコンパクトに並んでいる様子は、まさにデパートのようでもありますね。

「なんでもある商店街」には、具体的にどんなお店があるのでしょうか。昔ながらの日本が感じられる、オープン10年未満の店舗から80年近く経つ老舗にまで足を運びました。

1.レトロでポップな雑貨が可愛い「グランプリーズ」

こじんまりとした店内に、古着やレトロ雑貨、駄菓子にハンドメイド商品まで幅広い種類の商品がぎっしり。2014年にオープンした昭和レトロ雑貨&古着屋「グランプリーズ」です。

店長のオオムラさんは学生のころから高円寺に通い、古着屋を巡ったりレトロ雑貨を集めたりしていたそう。

「どうしてこのお店を開いたのでしょうか?」オオムラさんへ聞くと、まるで運命として決まっていたかのように「これしか考えられなかった」と話してくれました。

お店は黄色い屋根が目印。マネキンやカプセルトイ、ポップな色合いの古着が店頭に並んでいます。買いつけるときのポイントは「おもしろい」と感じたもの。まさにオオムラさんの世界観が表現されているようです!

古着はワンピースが2,800円、メンズもののシャツも1,800円から販売。グランプリーズオリジナルの服もあります。試着室もあるので、気になったものは実際に着てみることもできますよ。

アンパンマンやスヌーピーなど、キャラクターものを買いに来る海外のお客さんも多いのだとか。「これからも、いろいろな国の人に来てほしいです!」と元気に話してくれました。

また、現役アーティストのハンドメイド商品などを販売している点もポイント。マスキングテープやぬいぐるみ、アクセサリーやレコード盤でリメイクされたバッグなど、新しく作られた商品ですがレトロ感のあるものが揃っています。

商品を眺めていると、懐かしいマスコットを見つけました。写真左のピンクのゾウは、製薬会社のマスコット・サトコちゃん。以前は薬局前に置かれていることが定番だったのです。

薬局の前ではあまり見かけなくなってしまったな、と商店街を歩いていると……

商店街にある「フヂヤ薬局」の店頭にありました! 次はここを訪れてみましょう。

2.約90年の歴史をもつ「フヂヤ薬局」

フヂヤ薬局は1933年から始まった老舗の薬局です。建物は、大きな西洋風の一軒家。なんと大正時代に建てられ、1923年の関東大震災や、1945年に終戦した第二次世界大戦を経ても壊れずに残ったというから驚きです。

お店にいるのは薬剤師の小西さん。以前は病院で働いていましたが、結婚を機にご主人の稼業であるフヂヤ薬局を一緒に継ぐようになったそう。おひとりになった今でも続けられている想いを聞くと、「必要としてくれる方がいる限り、安心して来れる場所を守りたい」と話してくれました。

海外からのお客さんが来た場合は、簡単な英語やジェスチャーで症状を聞いて、薬を提案していると言います。また薬のほかにも、絆創膏や洗剤などの日用品も販売しています。

外には自販機もありますが、小西さんに声をかけてタバコを買う人が多くいました。ほかにも買い物ついでにおしゃべりして帰る人もいて、小西さんがお店を続ける理由を実感します。

3.安心・安全な食と空間を提供する喫茶店「七つ森」

フヂヤ薬局から道路をはさんだ斜め向かいの喫茶店「七つ森」も、歴史が感じられる場所。以前はお茶屋さんだったという建物の造りに興味をもったことから、ここを借りて1978年にオープンしたそうです。

喫茶店を始めた経緯を聞くと、当時の時代背景が影響しているとオーナーは言います。

「1960年代から70年代にかけて高度経済成長がきて、街は活気づいていきました。しかし経済の発展とともに公害が多発し、環境問題が深刻になった時代でもあったのです」

健康被害が騒がれる中、自分にできることを考えてたどりついたオーナーの答えが、喫茶店を開くこと。口に入れても安全な食材を使ってメニューを作ることで、安心して集まれる場所を目指したと言います。

オーナーの想いは変わることなく、メニューは今もすべて手作りです。カレー(※)もルーから作っており、そのオリジナルさからカレー屋と間違われることもあるのだとか。商店街の組合の方がオススメするカラメルたっぷりの固めのカスタードプリン(税込625円)は、創業当初から変わらない味を保っています。

店内のインテリアは、1955~1965年ごろの昭和の時代をイメージして集めたもの。落ち着いた赤色の椅子やぬくもりのある電球の明かりが、居心地のよさを作り出しているよう。

創業したころの時代は、飲食店など女性が1人でお店に入りづらい雰囲気があったとオーナーは言います。だからこそ七つ森では、誰でも気軽に入りやすい癒しの空間づくりを意識したそうです。

「当時はインターネットも無く、情報を発信する手段が限られていたので、お店を覚えてもらう工夫もいろいろと試してきました」

創業から変わらず残っている工夫のひとつが、メニューの値段を5円の端数にして、おつりの5円玉にリボンをつけて渡すこと。お客さんとお店にまたご縁がありますように、という願いもこめられているのだそうです。

4.味で語る中華料理店「天王」

1984年、安価で提供する食堂のような「町中華」が流行った昭和に「天王」も誕生。1999年に今の店主に引き継がれました。

窓にも似た入り口の扉を開けるのは、初めての方にとって少し勇気が必要かもしれません。しかし1度、寡黙な店主・小俣さんが作る料理の味を知ったら、また訪れたくなってしまうことでしょう。

店内は奥にテーブル席が2つ、手前にカウンター席があります。テーブルにメニュー(日本語)があるので、好きな席に座ったら食べたいものを選んで注文しましょう。

小俣さんは名門の調理師専門学校を卒業後、高級中華料理店で働いたあと、前の店主に誘われ天王で働き始めました。「味の研究をずっと続けている」という小俣さんが生み出したメニューが、名物の生姜醤油ラーメンです。

もっちりとした歯ごたえの麺。さっぱりしているのに、味がしっかりと染みこんでいるスープ。複雑な作り方があるのかと思い聞いてみると、「基本の作り方を忠実に守っているだけ」なのだそう。出汁も生姜・醤油・豚の3種類のみで作っていると言います。

お客さんから「この世で一番おいしい」と言われたこともあるチャーハンも人気メニューのひとつ。しかし小俣さん曰く「チャーハン作りはすごく難しい。まだ修行中」とのこと。おいしさを追求するこだわりが感じられます。

チャーハンは、具材やご飯を入れるタイミング、さらにはその時の身体のコンディションまでもが味に影響してくると小俣さんは言います。料理は体力勝負。なんと、毎日100回も腹筋をしているそうですよ!

基本の味を、当たり前においしく作る。シンプルで飽きの来ない味わいだからこそ、お客さんが後を絶たないのでしょう。

人々の想いがたくさん詰まった商店街

「ルック商店街は個人店がほとんどです。50年以上も続く老舗や、“自分のお店を出したい”という夢を叶えた方が経営していることが多く、こだわりや想いをもってお店を営む店主さんばかり。お店の種類も豊富で、『これが特徴』と表現するのが難しいんです」

そう組合の方が話すとおり、紹介した店舗のほかにも、科学と芸術をテーマにした「Uptown Koenji Gallery」やカフェ「Cafe & Bar Blue MOON」、プレゼントにもぴったりなアイシングクッキー店など、いろいろなテーマの店舗がありました。

また、商店街ではスマホ決済にも積極的に取り組んでいます。大切なことは守り続け、変化することを厭わない嫌がらない商店街の活動が、お客さんや出店を希望する方が集まる秘訣なのでしょう。

「なんでもある商店街」は、モノだけではなくさまざまな人の想いもある、個性あふれる商店街でした。

In cooperation with 新高円寺通商店街振興組合、グランプリーズ、フヂヤ薬局、七つ森、天王

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