『おもいで写眞』遺影撮影者の成長物語

(C)「おもいで写眞」製作委員会

 熊澤尚人は、職人的な器用さがあるせいで損をしているが、『おと・な・り』『君に届け』、あるいは『虹の女神 Rainbow Song』といった青春・恋愛映画のジャンルでは秀作が多い。今回は彼が9年間も温めていたオリジナル企画だけに、強い思い入れも伝わってくる。東京で夢破れ、祖母の死をきっかけに故郷に戻って遺影写真を撮る仕事を始めたヒロインの成長物語だ。

 確かに、遺影写真を“おもいで写真”と言い換える発想の転換は秀逸なアイデア。さらに、つっけんどんで愛想のないヒロインは、29歳にしては未熟ながら、登場時に未熟なほど成長が際立つし、それ以上に、分かりやすいキャラクター設定にしたことで、無駄なセリフを極力排した映画的な語り口を実現させている。

 嘘が嫌いで融通の利かない性格には、さすがにイライラさせられるものの、最後には伏線としてしっかり回収されるばかりか、成長物語として我々観客が彼女に乗っかる一助にもなっている。もちろん、等身大のヒロインがなぜだかやたらと似合う、主演・深川麻衣の貢献も少なくない。基本となるのは、遺影を撮る高齢者との交流だが、恋愛要素もしっかり入っているので、老若男女を問わず幅広い層に響く青春映画に仕上がっている。熊澤監督の「青春映画の名匠」という称号は、ダテじゃない! ★★★★☆(外山真也)

監督:熊澤尚人

出演:深川麻衣、高良健吾、香里奈、井浦新、古谷一行、吉行和子

1月29日(金)から全国公開

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